第3話 猫耳娘も悪くない

 猫耳の子と魔物との戦いから数日が経ち、一向に召喚されない時を過ごす。

 あの後どうなったのか気になってるんだよな。

 しかし今回の召喚はイレギュラーが発生した…。


「ダーイブッ!」


 いつものように由依が俺めがけてダイブしてきたその瞬間、重なった俺と由衣2人して異世界エルヴァリースに召喚された。


「痛てて…」

「いった〜…。 ここどこ…?」


 先に起き上がった由衣が辺りを見回し、目を丸くしてる。

 まさか由衣までエルヴァリースに召喚されるとは…。


「お兄様〜!」

 異世界でのもう1人の妹と言っても良いベリーが勢いよく抱きついてきた。

「おっと、元気だったかい?」

「ベリーは元気いっぱいだよ」

「…お兄ちゃん…? 誰その子?」

 由衣がベリーを見て言う。


「お兄様?誰その子?」

 ベリーが由衣を見て言う。


「この子はこっちで知り合ったベリーで、こっちは俺の妹の…」

 言いかけた時だった。

「お兄ちゃんから離れてくれませんか?」

 由依が睨みながらベリーに言う。

「あら、剣児お兄様はベリーのお兄様ですよ」

 腰に回した腕に力を込めて更に密着してベリーが言う。

「お兄ちゃん、後で説明してね」

 由衣が和やかな笑顔を見せてくる。

 こ、怖い…。


「今回お兄様を呼んだのは印(しるし)を付けるためです。」

「しるし?」

「はい。 毎回召喚が急でお兄様には迷惑をかけていますから、召喚する時の合図として印をつけたいと思います。」

 それはありがたい。

 また変な時に(主に裸)召喚されなくて済む。


「でも俺の身体には魔法が効かないし、地球にはエルヴァリースの物は持っていけないんだよね?」

「はい。 ですからちゃんと考えました。」

 ベリーが俺の袖を捲って何か唱え始めた。

 腕が少し熱くなってくる。


「これでよし。」

 自分の腕を見ると何やらアザができてる。

「これが印?」

「そうです。 お兄様の身体には剣も魔法も効かない、ならどうすれば良いか、その答えが呪いです。」


 え?

 呪い?


「呪いと言っても害があるわけではありません。 いわば私の愛の呪いです。」

「の、呪い…」

「お兄様が帰る時はこちらの物は持っていけないのなら、お兄様の身体の一部にすれば良いと考えました。」

「効果は後日のお楽しみです。」


 ひとしきりの説明が終わった所で、由依が俺とベリーの間に入った時、俺の布団の上に戻って来た。

 どうやら印は消えてないようだ。


 さて、ここからが大変だった…。

 由衣に根掘り葉掘り聞かれ、特に後2人の話をしたらグーで殴られた。

 そして、この印に変化があった時は由衣も呼ばないと行けない。

 危険な場所でもあるから本当は呼びたくは無い。

でも、「お兄ちゃんが今度1人で勝手に行ったらもう話してあげないからね。 ご飯も自分で作ってね。」

 こう言われてしまっては仕方ない…。


 そして印が付いてから数日後、腕の印が熱くなって来た。

 印を見ると赤く光だしている。

 これが召喚する合図なのか?

 腕が熱くなってきたけど大丈夫だよな?

 そんな心配をしながら由衣を呼ぶ。


「おーい!由衣ー!」


 部屋から呼んだのが悪かったのか、由依がドアを開けたタイミングで俺1人で召喚されてしまった。

 召喚された先には、前に襲って来た猫耳の子が土下座してる…。


「これはどう言う…?」

「これがあんたの所での頼み方なんだろ!頼む、村を守ってくれ!お願いだ!」

 泣いているようなかすれた声だ。

「何があったのかわからないけど、話は聞くから顔上げて」


 話しを聞くと、村が魔王軍に襲われた時、村を襲わない代わりに勇者を殺せと言われたのだが、この間失敗して村が襲われる事になってしまった。

「私1人がどうなろうと構わない。 でも村の皆んなに罪はない。」

 今は堪えているが、時間の問題というやつだろう。


「わかった。 すぐに行こう。」

「ほんとか!ありがとう!!」

 涙を流しながら抱きついてきた。

 そんなちょっと良い匂いを漂わせながら、由依が待っている部屋に戻るのだった…。


 その日の夕飯は……想像通りだったよ…。

 次の日の朝早くから腕が熱くなってきた。

 すぐさま由衣の部屋をノックして扉を開ける。


「由衣!もうすぐ行く…ぞ!」

「………きゃー!!」

「あ、ご…ごめん」


 いくら妹でも着替え中はまずかった。

 印が赤く光った時、由依が部屋から出てきて腕に絡む。

 召喚された場所は森の中。

 すでにあちこちで戦闘が行われている。


「剣児様」

 エルンが宝珠で召喚したようだ。

 状況が分かりにくいが、とりあえず狼と豚顔の奴を倒せばいいんだな。


「由衣は危ないからここにいろ」

「わかった」

「エルンすまないけど、妹を頼む」

「わかりました」


 刃の唸る音がする方へ駆ける。

「剣児遅いぞ!」

「お兄様!」

 どうやら2人とも既に戦闘中らしく、ライムスに剣を渡される。


「やれるか?」

「もちろん!」

 相手の攻撃を身に受けながら剣で切っていく。

「おお!凄い!!」

 戦っていた猫耳の戦士達が次々と唸る。


「こっちも負けてらんないよ!」

 シャムが叫ぶと仲間達の指揮も上がる。

「おおー!!」

 どうやらこの場はこちらが優勢になってきたようだ。

 このまま行けば勝てる。


 2人で待っている間、由衣は俺とエルンの関係が知りたくなったよう。

「エルンさんはお兄ちゃんとどう言う関係なんですか?」

「え、私は特に…どう言うと言うわけでは…剣児様は勇者として…」

「でもお兄ちゃんがこちらに呼ばれた理由はありますよね?」

「そ、それは…」


 ガサッと草むらが揺れる。


 ガアアァァ!!


 狼の魔物が飛びかかってきた。


 エルンは由衣を庇うようにして抱き寄せよるが、由衣の方が早い。

 由衣が咄嗟に繰り出したパンチが狼の顔に直撃する。


 ギャオオン!!


 狼はそのまま吹き飛ばされ動かなくなった。


「え、私…」

「由衣さん…?」


「大丈夫かー!?」

 俺が由衣の下へ戻った時は由衣とエルンが仲良く話をしていた。

 部屋に戻った由衣は興奮冷めやらぬ状態で俺に話してくる。


「お兄ちゃん!お兄ちゃん! 私、狼をやっつけたの!!」

 言葉をまくし立てる。

「それでね、エルン様が庇ってくれて…エルン様良い人ね。エルン様ならゆるせちゃうな~」

「次はいつかな? もう一度行きたいな」

 たいそうはしゃいでいる由衣に向こうは人も亡くなっている、住む場所も無い人だっている事を伝えた。


「そうだよね…ごめんなさい。」

 素直に謝れるところは由衣らしい。

「わかったんなら大丈夫。次に行ったら仲良くするんだぞ」

 こくりと頷き「わかった」


 そして次の日、召喚されたのは猫耳娘のいる獣人の村。

 日本の古い藁葺き風の家が沢山ある村だ。

 今回召喚したのはなんと猫耳娘のシャムだった。


「私も出来たよー! 剣児〜♡」

 俺の名を呼びながら抱きついてくる。

「おい!貴様なにやってる!」

 ライムスがシャムに怒鳴っている。

「ただのスキンシップじゃん」

「なんて不埒な! 早く離れろ!」

「勇者様を呼べる人の特権じゃ〜ん。 宝珠も使えない人には言われたく無いよね〜?剣児」


 ライムスがワナワナと震えてる…。

「はい。そこまでですよ〜」

 ベリーが2人の間に割って入る。

 今回は実験的にシャムにも使わせてみたら、宝珠がまた分裂し、シャムにも呼ぶことが出来た様子。


「今回の事でまたお兄様の研究が捗ります」

 ベリーはご満悦のようだ。


 本来ならシャムは村を危険に晒した罪で極刑だが、俺を呼ぶことが出来、エルンの説得もあり族長や他の皆の許しを得た。

「でもなんでこの村に?」

俺は少し不思議に思いエルンに聞いてみた。


「私達は今まで防戦一方でした。 しかし剣児様がいらっしゃるのであれば、こちらから打って出られるのではと皆で話し合いました」

 なるほど。

「でもまだ相手の情報やお兄様に関する研究が少ないの。 だから古の文献に詳しい獣人族の村までやってきたの」


 シャムに案内されながら族長の家に入る。

 家の中は結構スッキリしている。

 畳に囲炉裏があって靴を脱いであがるタイプの家だ。

「そなたが、勇者様じゃな。 皆から話は書いておる」

髭を生やした猫耳の爺さんが話しかけてくる。

 この人(猫)が族長さんか。


「あの…」

 エルンが問いかけようとした時

「聞きたい事はわかっておる」

 族長に遮られた。

「魔王や勇者についてじゃろう? 残念じゃがワシら牙猫族《がびょうぞく》にはあまり魔王や勇者に関する事が伝わっていないのじゃ」

「獣人族の方々は古の文献に詳しいとお聞きになりましたが…?」

 エルンは首を傾げている。


「確かに昔は伝わっておったのじゃろう。 しかしワシら牙猫族は人との関わりが長かったせいで姿も人に近くなり、血も薄れて来た。 言い伝えも次第に無くなっていったのじゃよ」


「ではもうわからないと?」

 魔王や勇者に関する事が聞けると思っていたエルンは少しがっかりしている。

「慌てるでない。 ワシら牙猫族と昔交流が深かった爪犬族《そうけんぞく》ならば未だに外界との交わりを持たないため、古い話が残っているやもしれん」


「その爪犬族の方々の場所はどこに?」

「魔の森の中心近くにあったはずじゃ」

「魔の森…そんな所に…」

 聞くからに危ない所のようだ。

「今ならお兄様もいるしヘーキヘーキ」

 どうやらベリーは俺頼みらしい。


 そんな話の途中で戻ってきた。


 魔の森か…。

 今度の召喚は危ないかもしれないな。

 由衣には黙っておいた方が良いかもしれない。

 そんなお兄ちゃん心を知らずか、由衣は力になれるからと着いてくるのだった…。



 別の日。


 魔の森での戦いを気にしていたが、シャムの案内により最短ルートで爪犬族の村まで着いたようだ。


「ここが爪犬族の村か…あ!」


 シャムのいた牙猫族の村とは違い、ログハウスのような家が立ち並ぶ。

 いや、そんな事はどうでもいい。

 爪犬族の村の住人はシャム達と同じ獣人でもまるっきり違う。

 身体はふさふさの毛並みに覆われ、顔がほぼまんまワンコ。


 ここの村人?(村犬?)はすっごくもふもふしてます…。

「わんちゃんがいっぱい‼︎」

 由衣も興奮している。

 村の方々もこちらに気がついたようで、皆んな驚いた顔で急ぎ家の中に入って行く。

 村の奥から軽装な鎧を纏った2人(2匹)のワンコがやってきた。


 槍をこちらに向けてくる。


「お前達は誰だ! 何処から来た!」

「貴様ら!エルン様に無礼だぞ!」

 エルンはライムスに手を差し出して、かまいません。

 と一言。


「私は元メロフ王国の王女、メヒロフ・グァバ・エルンです」

「それを証明する物は?」

「今はこれしかありません」


 そう差し出したのは王冠だった。

「お父様の形見です」

「これではわからんな」

 さらに槍を近づけてくる。

 間に割って入ろうとした時、小さなワンコがダダダッと、ダッシュで近づいてきて


「ぶあっかもーん‼︎」

 2人(2匹)の頭を持っていた棒で殴った。


 衛兵の2人(2匹)は殴ったワンコを見るや否やひざまづき、何やら怒鳴られている。


 と、ここで戻ってしまったが、由衣は早く行きたくてソワソワしてる。


「まだかな?まだかな?わんちゃんまだかな〜?」


 由衣の期待通りにすぐ召喚され、族長の前に召喚される。

「やはりお主が勇者とやらじゃったか」

 さっき衛兵をぶん殴っていた小さな女の子のワンコが椅子にふんぞり返っている。

「話はそこのエルン王女から全て聞いた。 魔王と勇者について知っている事は教えてやろう」

「ありがとうございます」

 エルンの言葉に合わせ、皆んなお辞儀をする。


「よいよい。 じゃが、一つ質問がある」

「なんでしょうか?」

「そこの勇者!おぬしは…」

 ゴクリ……。

「爪犬族の我らを見てどう思う?」


 こんな質問されても可愛いとしか答えられないよな…。

「可愛いと思います」

 正直に答えてやった。

「…ほぅ」

「もふりたくてうずうずします!」

「もふる?とはなんじゃ?」

「沢山撫でたいって意味です!」

「…ほほぅ…」

「け、剣児様!」

 あ、しまった本音が…。


 凄く睨んできたと思ったら

「合格じゃ!」

 満面の笑みで指をさして歩み寄ってくる。

「ワシを撫でてみるのじゃ」

 目の前に耳を畳んだ頭を差し出してくる。

 頭を軽くなでていると由衣が羨ましそうに見てくるので、妹も撫でて良いか聞いてみたら即okだった。

 2人でひとしきり撫でているとどうやら時間になったようだ。


 いや〜良いもふもふだった…。

 由衣ともふもふを堪能した。


 再度召喚された時には話はついていたようで、今は古の文献に詳しい人(犬)の家へ向かっている。

 花が沢山ある可愛い庭と家に着いた。


「あら、お客様ですか?」


 声をかけてきたのは、花に水やりをしていた美人さんな爪犬族の女性の方だった。


「族長様よりこちらに古の文献に詳しい方がいるとお聞きしまして」

「ああ、お話は伺っています。どうぞこちらへ」


 家の中へ案内され、一室へ通される。

 お茶を出されて全員席に座る。


「さて、古い文献の話は魔王に関する事と勇者様に関する事ですね」

「そうです。何か知っている事が有れば教えて頂きたいのです」

「…確かに文献の事は私のお父様が研究していました。ですが、お父様は半年前に亡くなってしまいまして……」

「それじゃ何もわからないんですか?!」


 ベリーが少し残念そうに聞く。

「研究の資料ならお父様の部屋にまだあると思います」

 部屋に案内される時、自分の部屋に戻ってくるのだった。

 1日に召喚できる回数が終わってしまったため、資料の事が気になるが、由依と話をして今夜は眠る事にした。

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