第7話 森の中の別荘
連れて行かれたお嬢様の別荘は、お祖父様のタウンハウスや亡くなった父の借りていた
基本的に
夏の避暑地なのだろう。
訊けば、この森自体がお嬢様の祖父の土地で、他人が立ち入ることは殆どなく、人目につかない場所としては最も適しているのだという。
「私はお祖父様には可愛がられているから、いつでも使っていいと、ここの鍵を渡されているのよ」
管理人の夫婦と、庭師と家政婦が一人、常駐していて、邸の手入れをしているので、いつでも使えるとの事だった。
管理人の夫婦は、王都に小さな領地を持つ伯爵家出身の三男坊夫婦で、今の身分は王宮で働いていた頃の武勲で陛下に戴いた騎士爵。
「いやぁ、陛下は陛下でも、帝国東部でも小さめの我が国シュターク王国のアッシャーハワン陛下で、皇帝に戴く
「そんなの、うちのお父様も変わらないわよ。
ここで、初めて知るお嬢さんの身分。
──この国の
郊外の大きな森ひとつが領地で、お城のような別荘を持つ侯爵家なら、きっと王家にも
管理人の元騎士の男性は見た目も精悍で、貴族出身なのがすぐ解る整った容姿で、人の好さそうな受け答え。謙遜しても厭味でないし、鍛えられた身体をしていて、真っ直ぐで姿勢のよい、いかにも騎士という風格を醸し出していた。
挨拶が済むと、これから過ごす部屋に案内される。
その途中の廊下で、お嬢さんはドヤ顔で自慢してきた。
今は平民でも、この国の伯爵家の三男で、そこからの国王陛下に直接騎士爵を授与された実力者の誉れ高き騎士が、自分の家に仕えているという事実が誇らしいのだとか。
(お嬢さんにしてみれば、使用人も一種のステイタス。血統書付きの愛玩動物や高価なアクセサリーと変わらないのね)
どこまでも人を莫迦にした、俗っぽくて底の浅い人。
そういう、形に囚われている感性自体が、低俗で子供じみている。
口に出せば機嫌を損ねるだけなので、そう思うに留める。
「この部屋なら、万一誰かが訊ねてきても、エントランスから遠く奥まっているし気づかれないわ。勉強に飽きても庭園やその先の風致林から森も見えるから気晴らしになるでしょう?」
つまり、私はお嬢さんに成りきれるようになるまで、ここに軟禁されるという事ね。
「何よ。私になりきるために、私をよく見て完璧に憶えてもらうんだから、私も一緒よ? 治療のために、ちょくちょく席を外すとは思うけど」
「そう言えば、お嬢さん⋯⋯お嬢様の病気はなんなんですか? 完治出来る
ピシッ
まるで、眼に見えて空気が凍る音が聴こえたような気がした。
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