第24話

 ──会長からお話を受けて一週間後。

 私、飯谷真太ははるばるローデイン大陸はミトケス地方の、政の一切を取り仕切る統一議会が行われている議事堂にまで足を運び、大層な権力をお持ちの方々と相対していました。

 

 あまり町から出ることがないとはいえ、そもそも外が危険すぎて出られない会長に比べて私はただ、不精がすぎて出ないだけなのです。

 今回のように必要とあらばまるで問題なく、大陸鉄道を使い港まで行き、フェリーに乗って海峡を渡り別大陸にまで向かうこととて容易なのではありました。

 

「やあやあ皆様どーもどーも。たまにははじまりの町からでることもします、異世界郷友会の飯谷でございます」

「ようこそお出でくださった、遠望の賢者殿! あなた様が、郷友会の大鳥会長の名代であることも含め、こうした場を設けてくださるのは非常にありがたいことです」

 

 茶目っ気めかして名乗ったところ、ミトケス自治体の議員の中、痩せぎすの方から歓迎のお言葉を頂戴しました。

 この場には今、当事者たる七志剣帝と六闘神のそれぞれ何名かと、ミトケス自治体の長に加えて議員の皆さん、そして今、私に向けて言ってこられた痩せぎすの男性とがいます。

 

 この方……ミトケスどころかローデイン全体の自治体同盟を取り仕切っていらっしゃる、モントルギア議長さんですね。中々の大物がこうまで下手に出てくるというのは、私の名もあれどやはり、会長の御威光というものなのでしょう。

 当然のことです。

 

「我々、七志剣帝からも飯谷殿には礼を言いたい。なんら関係もない話について、わざわざ遠方より海を超え来ていただけるとは感謝の極み。大鳥会長と雛野氏にもそうだが、厚く御礼申し上げる」

「六闘神として俺からも同意見だ。ここまで拗れた話をどうにかするにしても、遠望クラスがやって来るとは思っちゃいなかったぜ。悪いなこんな馬鹿馬鹿しい話、付き合わせちまってよぉ」

 

 七志剣帝は破軍・平田勝に六闘神は天地剣・渡辺友作が続いて感謝と謝罪の意を申してきていますね。

 聞くにこの二人、とりわけ平田さんなどは今回の案件にはまったくゆかりのない、我々郷友会と似た立ち位置ではあるのですが、七志剣帝を統べる立場上、矢面に出ざるを得ないようです。

 

 一週間前、会長と電話している様子をチートパワー《千里眼》で覗き見て、その辺は分かり切っていますからねえ。

 またお姫様にデバガメ呼ばわりされてしまいそうなことを考えつつ、私はにこやかに応えました。

 

「いえいえ。ことは世界規模の大事ですからね。我々としてもできる限りの協力はしたいと、会長も仰せでしたから」

 

 実のところ、そこまで意識の高いことは口にしていないのですがね、至道さん。精々が"なんか困ってるみたいだし、頼まれたからなるべく行ってあげてよ"程度の物言いしかされていません。

 ですがこう言っておくとほら、ミトケスの方々からはそこはかとなく感動オーラ。各々で作り出した異世界郷友会という組織の幻影、大鳥至道会長という虚構のフィクサーに向けて感謝し、怯え、そして同時に畏敬の念を抱いていらっしゃるご様子。

 

 至道さんの実際を知らないならばそうもなりましょうが、さすがに日本人転移者である七志剣帝や六闘神引っかかりませんねえ。

 会長の等身大の姿を知るため肩をすくめていますが、どうあれ彼への敬意と畏怖とは垣間見えます。

 私による独自の修飾を見破れば見破ったで、それはすなわち会長の正体を知っているのですから……余計に恐ろしい話だと実感するのでしょう。

 

 ──大層な意思表示もないままに、何も知らないままに軽い言葉だけでこの、遠望の賢者を使い走りにできてしまう男。

 それこそが大鳥至道なのだと、改めて思い知るわけですからね。

 

 とりわけそれを強く思い知ったのでしょう。

 今回の件のいわば張本人が、頭を抱えて涙するのが見えました。

 

「…………私は、本当に、なんて馬鹿なことを」

「花織……大丈夫。何があっても、僕は君を支える」

 

 六闘神・藤原花織。ミトケスの奴隷売買に憤って先走った挙げ句、柳丸ごときに踊らされてルビコンを越えた優しい愚か者が、彼氏さんに抱きしめられて励まされています。

 結果としてその彼氏、七志剣帝は美山彼方の下に実質的に嫁ぐ形になるのですから、うちの会長のテコ入れがあったにせよまぁまぁ上手くやったほうなんじゃないでしょうかね?

 

 ……少なくとも本当にやらかした者に比べ、心から反省している分、まだ情状酌量の余地はあると言えましょう。

 私は七志剣帝側、ふんぞり返ってニヤニヤしている中年男性に目を向けました。

 

「ククククッ……郷友会が絡んできたのは予想外だがまあいい。どうせ悪いのは言い出しっぺの藤原なんだしな。そこそこ楽しめたぜ、クククク……!」

 

 細身にどこか陰鬱なオーラを纏わせる、彼こそは今回最大の戦犯と言えるでしょう。

 七志剣帝は雲散らし・柳丸英二その人が、なんの気もなく愉快そうに、我関せずと他人事のように笑っているのです。

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