第23話

「──お話、たしかに承知いたしました。不肖ながら異世界郷友会副会長であるこの飯谷真太、会長と夢想刃氏の名を預かり、必ずやミトケスを巡る一件について仲裁してみせましょう」

 

 一連の事件について、現状進んでいる話について説明した俺に、真太くんは居住まいを正して何やらシリアスな感じに言ってきた。

 俺はともかく姫さんの名を借りるということの意味を、彼なりに重く受け止めているみたいだった。だったら俺からはあまり言うことも言えることもないんだけれど、一つだけ釘を差す。

 

「俺はもちろん姫さんだって、あんまり気にはしない質だけどさ……だからこそ、変なことに名前を使わないようにはしてくれよな。特に姫さんは、夢想刃って二つ名の影響力がとんでもないんだから」

「もちろん至道の名前だって下手に出すんじゃないわよ。まぁデバガメなら分かってるとは思うけどねその辺は」

「無論です。会長の名を、貶めるようなことに使うことは郷友会に所属する者として許されないことと承知しておりますから」

「信じるわよ、遠望」

 

 ……姫さんについて気をつけてくれって言ったんだが、ナチュラルに俺の名前がどうとかって話になっている。

 姫さんが話を逸したのは言うまでもないんだが、真太くんほどの人がそれに乗って脱線するなよ。

 

 連絡網の管理者の名前とかどうでもいいだろ、夢想刃の話をしてくれ。そう思うも口には出さない。

 姫さんと真太くんは基本、性格的にあまり反りが合わないタイプなんだがその分、意見が一致している時にはやたら息が合うのだ。そしてそうなると、下手すると二人して論破しに来るから俺では太刀打ちできない。

 

 こう言うとなんだが、少年漫画のライバルみたいな感じだな。いっそ相棒とかパートナーって言い方のほうがいいのかもしれないが、そのポジションはできたら俺が据わっていたい。

 一応内縁関係だしな。釣り合わないのは承知の上でそれでも、姫の隣は俺がいたいのだ。こんな情けない女々しさ、口に出せるわけもないけれど。

 

 と、そんな折。

 しなだれかかっていた姫さんが、急に俺に抱きついてきた。密着して、頬擦りまでして甘えてきたのだ。

 なんだ真太くんの前でそんなこと。いつものことではあるんだが、唐突さに戸惑う。

 まるで甘えたな子猫のように、姫さんは蕩けるような声を出した。

 

「至道〜」

「どうした姫さん、急に甘えて」

「んふふふ〜。なーんか至道がさ、今、私のこと愛してくれてそうだなって思って。んふー! 私も愛してるわよ至道ー」

「……今も何も、いつだって俺は姫さんのことを想ってるよ」

「んふ、んふふ!」

 

 頬を赤らめて、真太くんなんていないもののように甘え倒してくる。そこに一切の恥じらいが感じられないのがなんていうか、すごいよないろいろ。

 たぶんまた、俺がいらないことを考えていると察知したんだろう。マジで一切、表に出しているつもりはなかったんだから、本当にこの子はエスパーか何かじゃないのかと疑ってしまいたくなる。

 

 そういうチートパワーでももらったのかと言いたくなるが、姫さんの授かったチートパワーは戦闘系だ。

 人の心を読む力だって戦闘で使えたらすごく強いんだろうけど、とにかく彼女のチートパワーについてはすでに知っているため、そんなものじゃないってのはもちろん分かっている。

 

 となるとこの、異様なまでに俺の内心を読み切って支えてきてくれるのは一体、なんなんだろうな。

 本人に聞いてもたぶん、愛って返ってくるんだろう……すごいな、愛。

 

 熱々の茶を啜りながら、真太くんがニコニコ顔でそんな俺達に言ってくる。

 

「いやー相変わらずのラブラブカップルですねえ。私も家に帰ったら、嫁に甘えてみましょうかね……それはさておき会長。ことの経緯は把握しました」

「ああ。まあ、そういうことだから頼むよ。六闘神は渡辺さんと藤原さん、七志剣帝は平田さんに美山くんに柳丸さん。加えてミトケス自治体の長の方々相手を、一つ仲介してあげてほしい」

「お任せください。会長が用意してくださったこの会合、必ずや成功に導いてみせましょうとも」

 

 一礼し、真太くんは答える。肩に力の入っていない自然体ではあるが、絶対的な自信を垣間見せる姿だ。

 これで俺の仕事は終わったな。一息吐いて、俺は茶を啜った。時間は10時前、冬にしちゃ珍しく晴れ渡る空が窓から見え、入ってくる陽気が正月済んですぐの1月を、穏やかに照らしてくれている。

 真太くんが立ち上がりつつ言った。

 

「あとの日程やら段取りについては私にお任せください。会長と夢想刃さんはもう、のんびり構えて待っていてくださいな」

「ああ、任せるよ……帰るのか?」

「用もないのに居座るのは悪いですから。会談のセッティングや調整は、家に帰ってからやることにしますよ」

「ちゃんとやりなさいよデバガメ。他はともかく柳丸は腹黒いんだから、うかうかしてると足元掬われるわよ」

 

 お茶も飲んだし用も済んだということで帰るらしい。ここから先は彼の領分、俺と姫さんには待つしかできないわな。

 姫さんも真太くんに一声かける。柳丸さんは知略にも長けているのは今回の悪辣な動き方でも分かるし、ないとは思うけど真太くんがやり込められないか気になるんだろう。

 ただ、そこは彼も遠望の賢者ということか。不敵に笑い、彼女に応えるのであった。

 

「ご忠告どうも。ま、腹芸にかけては私も一家言ありますから。格の違いというものを向こう様には分かっていただくことにしましょう」

 

 そう言って去っていく真太くん。

 ともあれ、これでひとまず一段落、か。

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