第13話
まず聞きたいことは、なにはどうあれ柳丸さんとの衝突の件だろう。大陸の一地方を巻き込んでのぶつかり合いなんて、一体何がきっかけなんだか。
「ミトケスでの柳丸さんとの戦いについて、今あちこちニュースになってるみたいですが……」
『それなあ。正直に言えば、俺も柳丸も別にやり合うつもりはなかったんだよ。藤原と美山が来なけりゃ、普通に出くわしても、一言二言交わして終いだったんだろうし』
「? ……え、藤原さんと美山くんがきっかけなんですか?」
思わぬ発言。どうしたことか喧嘩中らしいカップルのお二人が、渡辺さんと美山くんが渡辺さんと柳丸さんの衝突の原因になっているらしい。
単なる力比べじゃないのか? と首を傾げたものの、そもそもそれ自体が姫さんの当て推量だったことを思い出して考え直す。そういやニュースでも、ミトケスに恭順をとかなんとか言ってたな。
たしかにどっちが強いかで揉めがちな印象はあるし、実際それであちこちに被害を出してるような両陣営なわけだけど、だからって毎度そんなことを理由にしているはずもないか。
とはいえそうなると、今度はじゃあ、あのラブラブカップルの二人に何があった? となるわけで。詳しく聞いてみると、渡辺さんはため息混じりに言うのだった。
『ミトケスのいくつかの町で、世界条約で禁止されてる人身売買に手を染めてたことが発覚してな』
「なんと……それはまた物騒な」
このファンタジー世界にあって、いわゆる奴隷ってものの存在はもう何百年も前から禁止されている存在だ。
人権意識の発達については、こっちの世界のほうが元の世界より数段、優れていたみたいだな。
と言ってもまだまだ、裏では悪い組織が人身売買なんてものをしていたりもする。普通に国際問題なので六闘神やら七志剣帝等、日本人転移者の勢力も各国各自治体も足並み揃えて対応しているわけなんだけど……
今回、たまたま六闘神と七志剣帝にわかる形でそうした犯罪が明るみに出たってことか。
『最初に発見したのが俺と藤原で、後から美山と柳丸が合流した形になる。組織は責任持って潰したんだが……藤原が厄介なことを言い出してな』
「厄介なこと?」
『ミトケスに六闘神なり七志剣帝なりの手を入れて、奴隷売買なんて二度とさせないようにするべきだってな。奴隷の中に幼い子供達もたくさんいたことで、どうも義憤に駆られたらしい』
「あー……」
藤原さん、子供好きだもんな。転移前の将来の夢が保母さんだったとか言ってたし、そんな彼女からすれば子供を奴隷になんて、絶対に許しがたい行為だったんだろう。
無論、日本人転移前のみならずこの世界の人間にとっても唾棄すべき行為であるのはたしかなんだけど、今回は特に影響力のある藤原さんがキレた、というのがまずいらしかった。
『ミトケスの自治体連中からすればとんでもない話だわなあ。当然反発するし、なんなら俺や美山、柳丸に助けを求めてきた』
「……で、渡辺さんと柳丸さんは藤原さんへの対応を巡って意見が対立した?」
『そういうことになる』
いくらなんでもいきなり面倒見てやるから言う通りにしろ! は乱暴だ。ミトケスの自治体だってそんな話、飲めないに決まってる。
藤原さんは大分直情径行にあったけど今回は特別極端だ。それだけ酷いものを見たってのはあるんだろうけれど、その結果ミトケスの人達は同時期に現地に来ていた他の日本人を頼ったわけで……
結果として揉め事に発展したんだから、この辺は藤原さんの責任が大きいな。
どういう成り行きで対立構造が生まれたのか、渡辺さんはつづいて説明した。
『柳丸が藤原について統治下に置こうと主張して、美山と俺はいくらなんでも乱暴すぎると反対。そこから俺が柳丸とやり合う羽目になったってわけだ』
「……元々の組み合わせが、入れ替わった形になってますね」
『美山も俺も、基本的な政治スタンスはハトだからな……私情で暴れてる藤原に賛同できるわけもないんだが、そこに愉快犯の柳丸が便乗しちまったんだよ。あいつ、ドンパチ大好きだからな』
「迷惑だなあ」
思わず嘆息混じりに柳丸さんを非難してしまった。いやでも、このくらいは言ったって構わない程度には彼の動き方が酷い。
七志剣帝"雲散らし"柳丸さんはいわゆるバトルジャンキー的な方なんだが、大好きなバトルをしたいがためにわざと揉め事に介入して話をややこしくしがちという、厄介者の性質を持っている。
同じバトルジャンキーのきらいがある渡辺さんでも、政治的立場やTPOを弁えているのにあっちのほうは完全に自分の趣味嗜好を優先しているのだ。
今回で言えば藤原さんに与し、美山くんと渡辺さんに対してちょうど戦力が均衡するように仕向けて騒動を広げた形だな。
たとえば美山くんが藤原さんに与していた場合、柳丸さんは藤原さんと組んでいただろう。ここまで有害かつ迷惑な風見鶏もまあ、いないよ。
『藤原も、柳丸が擦り寄ってきたことでまずいとは思ったみたいだがもう手遅れだ。柳丸が俺にミトケスで仕掛けてきて、それをきっかけに互いがもうのっぴきならない状況になっちまった』
「言い出しっぺの藤原さんが、逃げ出せなくなったんですね」
『美山も藤原を連れ戻そうとしたが、これまた面倒な話で藤原のほうが腹括っちまってな。やってしまった以上、最後までやりきらないといけないつって、泣く泣く彼氏と切り合いだよ』
馬鹿じゃねえのか、あいつ──と、藤原さんをこき下ろす渡辺さんに肯定も否定もしづらく、俺は黙り込んだ。
柳丸さんという特大のトラブルブースターがいたのは不幸だが、それ以前に極端な主張をしだしたのは彼女自身だ。そういう意味ではやはり、自業自得と言えちゃうんだろうなあ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます