第3話 本当の動画はゴリラが見える


「何であの子を誘ったんだい」


 秀一が尋ねたのは、最初のお題である教室に向かっている時だった。

「え?」

「課題は二人組になること、だっただろ。君は僕をわざわざ誘ってここに来たのに、何故あの子も誘おうと思ったのか不思議に思ったんだよ」


「えっ、それって何か変なことなのか?」

 普通遊ぶ時って、あいつらも誘おうぜってならないか?

「いや、いいよ。僕の考え方が君と違うんだよ」

 秀一は諦め混じりに言った。


「秀一こそ、普段誰とも話さないのは何で?」

「……昔、お母さんにあの子とは遊んでいいけど、あの子とはダメって言われたんだ。頭の良い子と友達になってほしかったんだな、と薄々わかっていた。でも、皆は普通に話しかけてくるだろ? だから誰かを区別するぐらいなら、始めから誰とも仲良くしない方がいいって思ったんだ」

「それは……今も?」


 だから『何であの子を誘ったんだい』という質問に繋がっているとしたら、悲しいなと僕は思った。

 せっかく秀一は誰かを区別したくないって思って、誰とも仲良くしないっていう寂しい選択をしていたのに。


「いや……」

 ちょっと迷ったような顔を秀一はした。

「僕のこと、やっぱりどうでもよかったのかなって心配になっただけだ」

「え?」

「とりあえずこの脱出ゲームを頑張ってクリアしよう。早めにクリア出来るよう、僕も頑張るよ」



 アプリ内の『地図』というボタンを押すと、この校舎の全体図が表示される。

 それを頼って僕らは指定の教室に入った。

 他の子たちも同じ所に行くのかと思ったら、指示された場所がそれぞれ違うようで、別の所に向かった子も多い。


 教室にいたのは僕ら含めて十人ぐらいだった。

 教室自体はボロいが、比較的新しめの椅子と机が並んでいた。

 黒板には教室に入ったら、「一年一組」と入力しよう、と書かれていたので、僕らは「一年一組」と入力した。すると即座に文章(吹き出しになっている)と画像が現れた。


『椅子に座って、動画を見てね』

『白い服と黒い服を着た人が現れ、ボールを投げあう。そのうち、白い服を着た人が何回ボールを投げあえたか数えてね』


 ──さて、ここで僕と同じ動画を見たい、と思った人へ。

 良かったら『ハーバード大学実験 バスケット動画』と検索してみてね。


 すぐには見られないよ、という人は次の章へ行くのをお勧めする。

 へえ!って思うこと間違いなしだから。

 僕もこんな動画があるって、後から教えてもらったんだけど──。



 僕は再生ボタンを押して、言われた通りに数えた。白い服の人と黒い服の人、それぞれ入り混じってボールを投げていたけど、集中して見れば思ったよりも難しくない。

「七回だよね」

 秀一も頷いた。

 僕は七回、と入力する。

 すると『正解』という答えが出た。そしてその後の質問に、僕は面食らった。


『今の動画に、幽霊が横切ったんだ。その人数も教えて』


「え?」

 幽霊なんていたか?

 僕はびっくりした。

「これ、選択的注意力の問題だね」

 秀一は言った。

「何それ」

「僕はこれを知っていたから、幽霊が通ったのはすぐわかったけど……もう一回見てみたらわかるよ」


 もう一回動画を再生するには、二階の教室に行くよう指示されていた。

 う、時間ロスだ。

「秀一わかってるなら、教えてくれてもよくない? 僕らペアだろ」

「教えてもいいけど、友也くんこの後ずっと幽霊が本当にいたのか気になって、しばらく引きずるんじゃない?」

 にやにや、と秀一はしている。なんか腹立つ!


 とはいえ幽霊が横切ったのなら、絶対気付かないはずがないので、気になっているのも事実。

 僕らは指定の教室に行って、今度は「二年二組」と入力して、動画をもう一回再生した。


 そして驚いた。

 なんと幽霊(というにはややしょぼい白い布を被った人)が堂々と、投げ合うボールの間を通っていたのだ。それも三人も。普通に見ていたら、絶対に気付かないわけがない。

 なのに僕は見落としてしまっていた。


 僕が顔を上げると、秀一は面白そうな顔をして僕を見ていた。

「見事に期待を裏切らない顔をしているね」

「何でこういうことが起こるんだ?」

「人間の脳って、特定のところに注意を向けていると、他におかしいところがあっても気付かないように出来ているんだ。ミスもこういうところから起こるんだろうね」


 ちなみに僕ら以外も気付かなかった子はちらほらいて、秀一の話にへええって頷いていた。

 僕が三人、と入れると次の文面が表示された。

『テストで百点をとろう。理科室に向かってね』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る