第21話
平田さんとの電話も終わった。今回のミトケスを巡る一件も、どうにか落とし所というか妥協点的なものが見えて気がするなあ。
要は真太くん立ち会いのもと、六闘神と七志剣帝およびミトケス自治体のトップ方が三者会談を開く。あとは当事者同士で解決してもらい、どうにか事態の収拾をつけてもらえればそれでいいのだ。
そもそも俺や姫さん、真太くんが絡んでいく意味はあったか? とは思うけど……まあ真太くんが持ちかけてきた話だし、何かしら意図はあったんだろうとは思う。
何せ遠望の賢者様だしな。概ねあとのことは彼に投げておけば、俺のやることも完全になくなるわけだな。
「というわけで、真太くんに電話かな……と?」
「────むにゃ?」
こうした解決への糸口を、あとは真太くんに伝えるだけだと三度、黒電話の受話器を持ち上げようとしたところ、不意に甲高い音が鳴った。
インターホン、うちのだ。まだ朝8時半とかそんな頃合いに、一体誰だろう?
本格的に寝入りだしていた姫さんも、今の音で眠りから呼び起こされたみたいだ。俺も用事が終われば、彼女を抱きしめて一緒にこたつの中、眠ろうかと思ってたところにいささか迷惑な話である。
はいは~い、と言いながらも玄関に向かう。姫さんも眠そうにしつつもさすがは夢想刃、近くに立てかけてある刀を一本、携えて俺についてくる。
ないとは思うけど強盗とか暴漢の可能性も無きにしもあらずだしね。いつもボディーガードみたいにしてくれる、姫さんには感謝しかないよ。
ドアを開ける。立て付けが悪いからギイギイ音を鳴らす不協和音とともに、俺は来訪者へと反応した。
「はいおはよーございます、訪問販売とか宗教のアレとかならいらないよ、と──」
「おはようございます会長。そろそろ私の出番かなと思い、来ちゃいました」
「…………げ、デバガメ」
背後で姫さんが呻く。ドアを開けた先、目の前にいた来訪者とはまさに今しがた、電話をかけようと思っていた相手だった。
すなわち飯谷真太くん。異世界郷友会の副会長であり、チートパワー《千里眼》をお持ちの通称"遠望の賢者"様である。
昨日の別れ際、酒を飲みすぎて顔を真っ赤にしていたのが嘘のように血色のいい顔つきで、にこやかに笑っている。
そんな彼は片手を挙げて、笑顔で続けた。
「いやー、たまたまお近くを通りがかりましたので、朝早くで恐縮ですがお伺いしてみました。あと昨日の件、会長のことですからさっそく、動いていてくださってるかなーとも思いましてね。フフフ」
「そ、そう。まあ、いいタイミングではあるよねえ」
「なぁーにがたまたまよ、どーせまたご自慢の千里眼で盗撮してたんでしょうが。あんたプライバシーって知ってる? プ、ラ、イ、バ、シ、イ」
「もちろん存じ上げていますとも。まったく持ってお二方を覗いてなどいませんよ。はははは」
穏やかだけどどこか、底知れない笑みを浮かべる真太くん。対してうちの姫さんは、腕組みしながら呆れ返ってそんな彼に嫌味を放つ。
なんなら威圧もしてるっぽいが、それさえ受け流してやり過ごす彼……うーん、場違い感出てきた。
具体的に場所と俺が良くないな、これ。
姫さんと真太くんがこういうやり取りするんなら、もうちょっとこう洒落たところで、大物っぽい場所で誰も介さずにやったほうが合ってるんじゃないだろうか?
なんせ世界最強の夢想刃と、世界すべてを見渡す遠望の賢者様だ。何が悲しくてこんな、いっちゃ悪いがボロアパートの玄関で溝浚い挟んで睨み合ってるんだか。
おじさ、もといおにいさんはなんだかやるせなくなってきたよ。
と、そんな俺のしみったれた胸中をやはり、見抜いてきたのか。姫さんが俺を後ろから抱きしめて、頭を撫でてきた。
若干ヘッドロックっぽい体勢なんだけど、頼むから力を入れないでくれよな姫さん? 元の日本ならまだしもここだと俺、マジで即死しちゃうからな? 赤ん坊相手にも死にかねないんだからな?
戦慄が背筋を巡る心地と裏腹の、静謐を湛える声色で姫さんは、真太くんを見据えて言う。
「……用件済んだらさっさと帰りなさいテバガメ。至道は今日オフなのに、朝っぱらからめんどっちい連中の相手してたのよ、あんたのお願いごとを律儀に聞いてね。これ以上うちの人に迷惑かけたら承知しないわよ」
「ええ、まあその……いや本当、会長には急に大変なことをお願いしてしまいまして、申しわけないとは思っているんですよ」
「いやいや、そんなこと。ただ単に電話して、話してただけだしさ」
やたら労ったり申しわけなさそうにしたりされるけど、俺なんか結局のところ伝書鳩みたいなもんでしかないし。
話聞いて、考えて、真太くんに伝える。それだけ。そもそもなんで俺を経由するんだって言いたいくらいなんだが、一応の郷友会会長としての俺を、副会長である彼は立てようとしてくれているみたいだ。
そんなんだったら会長とか譲るよ? って何度も言ってるんだけど、なんでか固辞されてしまう。
矢面に立ちたくないとか言ってるけど、今だって別に俺、何かの矢面に立ってるわけじゃないのにな。
たまにそういう、変に話が噛み合わないことがあるのはなんなんだろうか。溝浚いにはよく分からんわ。
「まあ……とりあえず入りなよ、寒いし。ちょうど話したいこともあるしさ」
ともあれ、話があるのは間違いない。
姫さんの腕をタップ同然に何度か叩きつつ、俺は真太くんを家に招いたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます