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 生前の彼女に良く似合う晴天の日に、葬式は執り行われた。10月に入ったというのに外はまだ蒸し暑くて、でも棺の前に立つと、少し肌寒く感じたりもした。棺桶の中に眠る死体は、ひどく神秘的だった。


 菜乃葉のお父さんに聞いた話だと、あの日彼女は僕が帰った後すぐに眠りにつき、そのまま夜もずっと寝ていたのだという。当直の医師が消灯で真夜中に院内を見回るころには、まだ彼女の鼓動は途切れていなかった。そして朝になり、看護師さんが菜乃葉の個室へやってきたとき、すでに彼女は体温を失っていた。


 クラスメイト達は彼女の突然の訃報に度肝を抜いて、わんわん泣き喚いた。静かにしていたのは、僕と証梨の2人だけだった。


 「こんなに早いなんて、思ってなかったっ、」


 証梨は堪えるように嗚咽を漏らしていた。今までずっと、吐き出せなかった何かもそこに含まれているんだろうなと思った。


 里香は案外、クラスメイトの中でも落ちついているほうだった。


 「なんで、言ってくれなかったの……?」


 彼女はただ、僕に対して怒るだけだった。


 「颯くんは、知ってたんでしょ?知ってて隠してたんだよね。何でっ!私、知ってたら、もっと一緒に過ごしたのに……!」


 彼女は泣きながら、僕の胸を両手のこぶしで殴りつけた。初めて彼女の病気のことを知ったときの僕に、今の里香は似ている気がした。


 「……菜乃葉は、みんなに病気のことを話して、それで自分に病人として接されるのが嫌で、僕に黙ってるよう言ったんだ。だから、ごめん。たとえ里香でも、僕の口からは言えなかった」


 「そんな、そんなの……。あんまりだよ、自分勝手すぎる!颯くんも、菜乃葉も、ひどいよ……!友達なのに、私、何もできなかった!」


 里香はその場に崩れて、「うああああああああああ‼」と号哭した。僕は胸がギリギリと締め上げられる感じがした。


 僕は菜乃葉の棺桶に、勿忘草を一本放り投げた。そして、手を合わせて目を閉じた。しばらくずっと、そうしていた。何かを真剣に考えていたのかもしれなかったし、あるいは何も考えていなかったかもしれなかった。


 黒塗りの霊柩車で送られる菜乃葉を見て、ふと、どこへ送られるんだろうと思ってしまった。もしかしたら、菜乃葉の行きたがっていた沖縄かもしれない。そんなことを、思ってしまった。いや、火葬場だろと心の中で冷静に突っ込みを入れてから彼女がもうこの世にはいないことを急に意識し始めて、僕は虚しくて悲しかった。追いかけたいな、とすら思った。


 家に帰ってからも、僕の果てしない妄想は止まらなかった。人は死んだらどこへ行くんだろう。天国とか地獄とか、ありきたりな話はつまらない。もっと次元を超越した、奇想天外な発想はないのだろうか。生まれ変わりもいいなと思ったけれど、そもそも人間に生まれ変わる確率は限りなく低く、たいてい動物とか虫とかに生まれ変わるとされていて、生まれ変わったところで50年後とか100年後とかになるようなので、現世ではどうあがいても会えないことに気付き、その説も信じるには至らなかった。


 妄想しながら、僕は真っ昼間にベッドにもぐりこみ夢を見た。皮肉にも、彼女の夢だった。

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