第4話 もふもふ女性も悪くない
勇者と魔王について調べ始めて3日が経つ。
皆んなで資料を探し、魔王については少しずつわかってきた。
(こちらの文字が読めない俺と由衣は戦力外でした)
遥か昔からこの森の中に聳え立っていた神なる木【世界樹】
邪な魔の者を退け、全ての命を守っている聖なる大樹。
生きる者達の【怒り】【悲しみ】さまざまな負の感情を吸い込み浄化してきた聖なる大樹。
だが、ある1人の若者が世界樹に呪いを込めた負の感情を叩きつけ世界樹を枯らした。
枯れた世界樹からは邪なる者が現れ魔王となった。
そしてこの森は魔物がはびこる魔の森となった。
世界樹が聳え立っていた場所から一つの宝珠が見つかった。
それは生きる者に与えられた、たった一つの希望。
邪なる者を退ける聖なる球。
その力は竜を超え、聖なる大樹の剣は邪なる者を祓う力がある。
魔王が完全に目覚めた時、宝珠も真の力を覚ますだろう。
「これはお父様が古文書を解読した物になります。 もう一つはお父様が亡くなる直前に書いたと思われる手紙です」
ここに宝珠とそれに関する書を残す。
宝珠に導かれし勇気ある者よ。
願わくばこの世界を救って欲しい。
「お父様の残した手記はこれで全てです」
「え!宝珠はここにあったの?!」
ベリーは驚いたように聞く。
「はい。 お父様と協力者であるクラン様とここで研究していました」
「クラン?」
皆んな聞いたことが無いようだ。
ベリーだけは何か一生懸命考えてる。
「クラン様は今どちらに?」
エルンは協力者のクランさんの行方が気になったようだ。
クランと言う人が見つかればもっと魔王や勇者についてわかるだろう。
「お父様が亡くなってから村から出ていかれました」
その時に宝珠を持って行ったのか?
「思い出したー!!」
ベリーが突然叫ぶ。
「クランは私のお師匠様が昔使っていた名前!今はロニアって名乗ってる」
「そうか!それで宝珠がベリーに託されたと言う事か」
「そうだと思う。お師匠様は古文書の解読も出来たし!」
「その師匠には会えるのか?」
「…わからない。お師匠様はいつも何処かに行ってしまうの」
ベリーは少し寂しそうに言う。
「とにかく行ってみよう!ベリーのお師匠様に会いに!」
まだ気になる事はあるが、時間切れで戻ってきた。
すぐ召喚されると思っていたが、今日は呼ばれる事は無かった。
次の日の放課後、最近テストの点数が下がり補習を1人で受けていた時、召喚された。
召喚されたのは揺れる馬車の中。
「剣児様」
「お兄様〜」
「剣児〜」
3人はしっかり名前を呼んでくれるけど、ライムスだけは外をぼんやり眺めている。
「剣児様。まだちゃんと自己紹介していませんでしたね。私はラミュートと申します。ラミュと呼んでくださいね」
爪犬族の女性がぺこりと頭を下げる。
「こちらこそよろしく。 ラミュさんもロニアさんに会いに?」
「…はい」
何か思う所があるらしく、重く返事をする。
シャムと一緒に俺に引っ付いていたベリーがラミュさんにも宝珠が増やせないか試したいと言ってきた。
「この球を持てば良いのですか?」
ラミュは不思議そうに球を持つ。
これで増えればこちらに来られる回数は増えるし、宝珠が分裂する所も初めて見れる。
ちょっとドキドキしながら俺もラミュの手の中の宝珠を眺める。
………。
「増えませんね?」
「増えないね」
「…ですよね〜」
俺は少し残念に思いながらも馬車を後にして補習に戻った…。
補習も終わり、家に帰り、由衣の手作り夕飯を食べ、風呂も済ませて、さぁ寝るぞと言う時に召喚された。
ちゃんとパジャマの由衣も一緒。
焚き火が心を落ち着かせる。
エルン達も食事が終わり、寝る前だったがせっかくなので状況を整理して話したいとの事。
「では早状況整理をしたいと思います」
ベリーは枝を持って説明を始める。
「宝珠についてはラミュさんのお父様の手記でわかりました。 魔王の誕生も少しはわかりました。 お兄様の力の事もちょっとわかりました。 ですが、手記にあった剣の事がまだわかりません」
確かにそれは俺も気にはなっていた。
【世界樹の剣】これは魔王を倒すのに必要な物だろう。
「大樹の聖剣の事は聞いたことがあります」
眠っている由衣を膝枕して頭を撫でているラミュが答える。
「聖剣は元々私の村、爪犬族が守っていました。 今の族長であるワワ様の先代の時、襲ってきた魔物と戦いの時に行方が分からなくなってしまったそうです」
「じゃあ、聖剣無しで魔王と戦えと…?」
聖剣無しで魔王を倒せるのか不安になってきた。
「そこなんです!お兄様! そもそも聖剣を魔物が触れるのか?と言う事です。 普通に考えれば魔王を倒せる聖剣に普通の魔物が触っただけで消し飛ぶはずなんです」
ベリーが気にしていた事はこれだった。
「なるほど」
「聖剣は真の所有者が持てば力を発揮しますが、真の所有者で無くても伝説級の切れ味と言われています」
「戦いの時に爪犬族の誰かが隠したとか?」
「いえ、それはないでしょう。 聖剣は私たちにとっても神聖な剣です。 族長以外は触る事すら出来ません」
「先代の族長様が奪われないように隠したとかはないのですか?」
「それも無いです。 先代は聖剣を行方不明にした責任で村を追われましたから…」
「う〜む…」
聖剣に魔物は触れない。
でも行方不明。
「ですが、戦いに出ていた一部の方が、頬に傷のある少年が魔物に混じっているのを見たと言っていたそうです。 魔物の軍勢に人が加わるなんて有り得ない話なので、見間違いと言われていました」
「その話本当かも! 人間なら剣に触れるし、少年位なら邪な心も殆どないんじゃ無い?」
ベリーの言う事には同意が出来る。
確かにそれなら持ち出す事もできるかもしれない。
まだベリーの話は続いていたが、自分のベッドへ戻ってきたので、寝ている由衣を抱えて部屋のベッドまで連れて行き、俺も今日は寝ることにした。
戻って来る前にライムスの様子が少しおかしかった事が気にはなったけど。
昨夜あれこれ考えていたせいで遅くまで起きていた為眠い…。
しかしそんな事は関係無く召喚はされる。
まだ夢うつつな早朝、召喚された。
「早く起きろ!」
ライムスに怒鳴られる。
「お兄様ー!もうもたないよ〜!」
ベリーの声が少し離れた場所から聞こえる。
「剣児様っ!」
ズシンっ!
凄い近くで地響きがする。
少しの揺れには慣れているが、流石に飛び起きた!
そして目の前には石の足?
上から大岩のような拳が飛んでくる。
ドゴオッ!
勢いと重量で地面がへこむ。
「剣児様!」
「剣児!」
「お兄様!」
「剣児っ!」
「剣児さん!」
………。
「痛ってーだろーがー!」
実際には痛くは無かったけど、つい言ってしまう。
岩の拳を持ち上げ、岩で出来た魔物をぶっ飛ばす。
「剣児様!」
俺が無事だったことを皆んなが喜んでくれる。
「剣児!」
ライムスに剣を渡されるが、刄の方が折れてしまう。
「こっちの方が早い!」
拳で殴って岩の魔物を砕いていく。
この岩の魔物はベリーの得意な火の魔法が殆ど効かない。
ライムスやシャムはなんとか応戦しているが、剣へのダメージの方が大きそうだ。
こんな岩の魔物が10匹以上いる。
これは手こずる訳だ。
エルンはと言うとラミュを守ろうとしているようだ。
数が多いので時間がかかる。
皆んなが苦戦を強いられている中、岩の魔物3匹がエルンの元へ。
「剣児!エルン様を守れ!」
「おう!」
なんとか1匹には追いつき倒したが、後2匹が間に合わない!
2匹の岩の魔物の前にラミュが飛び出す!
「ハァァァッ!」
ラミュの拳が岩の魔物の顔を砕く!
もう1匹の魔物の拳を片手でガードする。
そして蹴りで一蹴。
「すげぇ…」
ラミュの思わぬ実力に唖然としてしまった。
なんとか全てを倒し終わると皆んながラミュに質問責めだ。
「ラミュさん凄ーい!」
「助かりました」
「凄いじゃ無いか!どっかの同じ獣人とは全然違うな」
「なによ!悪かったわね!」
いつもの言い争いがライムスとシャムの間で始まる。
「本当に凄かった。いつものお淑やかで温厚なラミュとは思えないよ」
ラミュは顔を赤らめ、目を丸くして照れている。
そしてベリーは目を輝かせている。
あ、これは俺の実験の時と同じ目だ…。
ラミュの事を心配したけど、冷たく冷えた布団に戻ってきた。
朝から召喚された事を由衣に告げ、朝ご飯を食べて学校へ行く。
今日の弁当は母さんと由衣の手作り弁当だ。
お昼に弁当を開くと海苔や桜でんぶでご飯にハートが作られていたり、卵焼きもハートの形にしてあったりとお兄ちゃんは好かれているなと思う弁当だ。
クラスの男子からはからかわれたりするけど、女子にはウケが良い。
何より美味しいから残さず食べるよ。
弁当を食べながら考える。
向こうの食事もしてみたいな。
でも向こうから持ってくる事は出来ないから食べた物はどうなるんだろう?
学校も終わって由衣と母さんが夕飯の支度をしている時、腕の模様が光り出す。
母さんにはバレないように腕を隠して由衣を呼ぶ。
今は手が離せないらしく、仕方ないから俺1人で召喚された。
召喚された先は何処かの町の宿屋の一室。
丁度夕飯時なんだろう。
皆んなが部屋でご飯を食べている。
「うふふ、お兄様召〜喚〜」
「え?」
見た感じ酔っ払っているベリーが俺を勝手に召喚したらしい。
「実は…」
どうやらライムスとシャムのどっちがお酒に強いかが始まり、近くにいたベリーは匂いで酔ってしまったようだ。
エルンとラミュに怒られた2人はシュンとしている。
「お兄様〜んふふ〜」
完全に酔ってしまって抱きついて寝てしまっているベリーをベッドに寝かせ、夕食後に召喚すると言われていたので由衣と俺の部屋で召喚されるのを待つ。
由衣はラミュに会うのが楽しみらしい。
由衣と一緒に俺の部屋で召喚されるのを待つ。
由衣はラミュの尻尾をブラッシングしたいようで、ブラシを片手にワクワクしながら持っている。
「まだかな〜」
身に付けている物は持っていける。
ならこちらからお菓子を持って行ったら皆んな食べれるのだろうか?
ちょっと実験的にやってみることにした。
持って行くお菓子は定番のカールビンのポテチ。
準備万全の状態で召喚された。
宿屋の一室に召喚された俺は椅子に座り、由衣はラミュの隣に座りブラッシングして良いか聞いている。
ラミュは尻尾を由衣の膝に乗せると由衣はゆっくり丁寧にブラッシングを始めた。
エルンの回復魔法で酔いから覚めたベリーは俺の持ってきたポテチに興味深々。
パーティー開けをして皆んなで摘みながら話しを聞く事になった。
「何これ!美味しい〜!」
ベリーは気に入ったようだ。
「サクサクとして食感も良いですね」
エルンも気に入ったようだ。
「エルン様、そのような訳の分からない物を食べるなど…」
ライムスはエルンを気にしている。
「ライムスも食べてみなよ」
ベリーに口元にポテチを持ってこられて、
パク
「!!」
「美味しい…」
「ね!美味しいでしょう?」
どうやらライムスも気に入ったようだけど、こっちを睨みながら食べるのはやめて。
「剣児〜美味しいよ〜」
軽く泣きながら食べているシャムは余程気に入ったようだ。
ラミュはどうかな?
ラミュの方を見ると由衣と食べ合いっこしている。
ラミュも気に入ったようだ。
さて、そろそろせっかく召喚されたので、色々わかってきた事を教えて欲しい。
「そ、そうですね」
ポテチに夢中になっていたエルンが、一度コホンと咳をして、ベリーに説明を頼む。
「はい。 師匠の場所までここから湖畔をぐるりと回って行くと廃墟の街があります。 そこのすぐ近くに師匠がいるはずです」
あと2日位で着く予定のようだ。
「あ、聞きたい事があるんだけど」
話半で戻されてしまうので、まだラミュについて聞いてない。
「ラミュはなんであんなに強いんだ?」
ラミュは少し照れながら話し始める。
「私達、【爪犬族】【牙猫族】は元々古代種なんです。 お互いの得意とする武器を分けて、私達の牙を猫族に、猫族の爪を私達の名前としたと言われております。 ただ牙猫族は人との交わりが多くなり、血が薄まっているようですが、爪犬族は外との繋がりを殆ど持ちませんでした。 私は爪犬族の中でも古代種の血が強く出てしまった様なのです」
「私も最初聞いた時はびっくりだよ〜」
ベリーもこの話は知らなかったようだ。
エルンは歴史の知識はあるようで、
「古代種は竜族に近い力を持っていると本で読みました」
「私ら牙猫族も古代種の末裔とは聞いていたけど、本当とは思っていなかったからな」
シャムはあまり詳しくはないらしい。
「やはり本物は違うな」
ライムスがシャムの顔を見ながらドヤっている。
シャムもライムスを睨んで火花が飛び散り始める。
「はい、そこまでです」
エルンの一声で2人はお互いふんっ!と顔を背けている。
時間になった俺達は部屋に戻ってきた。
ポテチの袋は口が閉じたままだが、中身は無くなっている。
どうやら食べた物は戻ってはこない様だ。
これなら向こうの食べ物も食べられそうだな。
ひとしきりラミュの尻尾をブラッシングして堪能した由衣は満足気に部屋へと戻って行った。
ベリーの師匠に会えば色々わかるようになる。
楽しみだなと思いながら今夜は早く寝てしまった。
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