第6話 仮面の男も悪くない
ベリーの故郷 ゴジブルーに着き、ベリーに師匠と暮らした家まで案内される。
一般的なログハウスの外観だ。
「師匠もどりましたよ〜」
ベリーが呪文で鍵を開けて中に入る。
続いて皆んなも入るが、中には誰もいない。
「やっぱりいませんでしたかー」
ベリーの師匠は良くどこかに出かけてしまうらしい。
「どうする?」
「待ちましょう」
「それしかないですね」
「私はちょっと町の方を見てくる〜」
シャムはさっさと飛び出して行ってしまった。
待っている間にベリーの部屋、地下の研究所など案内された。
時間になったので部屋に戻ってきたが、師匠のクランさんが帰ってくるまで呼ばれる事は無いと思うので、溜まっている勉強やゲームをやる事にした。
数日が経ち、もうすぐ夏休みになる。
由衣も呼ばれなくて退屈そうにしている。
それにこっちは蒸し蒸しして暑いが、エルヴァリースは春の陽気で丁度良い。
そんな終業式も終わり、召喚されて忙しかったので、ヤバ目な成績表を持ち帰り、両親には頑張れと激励された。
由衣は成績下がっていないらしい…。
これだからよく出来た妹は…。
お兄ちゃんの鼻が高くなっちゃうぞ。
夏休みは両親に予定は無いの?と聞かれたりしたが、無いようであると答えといた。
母は首を、傾げていたけどね。
明日からの夏休み、積みゲーをやるかと準備をしている所、腕が熱くなって来た。
久しぶりの召喚。
急いで準備して、由衣を呼び、エルヴァリースへ。
召喚された場所はベリーの故郷、ゴジブルー。
石造りの広間で、エルンが傷ついたシャムの腕に回復魔法をかけている。
「何があった?!」
急に魔物の軍勢が襲って来たらしい。
「シャムさんが急に町に行くって言って出て行ったらその後大きな爆発音がして」
「それで私とベリーが向かったんだが、シャムが魔物と戦っているのを見てすぐ剣児を呼んでもらうようにベリーに頼んだ」
「エルン様達もこちらに向かってくれていたので、合流してすぐお兄様を呼びました」
「ただ多勢に無勢でな、ベリーの案内でこの場所に移動したのさ」
「シャムは大丈夫なのか?」
「私は大丈夫。 エルン様の回復でだいぶ良くなったよ」
それなら一安心。
「よし、時間になる前にさっさとやっつけよう!」
俺は意気揚々と外に出ようとしたが、シャムに止められた。
「剣児待って、外にやたらと強い奴がいる。 気をつけて」
シャムに傷を負わせるなんて相当な手練れだな。
「ここは安全なの?」
「どう言う訳かここには入って来ないんです」
「なら皆んなはここには居てくれ。 俺がやっつけてやる」
「私も行くよお兄ちゃん!」
「由衣危ないぞ」
「大丈夫。これでも強いんだから」
「わかった。 エルン、シャムを頼む。 他の皆んなはエルンとシャムを頼む」
「はい」
「行くぞ!由衣!」
「うん!」
二人して外に飛び出す。
由衣の拳が魔物を吹っ飛ばす。
「お兄ちゃん!そっち行ったよ!」
「おう!」
俺の剣が魔物を真っ二つに切り裂く。
「さすがぁ!お兄ちゃん!」
二人して意気揚々と魔物を倒して行く。
急に魔物の攻撃が止んだ。
魔物達が引き返して行く。
「どうしたんだろ?」
「俺達に勝てないと踏んだんじゃないか?」
と、その時。
ヒュッ!
俺の剣めがけて黒い剣が振り下ろされる。
ガキンッ!
俺の持っている剣はあっさりと切られた。
「お兄ちゃん!」
「大丈夫だ!由衣は皆んなの所に戻ってろ!」
「う、うん。気をつけて!」
「ああ」
折れた剣を構えると目の前には黒い鎧いに黒い剣を持った仮面を被った男が立っていた。
「誰だ!お前は!」
仮面の男はゆっくりと喋り出す。
「俺か?俺は魔王様の右腕、カーブ様だ! お前の力ためさせてもらうぜ!」
シャムの言っていた強い奴とはこいつか?
カーブは黒い剣を構えると一足で飛び込んできた。
折れた剣では防御もできないが、俺に剣は効かない。
スパッ!
服が切られ、俺の皮膚が切られて血が出る。
「いてぇ!」
切られた!?
その後もガープの攻撃で切られて行く。
切られた所は皮膚のみだが、服に血が滲んでいく。
「ちっ、硬い体してやがる」
切られるなんて聞いてない!
腕も腿も背中も黒い剣の刃が皮膚を裂いていく。
「ならこれならどうかな?」
カーブの持つ黒い剣が怪しく輝き出す。
ゴオッ!
黒い剣を一振りするとバターを切るように木々をスパッと遥か彼方まで切り刻んでいる。
「大丈夫か!剣児!」
間一髪でライムスがカーブの剣を晒してくれた。
「ちっ!邪魔するな!」
「ぐっ!」
ライムスはカーブに腹を蹴られ落ちる。
それでもライムスはカーブに立ち向かっていく。
さすが剣士のライムス。
カーブとやり合っている。
が、カーブの方が上だ。
カーブが剣の柄でライムスの腹を打つ。
その時、ライムスの剣がカーブの仮面を弾き飛ばす。
「おんなぁ!ちょっとはやるじゃないか」
カーブが倒れているライムスを見下ろすとライムスが、目を丸くする。
「あ…、ス、スウィー…」
そのまま気絶してしまったライムスを抱き抱え、とにかく走って逃げた。
皆んながいる場所まで何とか逃げ切ったはず……。
「そんな簡単に逃げれると思ったのかい?」
声のする方を見るとカーブがいる。
ライムスをエルンに任せると、カーブの前に対峙する。
「ふ、はは、あーはっはっは! 足が震えてるじゃないか。 それで勇者気取りか?」
カーブはゆっくりと歩いて近づいてくる。
ちょーこえーよ。
最近まで刃物は怖くなかった。
切られるとわかると体が勝手に震え出す。
それでも皆んなを守らないと。
「あの人が何でお前に執着するかわからねぇな」
何のことだ?
「まぁいいや、死にな」
体が硬直して動かない。
躱す事が出来ない。
切られた!
と、思った時には自分の部屋だった。
こっちに戻れば怪我も無く、服も切られてはいない。
でも向こうに行けばまた切られるかも知れない。
俺は恐ろしくなった。
出来ればもう召喚して欲しくはない。
切られたくない。
でも向こうの皆んなが気にかかる。
由衣も俺の体の心配もしてくれているが、カーブが怖いみたいで、俺の袖をつまみ未だに微かに震えている。
次は由衣は置いていこう。
そう思った時には由衣も一緒に召喚されていた。
召喚されたのはベリーの家でもあるクランさんの家。
「剣児様大丈夫ですか?」
エルン達皆んなが、心配してくれている。
「皆んなこそ怪我はないのか? カーブはどこに行った?」
不思議に思っている所に、一人の老人が現れた。
「ふぉふぉ、大変じゃったのう。 じゃが、心配はいらんぞい」
温厚そうな白髭を生やしたお爺さん。
「この方が私の師匠、クラン様改めロニア様です」
「剣児様が戻ってしまった時、ロニア様が現れて追い払って下さいました」
あのカーブを!?
さすがベリーの師匠なだけあって強いんだな。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
由依が俺の耳元で囁く。
「ん?どうした由衣?」
「私なんかあの人嫌な感じがする」
「そうか?」
カーブを追い払う強さと優しそうな笑顔、何よりベリーを育てた親であり師匠なんだから大丈夫だろう。
「気にしすぎじゃないか?」
「う〜ん…」
由衣はどうにも腑に落ちない様子で考えている。
「素晴らしい!」
突然ロニアさんの声が響き渡る。
「さすがわしの弟子じゃ」
そう言ってベリーの頭を撫でている。
ベリーは嬉しそうだ。
「どれ、君が勇者の剣児君かな?」
俺の前までくるなりジロジロと見られる。
「ふむ、見たところ切られた傷も見当たらない。伝説の通りじゃて」
「ロニア様、それについてお伺いしたいことがあります」
「まぁまぁ、慌てず茶でも飲みながら話を聞こうではないか」
ロニアさんがお茶の支度をしている横で、ベリーも嬉しそうに手伝いをしている。
「ベリー、本当に嬉しそう」
エルンはベリーを見ながら笑顔をめせている。
「さて、聞きたい事は大体わかっておる。 勇者と魔王、それと世界樹の聖剣じゃろ」
「はい」
「ふむ、ちーと長くなる話じゃて、剣児君は後でベリーに聴くといい」
「はい」
やっぱりいい人そうだけど、由衣はラミュにしがみついている。
ん?
そういえばラミュとは知り合いだよな?
さっきから一言も話さないラミュの方を見ると、ラミュはロニアさんを複雑そうな顔して見ている。
ロニアさんの話は確かに長かった。
俺達が知っている事も含めても1日の召喚回数を使い切ってもまだ終わっていないようだった。
次の日の朝早く、俺はベリーによって召喚された。
「おはようございます。お兄様」
まだ朝靄がかかっているこの場所はベリーの両親が眠るお墓の前。
「昨日師匠より聞いた話を簡単にまとめたので、お話いたします」
今日のベリーはいつもの元気なベリーでは無く、しっとりした話方で始まった。
「世界樹が枯れ、魔王が生まれた事はお兄様もご存じだと思います。 そして枯れてしまった世界樹の跡地から宝珠が生まれました。 宝珠は魔王を倒す勇者を召喚するために世界樹が残した最後の希望です。 そして私達の想いでお兄様が召喚されました」
うん、ここまでは知っている。
「お兄様はこのエルヴァリースでは無敵の体とドラゴンを超える力と身体能力を持ちます。 エルヴァリースの人では無いので、魔法は使えません。 ですが、お兄様の力と世界樹の聖剣が合わされば魔王を撃ち破る事が出来ます」
聖剣の行方がわからなくなっているから聖剣探しの旅が始まるのだろうか?
「お兄様の体は傷一つつかない無敵の体なはずです。 ですが、カーブの持つ黒い剣に傷をつけられました。 師匠の話では世界樹の力に対抗出来るのは魔王の力だけですが、例外として世界樹そのものの力ならお兄様を傷つける事が出来るのではないかとの事でした」
「と言う事はあの黒い剣が世界樹の聖剣?」
「その可能性は高いです」
「それとあのカーブはライムスさんの弟さんに似ているようです」
「ライムスの弟?」
ライムスに弟なんていたのか…。
「詳しくはライムスさんに聞いてください」
デリケートな事だからそのうちかな。
「話を戻します。 世界樹の宝珠は想いによって発動し、想いが強ければ分裂します。 エルン様の想いはこの世界を救ってくれる優しい人。 私は前に話した通りです。 シャムさんは純粋に可愛がってくれて、わがままにも優しく付き合ってくれる人。 ラミュさんは優しく可愛がってくれる人と可愛がれる人。おそらくお兄様と由衣さん2人がいなければ宝珠は分裂しなかったかもしれません」
由衣が来られる理由はそれか。
「魔王は負の感情から生まれたとされていますが、魔王がどうして生まれたかはまでは、まだわからないそうです」
「まだまだ研究だな。 俺でよければいくらでも付き合うからな」
「ありがとうございます」
「でもなんでこんな所で話したんだ?」
「えへへ、他の皆さんには聞かれたくなかったので…」
ん?
「お兄様は魔王を倒した後、どうするおつもりですか?」
魔王を倒した後か…。
「考えた事なかったけど、皆んなが召喚してくれればいつでも遊びに来るつもりだよ」
「ですよね…」
ベリーはあんまりうかないか顔をしているな。
「今日はありがとうございました。 また何かあったら呼びますね」
「ああ」
そしてベッドへと戻ってくるのだった。
1週間後……。
庭の植物に水やりをしている時、腕が熱くなって来た。
召喚だ。
でも今回は由衣を連れていくのはやめておこう。
前のように危ない目にあったら大変だ。
そう思って声をかけずにいたが、由衣がそれを察知したのかしがみついてくる。
「由衣、これからは来ちゃ駄目だ!昨日のカーブの強さをわかってるだろ!?」
「わかってるけど、お兄ちゃんだって危ないじゃん! それに何か嫌な感じするし」
「だけどなぁ……」
お互いに言い争っていると、ズシンと音が響き渡り、天井からパラパラと砂がおちてくる。
召喚された場所は前にも来た石造りの場所だ。
「剣児様」
エルンが召喚したようだ。
「また魔王軍か?」
「はい。 皆さんは討伐に出てます」
「わかった、俺も行ってくる。 仕方ない、由衣はエルンを守ってやってくれ」
「うん、わかった。 気をつけてね」
「ここはロニア様の結界が貼ってありますので、ご心配なく」
俺はうなづくと魔物の群れへと突進して行く。
魔物の群れはこちらの何十倍何百倍もいる。
でも皆んなどんどん魔物を倒していっている。
ライムスは剣技で切り裂き、ベリーは得意の火炎魔法を使って魔物を焼き尽くし、シャムはその素早さと隠密性を活かして魔物を背後から倒して行く。
ラミュは持ち前の力と防御でデカい魔物にも負けてない。
やっぱり皆んな強いんだな。
剣も扱った事が無い俺には皆んなの戦い方が凄すぎててちょっと自分が情けなく感じてしまう。
魔物の大群の中からひときわ畏怖を放つ黒い鎧いを纏った仮面の男、カーブが現れた。
ライムスはカーブに気がつくと、他の魔物を押し退けてカーブの元へ向かっている。
「まて!ライムス!」
俺も急いで跡を追う。
「またおんなか。俺は勇者にだけようがあるんだよ!」
「待って!」
「あん?」
「あなたスウィーよね?」
「は?」
「あなたの姉のライムスよ!」
「…」
そんなやりとりが聞こえてくる。
「いたなぁ!勇者ぁ!」
カーブは俺を見つけるとすぐさま黒い剣を抜いて襲ってくる。
俺は紙一重では無く、凄い距離をとってかわす。
また切られるのは勘弁だ。
「にげんじゃねぇ!勇者!」
距離をとりかわしている(逃げ回っている)とライムスが追いついてきた。
「待って!スウィー!」
「じゃぁまだ!」
振り下ろされる剣をライムスは受け流し、止める。
「お願い!話を聞いて!」
「どけ!」
カーブはライムスを蹴り飛ばす。
「次、邪魔したら斬り刻むぞ」
それでもカーブにしがみつくライムスにカーブの剣が振り下ろされる。
「ぐっ!」
間一髪でライムスに間に合ったが、カーブの剣は俺の背中に軽く突き刺さる。
「剣児!」
「大丈夫…だ、それより早く結界の中へ…」
「ぐぁ!!」
「ほんと硬い体してやがる」
カーブの剣が何度も背中に突き刺さる。
もちろん致命傷になる程深くは刺さらないが……。
「やめてぇ!」
ライムスがカーブを俺から引き離し肩に担ぐ。
「剣児大丈夫か?」
「はは…なんか俺いつも心配されてるよな」
ちょっと大丈夫とは言えない位に背中が熱く、血が滴り落ちている。
「エルン様の元へ行けば治してもらえるはずだ」
そう言ってライムスは俺を突き飛ばす。
「逃すかよ!」
カーブが追い討ちをかけてきたのをライムスが刃を受け晒す。
「剣児!早く行け!」
ライムスを置いて行けるわけがない。
ただ、痛みでうまく歩く事も出来ない。
ライムスとカーブが離れた時、巨大な火球が飛んできた。
「ちっ!」
カーブは火球を避けるように飛び引いた。
「今じゃ」
ロニアさんが茂みから出て来ると俺とライムスを担いで転移魔法で結界の中に戻ってきた。
「剣児様!」
「お兄ちゃん!」
「エルン様、早く手当をしてやってくれ」
「わかりました」
時間になれば傷も戻るが、戻る前に出血死する可能性があると前の戦いで言われていた。
エルンの癒しの魔法で体の傷は癒えたがカーブには太刀打ちできない。
「おぬし弱いのぅ」
ロニアさんが呟く。
確かにそうだ。
今までは相手を圧倒する力に頼ってきた。
防御だって傷つく事が無いのだから敵の攻撃なんて気にもしなかった。
ライムスはカーブの剣を技術で受けていた。
「そこの剣士に少し学んでみてはどうじゃ?」
そうだな。
「ライムス、俺に剣を教えてくれ!」
「え、あ、ああ」
ライムスはカーブの事が気になっているようだ。
そして次の日から剣の修行が始まった。
剣の握り方から教わり、基本の構え、体術だ。
力と速さは誰よりもある。
でも短期間で剣術は学べない。
あとは実戦形式で基本を昇華して行くしか無い。
「ではこれからお兄様の訓練を開始します」
由衣も含めた全員参加で、俺の実戦訓練が始まった。
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