第8話

 六闘神だの七志剣帝だの、中学生が考えたようなネーミングの戦闘集団に属するいい歳した大人の皆さんの狼藉に、俺も姫さんも呆れ返るばかりで杯を傾ける。

 なんのかんの話しつつ飯を食べ酒を飲みしてると、あっという間に食事も終わろうとしていた。

 

 姫さんはやはり熱燗を呑みきれない、というか呑みきると行動に支障が出そうなため、俺に残り3割ほどを譲って自分はお冷を飲んでいる。まあそれなりに、頬を染めて酔ってそうな感じだな。

 反して俺はそこまで酔っちゃいない。真太くんの話にを聞きながらチビチビ飲んでたってのもあるし、そもそもこの程度の量じゃ酔わないってのもある。

 腕っぷしじゃまさしく月とスッポンってな姫さんと俺だが、肝機能についてはどうやら俺のが上らしい。

 

 引き際を心得ている姫さんと、そもそも引き際には全然至っていない俺をよそ目に。

 正面にて座る信太くんは、飲み始めて30分を回るか回らないかってところでもうすっかり、出来上がってしまっていた。

 

「それで……ええと? そう、それで。あー、会長にはぁ、あのーあれ、六闘神と七志剣帝にぃ、ちょっと仲介とかしてもらいたくてぇー」

「案の定だなあ、副会長」

「今日はまだ保ったほうかも……いややっぱ早いわ。30分でそんなになるわけ? もうお酒止めたら?」

 

 顔を赤く染め、気分よさそうにふわっふわとした酔っ払いぶりを見せる真太くん。

 ごきげんそうで何よりだけど、しれっと面倒そのものな用事を言い出したなこいつ。

 

 六闘神と七志剣帝に話をつけろって、俺に? どうやって。

 はっきり言って転移者の中でも特別頭のおかしい武闘派のあの人達に、溝浚いが何を話せっていうんだか。

 姫さんの呆れた声に応じるかのように、すでにベロベロ気味な真太くんは俺へ、ことの仔細を話した。

 

「あのー、えー。なんでしたっけそう、郷友会の話なんですよー。七志剣帝ぇの"神雷"さんが、なんか六闘神の"月界"さんと一触即発でしてー」

「藤原さんと美山くんが? なんでまた」

「さっき言ってた渡辺さんとなんたらさんの揉め事のー、余波らしいっすよー」

「柳丸さんな」

 

 もはやすべてがあやふやじゃないか、真太くん。柳丸さんの名前すら思い出せてないあたり、相当アルコールが回ってるなあこれは。

 そのくせ発言の内容は物騒極まりないのだから恐ろしい。

 

 六闘神"月界"藤原花織さんと七志剣帝"神雷"美山彼方くん。こないだテレビでは交際報道まで出てた話題のお二人さんなんだけど、何がどうしてそうなった?

 白黒ながらなんか桃色だったじゃないか君ら。子供はサッカーチーム2つ分くらいほしいとか無茶なこと言ってたじゃないか君ら。

 

「仲違いでもしたのか? あの二人……」

「嘘でしょ、あんなにいちゃついてたのに? ていうか洒落になんないでしょ、あの二人のおかげで戦争とか収まってたところ、あるでしょうに」

 

 こないだ……と言ってももう一年前になるかな?

 家に来て、さんざんラブラブっぷりを披露していった二人のあんまりな現状に思わず俺も姫さんも、目を白黒させていた。

 

 六闘神と七志剣帝という、それぞれ別の大陸で覇者となったいわば最強集団の若手同士。それが藤原さんと美山くんなんだけど。

 実のところ二人は戦いの中で互いを意識し愛し合うまで至ったそうで、世界の均衡がどうにか保たれているのはこの二人の愛こそが要因の一つだと言う学者さえいたりするほどだ。

 

 そんな彼と彼女が喧嘩とか、あまつさえ万一にも破局とかってなったら……下手すると大陸間戦争だ。おいおい、洒落にならんよ。

 隣で、事態の深刻さにすっかり素面になったらしい姫さんが真太くんに問を投げた。

 

「酔っ払い、どういうこと? なんでまたあの二人、喧嘩なんてしてるのよ。どっちも真面目なんだし、別れるのは仕方ないにしても喧嘩になったらヤバいってことくらい、分かってるでしょう?」

「いやぁーそこまでは正直分かりませんよぉ。うぃ〜僕も"千里眼"で一応観察してたんすけどぉ、ねえ? なんかもうすっかり拗れたみたいでぇ、言葉一つ交わさず殺し合ってるんですよー怖い怖いぃ……タロさんビールおかわりー」

「言葉すら交わさず? あの二人が……?」

 

 ベロンベロンな真太くんだが、言ってることはまだ辛うじてしっかりしている。だからこそ事態の不穏さが垣間見えて、俺と姫莉愛は視線を合わせた。

 チートパワー"千里眼"を持つ真太くんでさえ、藤原さんと美山くんの喧嘩……いやもはや殺し合いにまで発展しているらしいそんな騒動の根本原因を、測りかねているっていうのか。

 

 すっかり茹で蛸みたいになりつつある真太くんは、それでもまっすぐに俺を見据えた。

 さっき注文したビールジョッキはもう空だ。さらにとろんとした目、酔いの回った口調で、それでもこれだけはと伝えてくる。

 

「……"五星王"だの"双極王"だのが燻っている今ぁ、あの二人にこれ以上〜仲違いされてしまうのは大変よろしくありませへぇん。かくなる上はーもう、会長に動いてもらう他ないんですよっほぉ〜」

「話は分かったけど、会長ったってさあ……俺に何ができるっていうんだか」

「お互いから事情を聞いてぇ、問題点の洗い出しと解決策の考案までぇしていただければーそれでいいんですっ。そう! そうですよいつもやっていることでしょう? 間違いにゃくあにゃたにしかできぃーない役割ですぅっふう。いしぇ、"異世界郷友会"会ちょほー・大鳥至道さん」

「お冷呑みなよ、真太くん」

 

 真っ赤な顔で、ろくに呂律の回ってないながらも人のことをなんだか、ずいぶん御大層に言ってくるよねえこの人。

 どうしたもんかなと思いながらも、とりあえずその場でお冷を飲ませる俺だった。

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