第27話
「結論から言えば柳丸英二は七志剣帝を離脱。ミトケス騒乱の主犯格としてローデイン大陸自治体同盟に身柄を拘束され、ミトケスの法によって然るべき裁きを受ける形になりました」
歩きがてら真太くんはそう切り出した。本当に結論から入ったなこいつ……いきなり柳丸さんの処遇を話すとは。
それも主犯扱いだ。俺の認識だと彼はあくまで事態をややこしくした愉快犯ではあっても、そもそもの発端ではなかったように思うんだが。
首を傾げて質問すると、遠望の賢者は爽やかに笑ってさらりと告げる。
「主犯ということにしました。藤原花織は柳丸によって脅迫され、やむなくミトケス侵略を主張した……と。そういう筋書きです」
「おいおい……マジかよ、柳丸さんスケープゴート?」
「まあ、言ってしまえばそうですね。贄です」
あっけらかんと言ったけど、とんでもなく恐ろしい話だぞ。つまりは他人の罪をおっ被せて無理矢理罪状を追加し、柳丸さんを重罪人にしたんだ。
彼や六闘神、七志剣帝、そしてミトケス自治体は、柳丸さんを切り捨てたんだ。
ゾッとする話に背筋が凍る。寒気を感じるが風邪じゃないし気温のせいでもない。
平然と人一人を嵌めて失脚させた、政治的にお偉い人達の容赦のない判断に戦慄したのだ。
「今回の件で七志剣帝も、完全に柳丸を見限りました。藤原さんを美山さんに渡してかつ、柳丸を重罪人とすることでダメージを最小限にしたんですねえ。といいますか実際、そうでもしないと藤原さんがそんな程度で済まされるわけもありませんでしたし」
「そ……そうなのか」
「特にローデイン自治体がカンカンでしたよ。藤原は死罪に処すべきだという論調さえありましたからねえ。平田さんと美山さんは元より、渡辺さんも彼らを宥めていたほどです」
「ああ……そりゃまあ、ねえ」
柳丸さんのことは脇に置いたとしても、藤原さんのやらかしはローデイン大陸やミトケス自治体からすれば死刑にしたくて堪らない案件だろう。
何せ彼女の意向がそのまま通っていたら、今頃ミトケスは六闘神か七志剣帝どちらか、あるいは共同の支配下に置かれていたんだからな。
当事者である自分達を無視して勝手に取る取らないの話をされていたことも合わせ、厳罰を求めるのは仕方ない話ではある。
とはいえ、と真太くんがニヤニヤした。
そこはかとなく馬鹿にしたような笑みだ……俺でなく、ミトケスを嘲るような悪意のある笑み。
いっそ白々しいまでに爽やかな声色で、彼は続けた。
「ミトケスといいますかローデインにはそもそも、裏で奴隷商売をしていたという特大のスキャンダルがありますからねえ。ことの発端を真の意味で問うならば彼ら側にあるため、発言権なんて一つもありはしないんですよ。その辺を諭してさしあげたら、あははは! あの人達難しい顔して黙り込んじゃいましたよ」
「三方ともに真っ黒ってこと、かあ」
「政治なんてものに関わる以上、清廉潔白はあり得ませんからねえ。今回のように3者が3者とも、一つの案件に対してそれぞれ痛いところを抱えてるなんてケース、さすがに稀ですけどね」
ひたすら他人事だからって、ものすごい楽しそうにしてるなあ真太くん。まあそりゃ、俺らからしたらちょっとした見物かもしれないけども。
一応俺や彼も、異世界郷友会って集まりの会長と副会長なわけだが……ぶっちゃけ白も黒もないただの連絡網監理団体だからなあ。
政治団体でもなけりゃ商業団体でもない、ただの非営利団体ってとこか。つまりなんの力もありゃしないってことだ。
会員の連絡先を勝手に使って云々ってしだしたら途端に真っ黒だけど、そんなことできないように連絡先を纏めた帳簿はとある場所に厳重に保管してある。
姫さんレベルじゃないと無理に押し入れないほどのセキュリティしてる場所なんだ、会長の俺だって早々近づけないよ。
「とはいえ今回は仲介として関わっちゃったし、あんまり面白がるのはよくないぞ真太くん」
「いやーすみません、たしかにその通りですね。つい楽しくなってしまいましたよ、失敬」
やはりにこやかながら、忠告を受けて申しわけなさそうに眉を下げる。内心がどうあれ素直に反省するのは彼のいいところの一つだと俺は思うね。
さておき、真太くんの話では結局、三方ともに譲歩しなくてはならない部分があるようだ。六闘神は藤原さん、七志剣帝は柳丸さん。そしてミトケスは奴隷売買について、それぞれ都合の悪い事情を抱えているらしい。
それゆえか結局3者とも、なあなあ気味な形で妥協点を見出したと真太くんは言うのだった。
「六闘神はミトケスに対して謝罪と賠償金を支払い、七志剣帝に対しては藤原さんを抱える領土ごと引き渡して美山さんの傘下に収めました。一方で七志剣帝は六闘神に対しては柳丸の抱えていた領土を渡し、ミトケスに対しては柳丸の身柄そのものを引き渡しました」
「事実上、領土交換って形になったんだな。ミトケスからは?」
「奴隷売買の全面撤廃に加えて六闘神、七志剣帝それぞれが統治している領土に対して関税を引き下げることにしました。ミトケスの譲歩できる範囲としては、最大限といったところですね」
「関税の引き下げ、ねえ?」
いまいち分からんが、まあ支配者同士なんかこう、うまいこと落ち着かせたんだろう。
三者痛み分けって形になったみたいなので、さしあたってこれで終わりなのかね、この騒動も。
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