第25話
この男、やはりどうしようもありませんね……
藤原さんにすべての責任を負わせ、事態をややこしくした件についてはあれこれと言い訳して逃げ切るつもりなのでしょう。
「やれやれ、とんだ厄介事に巻き込まれちまったぜぇ? 困っちまうぜ、こっちは善良な七志剣帝様だってのによお。どこぞの馬鹿女が好き放題してくれちゃって!」
「っ」
「雲散らし、貴様っ……!」
「おいおい、やるってのかいとっつぁんぼーや? ツレの暴走も止められなかったくせに、被害者の、巻き込まれただけの俺を! お前さん敵視するってかい。あーあこいつぁ七志剣帝にゃ相応しくねえかもなあ、ええ神雷さんよ」
藤原さんはおろか、美山さんをも愚弄して自身は被害者にすぎないとアピールを重ねる柳丸。
この男の常套手段ですね……挑発的な物言いとともに話を混ぜ返して有耶無耶にし、いつのまにか傍観者あるいは被害者ポジションを確保して本来の被害者を叩く。
反吐が出るやり口です。
たしかにことの発端に際してこの男はなんら関係ありませんが、あとから乗りかかって事態をややこしくしておいてこの物言いは、本来第三者である私から見ても不愉快なものです。
この調子だとおそらく、今回の件について何をどう問われようと声高に被害者アピールを行うつもりなのでしょう。本質的には無関係の人間ゆえの、姑息かつ有効なムーヴですね。
……とはいえこの男を野放しにするつもりは今回、我々には一切ないのです。
会長はあの通りの方ですから、柳丸さんに対しても諦め気味にやれやれとつぶやく程度ですが。お姫様や私、なんならこの場にいる六闘神や七志剣帝達もみな、この場にてこの男に落とし前をつけさせることをほぼほぼ、目的としているわけですね。
「…………あ? おい、なんだてめえらその目は。俺に向ける目じゃねえだろう、おい!」
愉快犯とはまさにこのこと、此度の件についてはミトケス側も巻き込んで、すでに落とし所は構築してあります。
発端やきっかけはともかく、それを己の欲望のために利用したその、あまりの悪辣さに。ミトケス側も含めて多くが彼を睨み、怒りの視線を向けました。
「なんだ? おい。俺は被害者だぞ? もっと気遣えよコラァ! おめーら被害者に向かってなんて目ぇしてんだ、アァ!?」
「いい加減にしたまえ、柳丸英二」
さすがに七志剣帝だけあって怒鳴り返す胆力はあるようですが……すぐさま破軍と天地剣と神雷が臨戦態勢を取ります。
雲散らしへと武器を向け、それぞれ柳丸へと突きつけました。すさまじいスピードに、完全に油断していたあの男では反応ができません。
「……!? どういうこった他はともかく、破軍てめぇ!?」
「もう口を開かないでくれるかね? 七志剣帝の品格が一々貶められていってかなわない」
呻き、驚きそして愕然とする柳丸に、破軍が冷たく切り捨てる言葉を放ちます。
ここに至るまで一切柳丸に悟らせず、ことをここまで運んだ破軍はさすがというしかありませんね。
やつは腕っぷしと危機察知能力だけは大したものなのですから、少しでもボロを見せるとすぐ逃げないとも限らなかったものを……
まさか七志剣帝の長たる、破軍がここまでのことをしてくると思わなかったという油断もあったのかもしれませんね。いやはや因果応報とは哀しいものです。
すべてはこれまでの狼藉の数々がゆえの、当然の帰結なのですから。
「な、な!? なあおい、おめーら正気か? ここで剣を向けるべきは藤原だろうが、あの女こそミトケスの人々を苦しめる大悪だぜ? それとも何かてめえら、揃いも揃ってあの女にたらしこまれでもしたってかい」
「その口を閉じろ、下衆が」
ロストメモリー騒動にてお姫様につけられた傷のせいで、すっかり弱体化している彼では七志剣帝二人と六闘神一人の同時攻撃には、まるで対応できないままお手上げのようでした。
代わりに藤原さんにターゲットを逸らすべく、誹謗中傷を交えつつどうにか口を回していきます。
ですがそんなことで今さら、積もり積もった怒りが収まるわけも無し。御三方はそれぞれ、思いの丈をぶつけていきました。
「柳丸よう……俺等はもちろん許せねえんだが、あの至道が動いたんだよ。てめえはもう終いだな」
「元はと言えばたしかに花織が悪い、けど。それを利用してあちこちに迷惑をかけた、あなたはあなたで許さない!!」
「今までご苦労だったな雲散らし。七志剣帝に、いや世界のパワーバランスにおいて君はもう必要ない。害悪ですらある……時勢を読めなかったな、柳丸英二」
「なっ…………!? まさか、デバガメ野郎!?」
絶句する柳丸。そしてこちらを見て、愕然と口を開けて呆けています。
遅まきながら気づきましたか……この場は事態そのものの落とし前をつけるための場ではなく。たった一人、すべての責任から逃れようとしていた愚か者を裁くための場。
「それでは始めましょうか……ミトケス地方争奪を巡る七志剣帝・柳丸英二の行いと、その処遇について検討する会を」
柳丸英二。
お前を完全に追い詰めて、裁くための場なのだ。
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