第11話
布団を畳み、空いたスペースに折りたたみの机を置いて座布団を敷く。そしたらそこに、俺特製の朝ごはんを置いたらあっという間に朝食のシーンだ。
うちにテレビはないからラジオをつける。朝らしい、ニュース音声が特徴的な抑揚のないテンポでつらつらと流れていた。
「テレビほしいけど……ぜんぜん家電店においてくれないものねー」
「マジで高級品ってか、レア物だからなあ。そもそも生産体制が整ってないってこないだ、知り合いの家電メーカーの人が言ってたぞ」
「へー。日本人?」
「いんや、ケンタウロス」
スーツ姿で下半身が馬の、非常に和洋折衷感がある温厚な人柄の人だ。もう10年近い付き合いで、今は別の町で家電品の営業なんてしてらっしゃるけど盆と正月には故郷であるここ、はじまりの町に返ってくる。
大体俺の知り合いはそんな感じに方々にいるが都度、帰省はしてくるわけなので……郷友会とは別口にコミュニティがあって、俺はそっちにも参加してたりするな。
さておき、茶碗に山盛り白米をよそって姫さんに渡す。
テレビについてはさておき、まずは腹拵えだ。姫さんは嬉しそうに笑い、両手を合わせた。
「んっふふー! 美味しそう、いただきまーす!!」
「おう、よく噛んで食べろよ」
子供じゃないしー、と笑いながらも箸を手に取り食べ始める。米食って味噌汁飲んで惣菜食べてと、まあまあきちんとした三角食べだ。
見た目ギャルギャルしい姫莉愛だけど、親の教えはしっかりしている。本人も実のところは真面目な子だから、こうしてふとした拍子のお行儀は大変、よろしいものなのだ。
かくいう俺も飯を食い出す。俺はどっちかというと少食で、特に朝はそこまで量を食えない。
なので白米と味噌汁だけで十分だ。強いて言えば漬物があってもよかったが、あいにく今は切らしちまった。また買いに行かないとな、フェアリーの婆さんがやってる漬物店。
あそこのたくわんが美味いんだ……と、脳内で味を反芻しているとふと、ラジオの音声が耳に入ってくる。
知り合いについての話題が、聞こえてきたのだ。
『今やトレドギン大陸の主とも呼ばれる六闘神、サリャルード大陸を牛耳る七志剣帝。いずれも日本人転移者による集団でございますが先日、彼らの一部メンバーがローデイン大陸はミトケス地方の所有権を巡り衝突しました』
「デバガメの言ってたやつね……まったく迷惑なことして」
「なんでこう、野心ばっかりで動くもんかね……」
昨日、酔っ払う前の真太くんが言っていた六闘神と七志剣帝のぶつかり合いってのはこのことだろう。やり合った場所もドンピシャ、ミトケスだしな。
ローデイン大陸はいわゆる少国家乱立地帯で、だからこそどの国、どの勢力も未だ大陸統一が果たせていないある種の空白大陸だったりする。
野心にのめり込んでる日本人達にはさぞかし、宝石箱のようにでも見えているんだろうけど……あんまり人に迷惑をかけるようなことはしないでほしい、というのが大多数の日本人転移者達の本音だな。
『衝突したと見られるのは六闘神は"天地剣"の渡辺氏と七志剣帝は"雲散らし"柳丸氏。双方ミトケス地方の自治体に向け恭順を迫っていたところ遭遇。そのまま戦闘に至ったものと思われます。これに対してローデイン大陸共存同盟盟主のモントルギア議長は遺憾の意を表明し───』
「どこの世界でも遺憾の意ってのはあるもんなんだな」
「いかんのい?」
「そういうのよくないと思うよー……ってのを堅苦しくするとそうなる」
つまりは大した発言でもないってことだ。それで渡辺さんと柳丸さんが止まるわけもなし、しばらくミトケスを巡っての戦闘は断続的に発生するだろうなってのは、なんとなくだが察せる。
真太くんは、それを防ぐべく俺に丸投げしてきたんだろう。いやまあ、俺に言われてもって話でしかないんだけども。
「まあ、ご飯食べ終わったら電話くらいは入れるかぁ……」
「ゴチャゴチャ言いわけしてくると思うし、頑張ってね至道。あんまり聞き分けなかったら私を引き合いに出してくれていいわよ」
「なんて?」
「"夢想刃"が今、誰か斬りたさそうにこちらを見ている……とか?」
ズズズーと味噌汁を啜りながら姫さんが、おそろしく物騒なことを言った。
世界最強とまで言われるこの子はイコール、それだけ多くの命を奪うなり傷つけるなり、あるいは護るなりしてきている。
いくら日本っぽいとはいえ異世界だからか、きな臭い話なんざそこら中に転がっていて、姫さんはそういうのを数多く乗り越えてきた本物の戦士だ。
そんな彼女が冗談交じりにでも、殺意を向けてくる。その圧迫感ってのはなるほど、たとえヤンチャし過ぎの日本人達でも聞き入れる可能性は大きいだろう。
実際、渡辺さんも柳丸さんも姫さんに何度か倒されてるって聞くしね。
「分かった、ありがとう……あんまり話が拗れるようならその名に頼らせてもらうわ、姫」
「んふふー、どうぞどうぞ! まあ至道ならみんな、そこまでナメた対応しないと思うけどねー。念のためってことで」
笑いながらベーコンエッグを頬張る姫さん。
いやー俺ほどナメられるやつもなかなか、いないと思うんだけどなあ。思いながらも俺は、白米を食べた。
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