依頼その2:アジサイの下には死体が埋まってる!?
梅雨の季節はいつもユウウツだけど、今朝は少しだけ違う。
足がまた少し大きくなって、新しい長靴を買ってもらったからだ。
少し長めのブーツは細かく光るラメ入りで、ちょっとだけヒールもついている。
前まで使っていた子ども用とは、ワケが違うのだ。
ウキウキしながら校門をくぐったところで、わたしは校庭のはしっこに人だかりができてることに気がついた。
よく見てみると、人だかりの中に知ってる顔がある。
わたしは一緒に登校していたキョーヤを置いて思わずかけよると、その子に声をかけた。
「おはよー!」
「あっ、ヨリコちゃん、おはよ!」
「ねぇこれ、何かあったの?」
その子によると、ウワサの中心は校庭のフェンスに沿って植えられているアジサイらしい。
お休み明けの今日来てみたらいっぱい開花してたんだけど、なんと一か所だけ、花が赤くなっていたというのだ!
「これってアレでしょ、アジサイの色が赤くなるのは、下に死体がうまってるからって言うじゃん!?」
「そういやわたしも、マンガで見たことがある!」
みんなから、キャーっと小さく悲鳴があがる。
そのまま話をしていると、近くにいた子の一人がキョーヤに気づいて声を上げた。
マイペースな彼は、ようやく追いついて来たみたい。
「あっ小泉くんちょうどよかった! なんでここだけ赤くなったのか調査してって、依頼できるかなぁ!?」
「だからそれ、心霊現象じゃないだろ……」
キョーヤは興味なさそうにため息をついたけど、わたしは興味アリアリだ。
「でも本当に死体があったら、化けて出てくるかもだよ!?」
「いや、大丈夫だ。もし死体がうまってたとしても、アジサイの色が赤くなることはない」
「でもでも、土の酸性度で色が変わるって理科で言ってなかったっけ?」
「酸性度で変わるのは確かだが、死体は酸性だからな」
「酸性じゃダメなの?」
首をかしげるわたしたちに、キョーヤは深くうなずいてみせる。
「日本の土は元からほとんど酸性だから、酸性の死体をうめても青は青のままで変化することはない。そのウワサの元ネタはヨーロッパの推理小説なんだが、あっちは土がアルカリ性なんだよ」
説明を聞いてもまだ納得できなくて、わたしは首をかしげた。
「じゃあここだけ赤くなったのは、なんで?」
「なんでって、土壌改良剤でもまいたとかじゃないか? もうチャイム鳴るぞ。まだ気になるなら後で先生にでも聞けよ」
キョーヤはめんどくさそうにため息をつくと、さっさと教室に向かって行った。
◇ ◇ ◇
「美化委員の先生に聞いてみたけど、別にそこだけ何かまいたとかはしてないはずだって。理科の授業でやった実験とかでもないみたい。あと気になる話といったら、スポ少の男子がライン引きの粉をそのへんにぶちまけちゃって、先生におこられてたっぽいくらいかなぁ……」
その日の放課後。いつもの教室に集まると、わたしは聞き込みの成果を報告した。
とは言っても、あまり収穫はなかったんだけど。
「ライン引きか。成分は炭酸カルシムだから……アルカリ性だな」
「じゃあそのせいかな。あーあ、分かってみたら何だかあっけなかったね」
朝とは違って今度はわたしがため息をつくと、キョーヤは顔色を変える。
「いや待て、炭酸カルシウムぐらいじゃ、一回ぶちまけた程度でそんな強い影響があるはずは……まさか!」
トツゼン教室を出て走り始めたキョーヤをあわてて追いかけると、向かった先はグラウンドにいた野球部のとこだった。
使っているライン引きの粉がある場所を教えてもらうと、今後は用具入れに向かってダッシュする。
こんなにあせってるキョーヤを見るのはひさしぶりだけど、一体どうしたんだろう?
用具入れの奥に積み上げられた紙袋の山を奥のほうまでチェックして、キョーヤはあわてたように大声を上げた。
「やっぱり……消石灰の袋が混ざってる。古いのがまだ残ってたのか!」
「ええっ、なんかよくないの!?」
「昔はこの消石灰がライン引きに使われていたんだが、目に入ったら目が見えなくなるんだよ」
「ええっ、これ、そんな危ないの!?」
顔色を変えたわたしに、キョーヤは深刻そうな顔でうなずいてみせる。
「ああ。事故が何件も発生したから、使用禁止になったんだ。早く処分してもらわないと危ない。オレは他にもないか探すから、すぐに手を洗って先生を呼びに行ってくれ!」
「うん!!」
それからすぐに先生がやってきて、残っていた消石灰の袋はぜんぶ回収された。
お手柄だってほめてくれるかと思ったら、大ごとにしないでおいてくれだって。
「先生、それってなんかズルくない?」
と口をとがらせてみたら、先生は笑いながらヒミツだよと言って、デスクにあったアメのボトルを差し出した。
とっさにキョーヤの方を見ると、さっさと一個つまんで口に入れている。
――まあ今日だけは、トリヒキ成立ってことで。
わたしもアメをつまみ上げながら、見逃してあげることにしたのだった。
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