第6話 何かをする時、自由に選べないと何となく抵抗したくなる

「他の皆はどうしたって?」

 偵察から戻った僕に、待っていた秀一が尋ねた。


「じゃんけんとか、ほしい物がある人はその子の分までもらうことを約束したり、とか。一回クリアしたらまた助けにいく方法がないか考える、って言っている子もいた」

「うーん、まあ選ぶしかないかな。友也くん、ほしいものがあるって言っていたし、いいよ。僕を置いていって」


「僕は……君と一緒にクリアしたかったから、いいよ。二人でゲームオーバーで。その代わり、また秀一を怒らせちゃうかもしれないけど、君のほしいもの教えて」

「ああ……」

 僕は秀一の隣に座った。


「僕は、やっぱり自由かな。それも今だけの自由じゃなくて、将来を自分の好きなように決められる自由がほしい」

「将来? 医者なんだっけ」

 うん、と秀一は頷く。


「医者になることが嫌なわけじゃない。素晴らしいことだと思う。でも、僕が決めたわけじゃない。このままずっと勉強して、大学の医学部に入って、病院に勤めて……そんなことを考えていたら、人生つまらないなって思って」


 秀一の部屋には一日の過ごし方のスケジュールや一ヶ月の勉強の計画表、そして『将来は医者になる』という目標が貼られているのだそうだ。それは窮屈そうだ……。


 僕は特に親から、何かになりなさい、と決められた将来があるわけじゃない。

 だから、秀一に何て言ってあげたらいいのかわからない。

 そんなこと気にせず、好きなこと選びなよ、とか。そんなの親の勝手だろ、とか。

 でも、秀一は医者になることが嫌じゃないんだよな……。

 うん、わかるよ。だって……。


「秀一みたいな頭の良いやつが医者になったら、たくさんの人を助けられると思う」

「うん、ありがとう」

 秀一は微笑んだ。


「でも、実際に好かれるのって、君みたいなどんな人とでも友達になってしまう、そんな人柄の人だと思うんだ」

「だけどさ、やっぱり色々知ってないと誰かを助けられないよ。さっきのAEDの話をしてくれた時も、すごいって思ったよ。実は僕の父さん……」


「あ、ちょっと待って!」

 秀一は顔色を変えた。それと同時に、持っていたAEDのパンフレットをすごい速さで開いた。

「僕らって今幽霊なんだよね」

「うん。設定上ね」

「本当の体は心臓を止めているんだよね」

「うん。設定上ね。そんなに長いこと止まってたら、本当は大変なことになるけど。って、どうしたの?」


「あった! これ、これを入力して!」

 秀一はパンフレットの一文を指さした。

 パンフレットには、使い方の説明が記載されている。


 その中に、「これを使う時は同時に『119』に連絡を」という文章がある。

 パンフレット内には他にも文章が並んでいるが、この文字のフォントだけ他のと違う。今まで画面に表示されたり、入力したりしていた文字のフォントと一緒だ。

「え、これを入力しろってこと⁉」


 僕はドキドキしながら『119』と打ち込む。

 祈るように画面を見つめた。

 すると。


『今度こそ本当におめでとう! AEDの使用と救命活動により、君の体は息を吹き返した!』


 笑顔になったキャラの子のイラストが画面いっぱいに現れた。

 秀一は嬉しそうに言う。

「よし、これで一緒に脱出……」

 僕は立ち上がって大声をあげた。


「みんなー‼ 119を入力して! このパンフレットがヒントなんだ!」


 それまで僕たちと同じように昇降口に取り残された子たちの間で、ざわめきが広がっていく。

 秀一は呆れたように笑った。

「まったく、君らしいよ」

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