第19話

『柳丸の処遇については、いっそ関係各位集め、話し合いで決着をつけられないかと思っています』

 

 ミトケス地方にまつわる騒動を、一気にややこしいものにした七志剣帝は雲散らしの柳丸さん。

 六闘神やミトケスの人々のみならず、身内のはずの七志剣帝からも許すまじとされている彼をどう言った形で処分するのが妥当か。

 

 平田さんは自分ひとりでは決めかねる、考えかねると思ったのか、全員集合を呼びかけてきた。

 関係している人を全員が、一箇所に集め……面と向かっての話し合いで決めようというのだ。

 

『藤原、美山、渡辺、柳丸は当然のこと……ミトケス地方自治体のお偉方に加え、私も出向きましょう』

「ずいぶん思い切りましたね。まあ、話し合いで解決となると結局、当事者間で集まるしかないんでしょうけど」

 

 力で決める、というのはこの際なしだ。柳丸さんの思惑にこれ以上乗ると、本当に収拾がつかなくなる。

 だが、話し合いでの解決ともなるとそれはそれで難しいところはあった。危うく領土危機が危ぶまれたミトケス自治体からすれば、そもそも呼びつけられる事自体が不快だろう。

 

 柳丸さんなんかも、ギリギリまでは話を混ぜ返そうとするだろうし……そうなれば集まり自体拒否されるかもしれない。

 無理に連れてこようとすればそれこそ戦乱だ。どうするつもりなのか。

 受話器の向こうで平田さんは、真剣な声色で俺に言った。

 

『あなたと夢想刃の名前をお借りしたい……それと"遠望の賢者"も』

「俺と姫さんの名前に、真太くん? ええと、なんででしょう?」

『遠望をあなた方の代理人として立て、事態の第三者仲介人とします。大鳥至道と雛野姫莉愛の名を使うのは、ミトケスと柳丸への牽制ですね。遠望が二人の名を出す以上、一切話に応じないというのは悪手だぞ、というね』

 

 なんともはや、この人こっちを巻き込む気でいるよ。

 俺はともかく姫さんと真太くんを引き合いに出せば、そりゃあみんな一応は話を聞くくらいするんだろうな。

 なんで俺の名前まで出すのかは知らんけど、まあアレか。真太くんが郷友会の副会長ってのと、今電話してるのが俺だから一応、名前を借りとこうってとこか。

 

 ふむ……俺と真太くんについてはいいんじゃないかな?

 そもそもなんの関わりもない俺がこうして首を突っ込んでいるのは、真太くんに話を聞いて解決策を考えてくれと無茶振りされたからだ。

 その時点でなんでだよって感じはつきまとうが、まあ一応会長だしってことで、話を聞いているのが今になる。

 

 つまりは言い出しっぺが真太くんなんだから、彼に骨を折ってもらおうというわけだ。

 彼自身、妙案があったら自分に丸投げしてくれ、的なことは言ってたしな。じゃあ遠慮なく無茶振りさせてもらおう。

 

「となると、後は姫さんか……」

「んん……なあに? 至道」

 

 問題は姫さんだ。つぶやくと、こたつでぬくぬくしている彼女がこっちを見た。眠たげにしているあたり、もうじき寝るなこれは。

 俺はざっくり平田さんの案を説明し、彼女にも協力を求めた。

 

「───ってなことで、真太くんには俺と姫さんの名前で話をまとめてもらおうと思う。んだけど、姫さんの名前を使わせてもらっていいか?」

「んー……いいよー。変なことに使ったらどうなるか、デバガメも破軍も柳丸も、さすがに分かってるでしょうしー」

 

 ウトウトしつつも頷いて、姫さんはそのまま目を閉じた。

 しれっと恫喝に近い物言いをしつつも、いよいよ睡魔に負けたようだ。俺も眠たくなってきた。

 さしあたり、平田さんに許可する旨を伝える。

 

「あーもしもし。俺も姫さんも名前を貸すには問題ありません。ま、変なことに使わないでくださいとだけは言っときますが」

『それはもちろんです! あなた方の名前で勝手をするなど自殺行為もいいところ、というのは遠望の賢者もそれは重々承知の上でしょう。ご協力くださり感謝いたします』

 

 姫さんはともかく俺の名前に、どれだけの値打があるんだかって話だが。とりあえずは気をつけてくれるようでよかった。

 となると、あとは俺のほうから真太くんに話をするだけだな。俺と姫さんの名代としてミトケスの問題に首を突っ込め、とは我ながら無茶苦茶な話ではあるが、やり方さえ考えついたら自分に丸投げしていいって、言ったのは他ならぬ彼自身だ。

 

 頑張ってもらおう。俺も溝浚い頑張るから。

 完全にあとのことは真太くんに丸投げして、俺は平田さんへと告げた。

 

「そしたら、俺から真太くんにはお願いしておきますよ。あとのことは真太くんに任せますから」

『わかりました。すみません、本来であれば無関係のところを、こうまでよくしていただいて』

「いえいえ、それこそ同郷のよしみでしょう。水臭いこと言わないでくださいよ」

『…………さすかですねえ。ありがとうございます』

 

 ちょっと間を空けて何がさすがなんだか、感心しきりの平田さん。

 首を傾げつつも、とりあえず話はそのようにまとまった。

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