ツクモ心霊けんきゅーじょ!

干野ワニ

依頼その1:妖怪が生まれる木!?

「幽霊は存在する!」


 窓からさしこむ、真っ赤な夕日を背負いつつ――。

 わたしのイトコの小泉鏡夜こいずみきょうやはメガネをクイッと押し上げて、そうハッキリと言い放った。


 こんなことを言ってるけれど、キョーヤは別に非科学的ってワケじゃない。

 キョーヤのパパは研究者だし、どっちかというと科学にくわしい、いわゆる理系男子だ。

 なのにキョーヤは、五年生にもなってユーレイの存在を本気で信じているらしい。

 いつか必ず霊の存在を科学で証明してみせるとか言って、放課後の教室で『心霊科学研究所』を開いているんだ。


 そんな研究所に現れた本日の依頼人は、同じクラスの男子たち三人みたい。


「実はさ、心霊写真を撮ったんだよ!」


 息せき切ってしゃべる男子からは、今にもツバが飛んできそうな勢いだ。

 わたしはあわてて腕をかざしてガードしながら、ちょっぴり眉をひそめてみせる。


「今どき心霊シャシン~? そんなもの、いくらでもアプリで加工できるじゃん!」

「うたがうんなら川野公園に行って見てこいよ! 妖怪がいる証拠だ!」


 それでも引き下がらない男子に、今度はキョーヤがガッカリしたような声で言った。


「妖怪? うちが募集してるのは心霊だって言ってるだろ」

「オバケも妖怪も一緒じゃん!」

「全然違う! そもそも妖怪というのはな……」


 腕を組みつつ、いつものトリビアを語り始めようとしたキョーヤのセリフをさえぎって。男子はポケットに手をつっこみながら、大きく声を上げた。


「どっちでもいいよ! 街が妖怪だらけになって、手遅れになったらどうすんだ!? いいからこれ見ろよ、そしたら大変なのが分かるって!」


 目の前にずいっと差し出されたのは、水色のキッズスマホだ。

 これはよくない。


「あー、スマホ持ってきたらいーけないんだ! 先生にゆってやろー」

「ちょっ、これ見せたかったから、今日だけなんだって! いいから見ろよ、これ、絶対に妖怪が生まれるヤツだろ!?」


 画面に写っていたのは、すっごく大きな木のコブだった。

 まるで妊婦さんのお腹みたいに、ぽっこり大きく飛び出てる!


「しかもこっち、一匹もう生まれちゃってるんだ!」


 こちらはまるでお腹をつきやぶったみたいに、ぽっかり大きな穴が開いていた。


「「わああー!」」


 思わずコワくなって、スマホの持ち主と一緒に叫ぶ。

 でもその悲鳴は、すぐにクールな声にさえぎられた。


「オマエら、想像力たくましいな……これは妖怪じゃなくて、アグロバクテリウムっていう生き物だ。中で育ってるのはバクテリアだよ」

「ばくてりあ?」

「まあ、バイキンの仲間だな」

「ええっ、それって、こっからバイキンクンが生まれたってことか!?」


 今にも目玉が飛び出そうなぐらいおどろく男子に、キョーヤは肩をすくめてみせる。


「たくさんいるから、イメージとしてはカビロンロンかな……って、どうせ人間の目には見えないくらいちっさいやつだからな。何もないのと同じだ」

「なーんだ」


 わたしとしては目に見えないくらい小さいのがいっぱいつまっているなんて、すっごくキモチワルイ気がするんだけど……。

 単純な男子たちは妖怪じゃないならキョーミないみたいで、さっさとボールを抱えて帰って行った。



  ◇ ◇ ◇



 そうこうするうちに完全下校時刻になって、わたしたちも家に帰ることにした。


「それにしても、心霊現象の依頼ってなかなかこないな……」

「そりゃあそうだよ! だって、そんな幽霊なんているわけないんだから」


 わたしたちの住むI県つくも市は『研究学園都市』とも呼ばれてて、大きな研究所がいっぱい集まっているカガクの街だ。

 こんなところに住んでいて、五年生にもなってユーレイを信じてるなんてバカみたい!


 でもキョーヤがただのバカじゃないことは、本当はわたしにも分かってる。

 職員室にプリント届けにいったとき、先生たちが話しているのを聞いちゃったんだけど……どうやらキョーヤは、ギフテッドっていうやつらしい。

 ギフテッドって天才っていう意味らしいけど、わたしから見たら、ただのちょっとヘンなヤツだ。

 黙っていれば、けっこうイケメンなのにね。


 ようやく家の前に着いて、わたしは並んで歩いていたキョーヤの方をふり返った。


「ねぇ、今日もうちでごはん食べてくよね?」

「うん。……すまん」

「あ、ごめん、気にしないで! ママもキョーヤが来るのうれしいって言ってたから!」

「そっか」


 キョーヤのママは、わたしのママのお姉さんだった人だ。

 でも三年前に病気で亡くなって、それからはずっとパパと二人で暮らしてる。

 だからパパが仕事で遅くなるときは、うちで一緒にご飯を食べているんだ。

 キョーヤとおしゃべりしながら夕ごはん、本当はわたしもうれしいんだけど……それはまだ、ヒミツにしておこう。



――――――――――

※参考写真:妖怪が生まれそうな木(近況ノートへ)

https://kakuyomu.jp/users/wani_san/news/16817330651547414499

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