第28話

 六闘神、七志剣帝、ローデイン自治体同盟それぞれがそれぞれに妥協しあってどうにかまとまったらしい、ミトケス騒動。

 ひとまず戦火の拡大、大規模化は完全に防げたということで一段落したみたいだ。変に大陸間戦争とかにならなくてよかったと他人事ながらそう思う。

 平和って大事だよ本当。この世界に来て、心底痛感したことの一つだ。

 

「デバガメもエグい真似するわねー。どうせ柳丸以外とは前もって打ち合わせて落とし所を見つけてた上で、あのオッサンを嵌めるためだけに公式で協議の場を設けたんでしょうし、どうせ」

「まあ、柳丸さんは自分の身を護る動きが得意だからな。前もって全員で裏打ちしとかないと、逃げられそうだったんじゃないのか?」

 

 居酒屋・太郎。仕事終わりの夕方、銭湯帰りの夕食時にて。

 真太くんからの報告を受けて俺と姫さんは、おでんをつまみに酒を呑みつつそれを話の種にしていた。

 姫さんにとっても因縁のあった柳丸さんが、予定調和的に包囲網を形成されて無事、失脚したのだ。言いたいことはそれなりにあったようで、ビールを呷りながらも彼女はアレコレと俺に愚痴るように話を続けていた。

 

「まあ? あいつが腕っぷしだけの犯罪者に落ちぶれたのは率直にグッジョブ! なんだけどね……それに乗った破軍も天地剣も白々しいというか、うまいこと立ち回ったわねコンチクショーっていうか」

「ま、そこが政治家でもある人達の強みなんだろうさ。柳丸さんは政治家でなく暴れたいだけの戦士でしかなくて、だから自分の立ち位置を見測りそこねてこうなっちゃったってことかもなあ」

 

 誰からも嫌われがちな柳丸さんだったけど、悪いだけの人でもなかった。

 ただ強さ比べがしたくて、そのためには他者を陥れるタイプの小細工をも厭わないってところは厄介で迷惑で最低なんだけど……偶に会うと割合、気さくで親分肌なところもあったりする人ではあったのだ。

 

 そんな人がどうしてこんなところにまで至っちまったのか。それは結局、身の丈に合わない地位についたというのは原因の一つなんだろう。

 在野の暴れん坊でいればよかったものを、七志剣帝として権威権力を身につけてしまってストッパーがなくなった。誰も止めないんだから何してもいい、になっちまったって部分は、あるのかもしれなかった。

 そんな個人的な意見を言うと、姫さんもうっすら朱が差した頬で、俺に寄りかかりつつも甘えた声で同意してくれる。

 

「そもそも七志剣帝なんて箔付けされるほどの輩じゃなかったのは間違いないわね。あんなのただの狼藉者だし……その点言えば破軍ってか七志剣帝の任命責任みたいなの、問えそうなんだけど」

「そこまでおっ被せるとバランス悪いんだろ。六闘神とミトケスももういっちょ、何かしら血を流せって話になるのは泥沼の一歩目だし」

「面倒っちいわね……だから嫌なのよあいつら。いっつも損得勘定ばっかりで、自分達のことしか考えてないくせにさもみんなのためですーなんて顔してさ。そういうの、すごくイヤ」

 

 嫌悪感を露にする姫さんの、肩を抱き寄せて俺も酒を呷った。焼酎のお湯割り、冷えた体にはじわりと染みる。

 潔癖……というより、素直な感性なんだと思う。姫さんは、建前だけ綺麗な人を割合、嫌う傾向にあるからな。

 加えてまだまだは二十歳頃の娘さんだ、世界最強とか言う以前に、理解できないことに拒否反応が起こるのも無理からぬことではある。

 

「ま、下々の者にはよく分らん光景ってことなんだろうさ。つっても姫さんは、本来なら最上位にいてもおかしくはないが」

「冗談! あんな連中と四六時中くだらない企みをあーだこーだしなきゃいけないなんて地獄よ地獄。地に足付いたこの場所が、私にとっては天国なのよ」

「そうかあ?」

「そうそう! んふふふー!!」

 

 酔いが回ってきたか、より密着度合いを高めてくる姫さん。

 店内は夜ということもあり客も多く、それだけによく賑わっている。俺もよく来る店だからか、当然顔見知りも結構いる。

 

 そうなるとどうなるかって言うと、まあこうなる。

 

「おうおうオードリーさん、相変わらず別嬪の嫁連れて見せつけてくれちゃってよう!」

「んーなかわいい子酔わせて悪い旦那さんだねえ! 何すんの、帰ってから夜!」

「そりゃーあんたもう、昼は鳥でも夜は狼ってなもんでしょうへへへへへ!!」

 

 常連や知り合いなんかが、そりゃもう囃し立てるのなんのって。昔馴染みのエルフからドワーフからハーピーから日本人転移者まで、よくもまあいろいろいるもんだ。

 そんな彼らは口々に俺と姫さんをからかってくる。悪意がないから余計に反応に困るんだが……まあ、関係性自体は認めてもらっているような気がして悪くはない。

 

「んふふぇー、至道〜」

「ちょっと飲みすぎたか? お冷をいくつか飲んで、そしたら帰ろうか姫さん」

「うん~。だーいすき、んふー」

 

 完全に酔っ払ってきたみたいだな、目がとろんとして潤んでいるし、表情もいつにもまして緩い。可愛らしい、幼子のようなあどけない顔つきだ。

 この子のこんな顔、俺だけが見れるんだから幸せなんてレベルじゃないなと内心、我が身の幸運をただ感謝しながらも……

 

 恙無い日常をこうして、のんびりと過ごすのだった。







以下後書き


一旦ここで完結としますー

ですがまた、この世界観とこの夫婦で話を作りたくなったら再開すると思いますー

ご愛読ありがとうございましたー!

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異世界郷友会 てんたくろー/天鐸龍 @tentacl_claw

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