第18話
藤原さんについては半ば、予定調和的な動きで美山くんの下に置かせる……嫁入りめいた落とし所に、俺としても否やはなかった。
やらかしたことへの償いは別途、していかなければならないだろうけれど、対外的な落とし前としては六闘神の一角が七志剣帝の下につくという話になるため、六闘神にとっても禊を済ませる形にはなってくれるだろう。
「となると、今度は柳丸さんの処遇次第ですね……藤原さんを美山くんの下に、だけでは今度は六闘神が納得いかないでしょうし」
『正直に言えば、七志剣帝だって納得しませんねそんなことでは。そろそろいい加減、柳丸をどうにかしたいと思っている者もいますから』
「でしょうね」
今回に限らずこれまでにも、柳丸さんはあちこちで騒ぎを拡大させては被害を出している問題人物だ。
そうした彼の行為に一番、割を食らっているのは間違いなく七志剣帝当人達だろう。
藤原さんと仲違いさせられた美山くんにしても余計な面倒を引き起こされた平田さんにしても、あるいはその他のメンバーにしてもそろそろ、怒り心頭になってもおかしくはない話だ。
もしかしたら六闘神以上に彼に対して、厳罰を求める声をあげ始めるんじゃないかな?
『この際、柳丸を排して誰か新しい者を七志剣帝に、という声さえあがってきています。柳丸もそろそろ歳ですし、チートパワーは健在でも実力自体は確実に衰えてきていますから』
「物騒ですね……衰えたにしたってまだまだ、世界屈指の実力ではあるでしょうに」
『3年前までは間違いなく、七志剣帝トップでしたね。ロストメモリー騒動がなければ今でも猛威を振るっていたのでしょうが……そこは本音を言いますが、そちらの雛野さんに感謝ですね』
「ははは……」
ぶっちゃけちゃった、平田さんに苦笑いするほかない。
実質的に七志剣帝を弱体化させたのが、うちの姫さんだぞと言外に言われているのだ。上手いこと反応をしようにもできなかった。
そう、柳丸さんは件の騒動で姫さんに殺されかける前まで七志剣帝でも最強とされるほどの腕前の戦士だった。
雲散らし──異名の通り剣を振るえばたちまち曇天さえも吹き飛ばし、晴天へと変えてしまう。気象さえ操作してしまえる規格外の剣の使い手、なんだそうだが。
姫さんの想い出を消し去った代償に半殺しにされ、一年近くの入院を経た結果、著しく弱体化したのだ。
なんでもそれまでに蓄積してきたダメージが療養で一気に吹き出たとのことで、半年ほど前に電話した時に本人が苦笑いして、悔しそうにしていたのが印象的だ。
そう言えばあの時、姫さんだけは近くに寄らせないでくれとか言ってたな……そのくらいトラウマになってるのに、なんでわざわざ姫さん的にも許せなさそうな騒ぎを起こすかね。
バトルジャンキーの思考回路は俺にはよくわからん。
「……微かだけど聞こえたわよ破軍。あんたらのバランス調整のためにあのオヤジを半殺しにしたわけじゃないんだから、そこ勘違いしてると次はあんたらかもよ?」
と、その姫さんがポツリと嘯いた。聴力も人間離れしている彼女だからか、俺と平田さんのやり取りも多少は聞こえているみたいだ。
そしてその内容も物騒極まるものだ。結果的に七志剣帝という組織のまとまり、バランスを改善することに貢献した彼女だったが、当然彼女本人にはそんなつもりはない。
こく普通に、当たり前の流れとして柳丸さんを半殺しにしたってだけの話に、七志剣帝が勝手に助かったというだけの話なのだ。
この辺を勘違いして、たとえば夢想刃は七志剣帝とともに! みたいな発言をすると、たちまち姫さんは彼らを薙ぎ倒しに旅へと出るんだろうな。
今でもたまに、自分の名前を利用した輩をとっちめるべく、一週間から半月程度の小旅行に一人で出かけることさえあるし。
下手に有名人だってのも大変なもんだな、いろいろ。
ともあれ、平田さんへと苦笑いして告げる。
「……だ、そうですが」
『はははは! もちろん重々承知の上ですとも。"夢想刃"雛野姫莉愛の地雷は踏まない──七志剣帝、いや世界のバランスを担うすべての勢力に共通している、これは3年前からのルールですとも』
「そんなにですか……?」
「ふん、いちいち大袈裟……何がルールよ、私一人に馬鹿馬鹿しい」
全勢力にとって雛野姫莉愛という女性が、それだけ影響力を持っている──にわかには信じられないし当の本人も吐き捨てて不貞寝しているが、平田さんの物言いは軽妙ながらも重い響きがある。
夢想刃。世界最強の剣士として名高くなっちまった姫さんは、本当に世界規模の存在なのだろう。
なんとなし、改めてだが。
住む世界の違いというものはまざまざと感じさせられてしまう話だ。
本来ならばこんな狭い家の小さな部屋の、ちっぽけなこたつの中でグータラしてるような人じゃないんじゃないだろうか? そんな考えさえ思い浮かんでしまう。
「すげえもんだなあ……」
「私からすれば、至道のほうが100億倍すごい!」
つい口にして出すと、姫さんは拗ねたように唇を尖らせて、そんなことを叫んで寝転んだまま丸まった。
このままウトウトして寝始めるやつだろう。穏やかに眺めつつも、俺は平田さんとの電話を継続した。
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