第12話
「ごちそうさまー! はー、満腹満腹!」
「よろしゅうおあがり。今日も平らげたな」
「んふふー! 余は満足じゃー!」
規模の大きい喧嘩をしちゃっている同郷の人達への対応はさておき、ひたすら朝ごはんを堪能して俺達は箸を置いた。
おかずは元より炊飯器も空だ。完食である……大半は姫さんが、一人で爆食いしてたから俺はそんなに食ってないけどな。
満足そうに腹を擦り笑う姫さん。あんだけ食って腹が膨らんだ様子がないのは、さすがの鍛え方だと感心する。
マッチョレディってわけじゃないけどシックスパックはうっすら見えるくらい、筋肉がついてるしな。刀振り回すのが日常の戦場にいたってんだから、逆にそうでないと困るね。
「食器、私が片付けるね!」
「お、サンキュー」
「至道はアレね、さっさと六闘神なり七志剣帝なりに電話でもしちゃったら? 面倒くさい話はさっさと終わらせて、二人でのんびりイチャイチャしましょ!」
空になった食器を次々重ね、台所に運んでいく姫さん。用意したのは俺なら、片付けるのは彼女ってことだな。
その間、俺も手伝おうかと思ったんだが先手を打たれ、姫さんに面倒事を早めにこなすように言われちまった。たしかにそうだ、こういうことって放置するとどんどん、面倒なことになってしまうしな。
頷き、俺は部屋のタンスの上にある電話に手を伸ばした。
「すっかりこいつの使い方にも慣れたな……っと」
黒塗りの、いわゆる黒電話だ。本体の上に乗っかっている受話器に手をかけ、俺はダイヤルを回していった。
召喚された当時、こいつの使い方が一向に分からずめちゃくちゃ恥をかいた。てんでデタラメな番号にかけちまったこともあるし。
同時期にやってきた連中も似たようなもんで、昭和を生きた先輩日本人転移者がいなかったら下手するとその後もずっと、電話の使い方が分からずじまいだったかもなあ。
さておき、電話をかける。番号トチってなけりゃ、六闘神の渡辺さんの家にかかってるはずだ。
姫さんの話だと七志剣帝もだが、この人達ずいぶんゴージャスな暮らしをしているみたいだし、使用人の人とかが出るかもな。異世界郷友会の会長つって、イタズラ電話に思われたりしないか不安だ……と。
電話が繋がった。男の人の声が聞こえる。
『はいもしもし』
「あ、もしもし。私あのー異世界郷友会の大鳥と申しますが。こちらあのー、六闘神の渡辺さん家のお電話でよろしかったでしょうか」
『…………!? え、ええ。はい、たしかにこちらは渡辺友作様の電話にてございます。大鳥様』
なんだ? 電話の向こうで息を呑むというか、面食らっているようだが。特に当たり障りのないことしか言ってないよな、俺?
まあ、電話するとたまーにこういう反応はたしかに、返ってくることもある。何をそんなに驚くことがあるんだか、一度友人に聞いてみたんだが変にはぐらかされてばかりだ。
「ええと……渡辺さんいらっしゃいます? お取次ぎ願えればと思うのですが」
『は……かしこまりました。少々お待ちくださいませ』
「恐れ入ります、ありがとうございます」
ゴソゴソと、たぶん受話器を置きっぱなしにして渡辺さんを呼びに行ったんだろう、何かが擦れるような音がする。
とりあえず門前払いって感じでもなくてよかった。これでこっちはとりあえず渡辺さんに話を聞いてみることができる。
例のお二人さん、藤原さんと美山くんが揉めてるのはおそらくだけど、渡辺さんと柳丸さんの衝突が絡んでいるものと見られる。
本丸であるカップルさん二人から直接聞いてもいいんだが、まずは直近だろう関係者の渡辺さんと柳丸さんから話を聞いてみようと思うのだ。そこから何か分かればよし、分からなければ次は柳丸さんに電話をかけるまでってわけだな。
電話を待つ間、台所に立って洗い物をしている姫さんの背姿を見る。クリーム色のセーターにジーンズの背姿がなんとも、幸せな風景だ。
故郷の母ちゃん、俺、10歳年下の嫁さんができたよ……なんて、益体もないことを考えていると不意に受話器から声がした。
お出ましみたいだな、六闘神。
『──おう、会長さん。渡辺だが、なんか用かい』
渋い、しわがれた男の声。いかにも以前、お会いした際にも聞いた"天地剣"の声だな。電話越しだとちょっと違和感あるけど、特徴的な声だからそれでも分かる。
渡辺友作。もう還暦を過ぎてなお、チートパワーを振るって暴れ倒し、特に強者との力比べを望んでいるとかいう大変迷惑な御老体の、元気な声が受話器からも響いていた。
「あー、どうもご無沙汰です。お変わりないようで何より」
『いやそういうのいいから本題に入ってくれや。会長さんほどのお人がわざわざ電話してくるなんざ、柳丸との一件くらいしか思い当たりはないがな』
「あ、それは話が早くて何よりです。いかにもその件につきまして、お話お伺いしたくって」
バッチリ用事を見抜かれていたわけだが、こうなると話がスムーズに進みそうで助かる。
威圧感たっぷりな声を前に、俺はなるべく穏便な感じの柔らかな声色で、渡辺さんに質問をしていく。
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