第7話

 俺の抱えるコンプレックスとか、それを見抜いて慰めてくれる姫さんとか。そういうやり取りを興味深げに眺めながらも、真太くんはビールを傾けていた。

 店員さんが刺身の盛り合わせとおでんを彼の前に置く。待ちかねたとばかりに箸を手に取りつつ彼は、俺達に言った。

 

「いやーお熱くて火傷しそうです。お二人を見ていると、独り身というものもなんだか味気なく感じてしまいますね」

「そういうのいいからさっさと本題入りなさいよデバガメ。あんたその調子だと本格的に呑み始めて、たちまち話しどころじゃなくなりそうじゃない」

「はははは、仰る通りですね奥様。すみませーん焼酎お湯割りー!」

「おいおい……」

 

 もちきんを頬張りつつビールを飲み干し、焼酎を追加で頼む真太くん。お湯割りったってそれでも熱燗と似たようなアルコール度数なんだし、そんなもん呑み始めたらもう本題もへったくれもないだろう。

 なんせこいつはよく飲むくせ、酒そのものには弱い。酔いやすいのに量を呑みたがるんだから、間違いなくよくない飲み方もをしているタイプの人間だ。

 

 こんな調子だとあと30分もしたら、特に何があるわけでもないだろうにヘラヘラしだすだろう。そうなるともう半分以上意思疎通不可能だから、何やらあるらしい話ってのは今このタイミングでしてもらわないとまた別の機会になっちまうな。

 

 そこは彼も承知のようで、機嫌よさそうな顔を引き締めた。

 ビールジョッキを空にして、いよいよ話し始める。

 

「さて、それじゃ手短に……"六闘神"と"七志剣帝"がまた小競り合いを始めているようです」

 

 端的に告げられたのは、何やら物々しい呼び名の集団が二つ、喧嘩しだしているって情報。六闘神、七志剣帝……ともに日本人転移者達のあつまり、グループだ。

 数多い転移者達の中でもとりわけ厄介な連中で、若くは5年前から老いては60年も前から暴れまくっているような化物共だな。一括りにして巷では六だの七だの、とにかく人数で区切って呼ばれている。

 

 そしてその名の通り、それぞれ6人と7人という少数精鋭のやつらなんだが……

 例によってチートパワーを手にしているせいで、単なる小競り合い程度の規模でも大陸全土の危機になりかねないという、傍迷惑なまでに無駄に強い連中なのだ。

 

 そんな連中がまた、迷惑なことをしでかしているらしい。日本酒をチビリと呑みつつも、俺は訊ねた。

 

「………またかあ。どこで、誰と誰がやってるの?」

「遥か東北はローデイン大陸、ミトケス地方のとある村。ぶつかっているのは六闘神"天地剣"の渡辺友作と、七志剣帝は"雲散らし"柳丸英二。いつもと言えばいつも通り、剣でのぶつかり合いですね」

「渡辺さんと柳丸さんかあ……」

 

 俺も何度か面識のある、転移者達の間でも古株かつ有名な人達。なんの因果かどこかから聞きつけてきて、うちの異世界郷友会に登録だってしている方々だ。

 悪い人達じゃなかったのはたしかなんだけど、どうも彼らというか六闘神や七志剣帝に属する連中は、何かにつけ腕比べをしがちだから質が悪い。

 

 姫さんも、いやむしろ姫さんにこそ関わりがある話だろう。そう思って彼女を見ると、深くため息を吐いて、呻くようにつぶやいていた。

 

「はぁー……いい歳こいて、またいつものどっちが強いか勝負! なんてやってるのねあの人達。結局、私がダントツ強いってことで解決したでしょーに」

「ははは。この際"夢想刃"雛野姫莉愛という究極形は除くということでしょう。一位は確定しているにしても、二位や三位の座に収まるのは余人には譲れないことなのですねえ」

 

 大笑する真太くん。

 なるほど。あの人達からしても姫さん─"夢想刃"なんて呼び名が定着している彼女、雛野姫莉愛が世界最高の実力を持つってのは確信しているわけだ。

 

 そう、姫さんも刀なんて提げてる以上、冒険者であり戦士であり、チートパワーを持つギャルなわけなんだが。

 誰が名付けたか夢想刃なんつって、転移からわずか5年の間で一気に世界最強の戦士なんて位置にまで駆け上がっていった天才侍シンデレラガールだったりする。

 

 並みいる達人の戦士やら冒険者達をちぎっては投げちぎっては投げした経験をお持ちの姫莉愛さんが、こんにゃくを食べつつ日本酒を胃に流し込み、そしてぼやいた。

 

「七志剣帝なんて3年前に半数、まとめて叩きのめしたのにまーだ懲りてないし……」

「サリャルード大陸をまるまる一つ牛耳る支配者層に対して、そんな強気に出た上にやり遂げちゃうというのは奥様くらいのものですねえ」

「六闘神の連中だってあれよ? 渡辺おじーちゃん含めて4人、この町に帰る直前に叩きのめしたし」

「姫さん、同郷とばっかりやりあってるなあ」

「向こうから仕掛けてきたのよ、もう!」

 

 もう終わった話ながら、本人としてもなかなかうんざりさせられる話だったようだ、その辺の武勇伝については。ぷんすかしながら語っている。

 約3年ほど、世界を巡っていた彼女はその強さゆえか、あちこちの大陸や国を支配していた冒険者達とも幾度となく争い、そのすべてを打倒していたらしい。

 

 中には結果的に圧政や独裁から人々を解放した、なんて英雄的結果にも繋がったそうで……そういうところからも夢想刃、なんてあだ名がつけられたのだとかなんとか。

 まるきりヒーローだ。すごいねえ。

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