第5話 妹召喚も悪くない

  エルヴァリースに召喚されて随分経つが、こっちの世界にもだいぶ慣れてきた。

 1日の回数制限があるため、あまり呼ばれる事は無いけど魔物との戦いにも慣れてきていると思う。


 岩の魔物と戦ってから1日。

 エルン達は湖のほとりで休んでいる。

 皆んなを前にベリーがどうしても説明したい事があると言う事で由衣と一緒に召喚された。


「まず、お兄様についてです。 お兄様がお菓子を持って来てくれたので由衣さんまでも召喚出来たという事はわかりましたが、何故、由衣さんまでも強いのでしょうか?」


 ベリーの問いかけにエルンが答える。


「剣児様と同じ異世界から召喚したからでしょうか?」

「それだとこの間お兄様が持ってきてくれたポテチとやらは私達では食べれない位に強度がある事になってしまいます」


「う〜む…」

 俺もそうだが皆んなも頭を抱えて悩んでいる。

 シャムだけはどうでも良い顔してるけどね。


「そこで私はある仮説を立てました!」

「仮説?」

「はい!宝珠で召喚されたお兄様、宝珠が分裂した事で私達の想いも分けられて、由衣さんに当てはまる想いがあったのかも知れません」

「なるほど」


 確かに想いの力で召喚出来るのだから、由衣にも想いの力が働いたと考えても不思議じゃない。


「由衣さんに当てはまる想いはわずかでも、お兄様と一緒なら召喚も出来るし、お兄様に近い力を持っていてもおかしくは無いです」

「なるほど……」

「それとラミュさんに昨日もう一度宝珠が出来ないかやって頂いたらなんと宝珠が増えました」


「え!」

「ただ、ラミュさんの宝珠は今までと違っていまして、赤色と青色が綺麗に分かれている模様なんです」


 他の宝珠は虹色のようにキラキラしているのに対してラミュの宝珠は綺麗に半分に分かれている。


「なんでこうなったんだ?」

「また憶測になってしまいますが、由衣さんとお兄様が関係しているかと思います」

「わたしも!?」

 由衣は自分も関係していると聞いてびっくりしている。


「ラミュさんはお兄様も由衣さんも好きってことですね」

 それを聞いた由衣はラミュに私も好き〜と言いながら抱きついている。


 ちょっと羨ましい……。

 そんなこんなで時間になり一瞬自分の部屋が見えた瞬間にまたベリーの前に戻ってきた。


「連続での召喚もだいぶ出来る様になりました」

 確かにこんなに早く連続で召喚されるのは初めてだ。

「お兄様、体に負担は無いですか?」

「ああ、大丈夫」

 由衣も連続で召喚されたけど、どうやら大丈夫そうだ。


「ではお兄様、ここに立ってください」

 そう言われて湖の前に立つ。

「行きますよ〜!ラミュさん!」

「はいっ!」

 ラミュが俺に目がけて大岩を投げつけてきた。

 急な事で反応出来ず、俺は大岩と共に湖に飛ばされた。


 ドバッ!


 鈍い音と共に沈んで行く…。

 あれ?まって…。

 俺泳げないんだけど…。

 光り輝く水面がどんどん遠くなって行く…。

 あ、死んだな〜これは…。

 無駄に覚悟を決めてゆっくりと底に沈んで行く…。

 底に着いたのか沈みが無くなった。

 何か柔らかい物に包まれて、口に酸素が送られてくる。


 バシャ!!


「おい!しっかりしろ!」

 頭がガクガクと揺さぶられる。


「ん…」


 目の前にはライムスの姿がある。

「あれ?ライムスも溺れたのか?」

 ぼーっとライムスの顔を見ていたら、突然頬を叩かれる。


「あ、あれ? 確か湖に沈んだはずでは…?」

「まったく!無茶しやがって!」

 ライムスに引っ張られて岸まで戻ってきた。


「お兄様ごめんなさい〜!」

 泣きながらベリーが抱きついてくる。

「大丈夫ですか?剣児様?」

 エルンも心配そうに見てくる。


「お兄ちゃん!」


 由衣は俺が泳げないのを知ってるので、湖に落ちた時は慌てたらしい。

 ラミュはシャムにめっちゃ怒られてシュンとしている。


「あ、あの、剣児さんごめんなさい」

「大丈夫、大丈夫」

 俺は精一杯の強がりをして見せた。

「剣児〜心配したんだよ〜」

 半べそになってシャムは抱きついてくる。

 シャムをなだめて、ライムスを探す。


 ライムスにお礼を言わないとな。

 岩陰にライムスの長い髪が見えた。

「ライムス!さっきはありが…と……う?」


 !!!


 ライムスは俺を助けるために、鎧を脱いで飛び込んでくれたのだろう。

 濡れた体はちゃんと拭いとかないと風邪引いちゃうからね。

 うん。

 体は拭き終えてた様だね。


 ライムスはまだ服を着ていなく、下着もまだだった。

 いや、丁度下着を履いている所だから見えてないよ。

 上の方もラミュやエルン程ないからちゃんと髪の毛で隠れてるし…。


 うん。


 由衣ごめんよ。

 お兄ちゃん死んだかも知れない…。

 すぐさま岩陰に入って、ライムスに謝ってみた。

「ご、ご、ごごめん…なさい…」


 ………。


 ライムスからの返事は無い…。

 着替えも終えてライムスが正座している俺の前に立つ。


「…剣児…」

「はいっ!」


 名前を呼ばれてビクッとなる。

「今回は見逃してやるから、無茶はするな」

「え?」

 それだけ言うとライムスはエルンの元へ戻って行った。


 俺達も部屋に戻ってきた。

 何やら由衣がエルン達に話があるらしく、もう一度召喚してもらう様に頼んだらしい。


 夕飯前、由衣は自分の部屋でバタバタと慌ただしくしている。

 そして召喚の時間になった時、由衣は大荷物でエルヴァリースに召喚された。


「お待たせしましたー!」


 由依がエルン達に持ってきた荷物を広げて説明している。

「なぁ由衣、何持って来たんだ?」

「お兄ちゃんはあっち行ってて!」

「そうです。お兄様は向こうで遊んでて下さい」

「剣児様申し訳ありません」

「剣児、楽しみに待っててね〜」

「私に似合うのでしょうか?」

「私は無理だ!」


 何やらワイワイと楽しそうに話している。

 こういう時男1人は寂しい…。

 1人寂しく石で水切りをしている間に話は終わったようで、部屋に戻ってきた。


 由衣は楽しそうにテンションが高い。

「明日が楽しみだな〜」


 何がだ?

「お兄ちゃんには明日までナイショだよ〜」


 くっ!


 ションボリしている所を見せても由衣は気にせず部屋に戻って行ってしまった…。

 明日は何があるんだ?

 夕飯時、お風呂、寝るまでずっと考えていたが分からなかった。


 次の日


 召喚されたのは昨日と同じ場所。

 違うのは皆んなラップタオルの様な服を着ている事だ。

 由衣もちゃっかり着替えている。

 由衣が内緒と言って張り切っていたのは皆んなで水着を着て湖で遊ぶ事だった。


「では紹介して行きます!」

 テンションの高い由衣がエルンを俺の前に立たせる。


「まずはエルンさん。 水着はトライアングルビキニ! 胸のあるエルンさんはやっぱりビキニが似合うよね」


 せやな。


 ボリュームのあるバストとくびれている腰には目がどうしても引き寄せられる。


「あ、あの、あんまり見ないで下さい」

「ご、ごめん」

 ………。


 お互い無言になった所で。


「はい、次はライムスさんです!」

「ちょ、私は良いって!」


 由衣に腕を掴まれてグイグイ俺の前まで連れてこられている。


「ライムスさんの水着はオフショルダービキニです。 ライムスさんの見事な腹筋が映えますね」


「ばえ?」


 ライムスは剣を扱うだけあって流石筋肉はある。

 でもそれが逆にセクシーさを出しているな。

 しかし、見事な腹筋だ。

 思わずジロジロと見てしまう。

「おい!あんまり見るんじゃない!」


 おへそを手で覆う様に隠している姿がまたいい…。


「お次はシャムさんでーす!」

 由衣もだんだん乗り気になってきている。


「剣児どうだい!」

 シャムは俺の前でポーズを決めてくる。

「シャムさんの水着はショートパンツビキニです。 動きやすさとセクシーさを出したシャムさんにピッタリな水着です」

 スレンダーボディのシャムにはショートパンツが似合う。

 ちょっと片側だけショート過ぎる気もするが、それもまたセクシーでよき。


「似合ってるよ」

「剣児〜」


 甘えた声で抱きついてくる。

 いつもの事でも、水着の時は遠慮してほしい。


「はいはいー」

 シャムは由衣に引き剥がされてベリーがやってくる。


「ベリーちゃんの水着はスクール水着タイプ。 凹凸の無いベリーちゃんにピッタリな水着です」

「由衣だって無いじゃないかー!」

「私は少しはあるもん!」

「私だって大人になればエルン様位にはなるし!」

「わ、私だってエルンさん位にはなるんだからね」


 エルン大人気。


 ただ二人の言い争いなのにエルンが胸を隠して真っ赤になってるな。


「はいはい、そこまで」

 二人を引き離して、由衣にも聞いてみる。


「由衣の水着はどんなタイプ?」

 とりあえず話をエルンからそらして聞いてみた。

「由衣のはビスチェタイプの水着〜。 胸元のフリルが可愛いでしょ?」

「そうだな」


 健康的な由衣に似合っている水着だ。


「最後はラミュさんでーす! ラミュさんの水着はハイネックビキニです。 ラミュさんのグラマラスな体型も隠せるみず…ぎ……」


「「す…っご!!」」

 由衣と言葉が重なった。


 いつもだぼだぼのワンピースを着ていたから胸あるな〜位には思っていたけど…、これほどとは…。

「エルンさんより大きいなんて…」

 ラミュの事が好きな由衣もこれにはびっくりしている。

 俺もびっくりだ。

 ハイネックだから胸元は隠れているが、下乳が…。

 由衣がラミュに何か聞いている。

 由依が俺の耳元でラミュに聞いてきた事を話す。

「ん〜とね、いつもは動きづらいから布で巻いてるんだって…よ…モゴモゴ…」

「わああぁぁぁ!」


 走ってきたラミュに俺は蹴り飛ばされ、口を押さえられてしまった由依だが、時すでに遅し。


 しっかりと聞かせて頂いた。


 サラシしてるのかぁ、確かにあのボリュームじゃ戦えないだろうしなぁ…。


 そんな事を考え空を仰ぎ、もう一度湖に沈んで行くのだった…。


 全員の水着を見せて頂いて部屋に戻った俺は、せっかくなので、俺も水着になる事にした。

 戻った時に由衣になんで水着?と聞いた所。

「泳げそうだったし、新しい水着もお披露目したかったからね」

 と言う事らしい。


 せっかくなので、皆んなにもこっちの水着を着てもらいたかったので、水着のカタログを持って行ったようだ。

 この間の大荷物はそう言った物が入っていたようだな。


 こっちから水着を持って行くと時間になったら皆んなすっぽんぽんになってしまうので、近くの村で作ってもらったらしい。


 次の召喚が近づいてきた。

 

 いざ、皆んなの水着のもとへ!じゃなかったエルヴァリースへ!

 召喚された時は既に各々遊んでいる。

 エルン、シャム、ベリーは湖で楽しんでいる。

 

 ライムスは水中で魚を取っているらしく、ラミュは岸辺で座っている。


 早速由衣もエルン達に加わり楽しんでいる様だ。

「ラミュは泳いだりしないの?」

  岸辺で座って皆んなを見ているラミュに聞いてみた。


「私はちょっと…」

「あれ?ラミュもしかして泳げない?」

「いえ、多少は泳げますけど、その…」

 ラミュの言葉を遮る様にライムスの声が響き渡る。


「急いで岸に上がれー!!」


 湖に潜って魚を取っていたライムスが急いで泳いでくる。

 ライムスの後ろから何か迫っている。


 ドバァ!


 水中から出てきたのはでっかいイソギンチャクの様な魔物だ!

 エルン達は岸に上がったが、ライムスはまだだ。


「うわあぁぁ!」

 ライムスの足がイソギンチャクの触手に捕まった!


「ライムスー!」

 エルンが叫ぶ!


「お兄ちゃんどうしよう?!」

 くそ、俺が泳げれば…。


「剣児ー!剣を投げろー!」


 確かに俺ならライムスまで剣を届かせられる。

 急いで馬車まで剣を取りに行き。

「受け取れー!」

 ライムスに向かって剣を投げる。

 俺の投げた剣はライムスまでは届いた。 

 が…。


 ボチャン。


 投げる力とコントロールは別物でした。

「バカー!!」

 ライムスが何か叫んでるけど聞こえないなぁ…。


「きゃあーー!!」

 岸までイソギンチャクの触手が伸び、エルン、ベリー、由衣までもが捕まった…。


「くそっ!」

「ニャアアアァ!」

 シャムが鋭い爪で触手に襲い掛かる。


 つるーん。


 触手の粘膜に阻まれ、シャムの爪が通らない。

「にゃああ!剣児〜!」

 シャムも捕まった…。

 こうなったら一か八かイソギンチャクまでジャンプして一刀両断するしかない。


 俺が剣を持って走ると、先にラミュが飛び出した!

 湖に飛び込みラミュが泳いで行く。

 犬かきで。

「きゃあぁぁ!」

 ラミュも捕まった…。


 もう一か八かで行くしか無い!

 助走をつけて走る。


「バカー! こっちくるなー!」

「見ないで下さいー」

「ぬるぬる気持ち悪いよー」

「剣児助けてー♡」

「お兄ちゃんきちゃダメー!」

「剣児さん来てはダメですー!」


 何か各々叫んでる。


 魔物を倒す為、イソギンチャクの本体しか見ていなかったので、皆んなの方を見ると…。

 触手が皆んなの水着を剥ぎ取ろうとしている。


 エルンは既に上を剥がされ、ライムスの水着の中に触手が入り込み、ベリーの水着を剥がそうとウネウネ触手が絡みつき、シャムは上は剥がされショートパンツにまで触手をかけられている。

 

 由衣は力で耐えているようだ。

 ラミュは上も下も触手が入り剥がされそうになっているが、触手に噛み付いている。


 あ、これ見ちゃダメなやつだ。

 でも時間切れになるのはまずい。

 皆んなの宝珠は馬車の服の中。

 戻ってしまったら助けられない。


 ブチンッ!


 ラミュが牙で噛み切り脱出に成功した。

「剣児様!」

 ラミュが腕を胸の前で組んでいる。

「おう!」

 ラミュの腕に一度着地して切りかかれば間違いなく切れる!

 触手がラミュに迫る。

「うおおぉぉ!」

 思いっきりジャンプし、ラミュの腕に着地する。

 ラミュの腕を振るう勢いと俺のジャンプする勢いでイソギンチャクの魔物は一刀両断された。

 部屋に戻ってきた時、俺は切った構え、由衣は触手から水着を守っている形で帰ってきた。


 由衣も水着から着替えを済ませ、今一度召喚。

「お兄様」

 肩をポンと叩かれ、振り向くとベリーの姿。

 顔は笑っている。

 ライムスは下を向いているので顔は見えないが、既に剣は抜き身となっている。


「剣児様」

 エルンの顔もにこやかだ。

「私達の、その、見ましたわよね?」

「は、はは…」

 色々見ちゃいけないものを見た気はするが、あれは不可抗力だと思う。


「ご、ごめんなさい」

 エルンの笑顔は崩れない。

「問答無用ですわね」

「剣児に責任とってもらわなくちゃ♡」


 シャムは抱きついてくる。

「記憶無くなるまでぶん殴る!」

 ライムスの剣を避けながらダッシュで逃げる。

 エルンの指揮は的確で、ベリーが魔法を放ち、避けた所にライムスの剣が飛んでくる。

 抱きついているシャムを引きずりながら交わしてはいるが、時間の問題だ。

 岩場の影にラミュの尻尾が見える。


「ラミュ!助けてくれ!」


 岩場を飛び越え、着地の場所が悪かった。

 ラミュとぶつかり押し倒す形に。


 ラミュはまだ体毛が乾いていないようで、服を着ていない。

「あ、えと、これは、その、ご、ごめ…」


 じわぁ


 ラミュの目に涙が溜まっていく。

 そして謝る前に俺はラミュの投げた投石と共に湖に沈んで行くのだった…。


 ラミュの毛をとかしていた由衣も一部始終を見ているので、部屋に戻った時にめっちゃ怒られた…。

 翌日、エルン一行はベリーの師匠、クランさんがいると言う町、ゴジブルーに到着した。


 あ、この間の件は再度召喚された時、由依がとりもってくれて一件落着したよ。


 さすが由衣。

 ラミュを押し倒した件はちゃんとあやまったし。


「ここがべりーの故郷なんですね」

「すっかり廃墟だな」

「こら、シャム!」

「良いんです、お兄様。 師匠の所で修行している間、何度も来ましたから」

「ベリー…」


 前にベリーについて少し聞いていた。

 魔物の軍勢によってベリーの町は滅ぼされ、両親も殺された。

 ベリーは両親が必死に守り、逃したため、助かったのだと。

 3日森の中に隠れ、町に戻ると既に廃墟だった事。


 その時に廃墟の町で出会った人がベリーの親代わりと魔法の師匠となったクラン。


「先に私のパパとママ、町の人に挨拶に行っていいですか?

「かまいませんよ」

「俺も行くよ」

「私も行く」

 俺と由衣はベリーの後についてベリーの両親が眠る場所へとやってきた。


「パパ、ママ、今日は凄いお知らせがあるのよ!ついに魔王軍を倒せる人が見つかったの!ベリーが頑張って見つけたんだよ…。 褒めてくれるよね」


 その時一陣の風が舞、木々が揺れ、ベリーに返事をしている様だった。


 ベリーは両親に挨拶した後、町の人達にも一本づつ花を手向けて回る。

「さぁ、湿っぽいのも終了です! エルン様の所に戻りましょう!」

 元気に俺と由衣の手を引っ張ってエルン達の元に戻るのだった。

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