22
彼女は今どんな顔をしているだろう、と思いながら、僕は家に帰る道を歩いていた。情けない。僕はただ、情けなかった。ふられた、んだよな。あれは。だとして、僕のとったあの行動はとても褒められたものではない。涙を流して僕を振った彼女に、僕は背を向けて逃げたのだ。勇気を出して告白したくせに、逃げた。彼女がいつだったか「颯くんと向き合えていない」と言っていたけど、向き合えていないのは僕のほうだ。僕のほうこそ、彼女と全く向き合えていない。
「なんで告ったんだよ……」
ため息交じりにつぶやいた。何やってるんだ、僕は。帰ったって誰もいないのに、あの場にいたくなくて「帰る」と言ってしまった。彼女は今、どんな顔をしているだろう。
「冗談……?」
彼女は「冗談だって言って」と、僕に泣きながら訴えた。なぜ彼女が泣くのだろう。彼女が抱えている秘密と、関係があるのだろうか。あったとして、その秘密は例えば恋人がいてはいけないような秘密なのか。けれど、やっぱり僕の想像だけでは限界があった。
「冗談なわけないだろ……」
面と向かっては言えなかった言葉が、今では湯水のごとく心の底からあふれ出てくる。それが、より僕の中のやるせなさを増大させていく。もういくつため息をこぼしたか分からない。こんな状態で、1週間後に仲良く沖縄旅行なんて。迎えられるはずがなかった。
そんなことを、思っていたからかもしれない。その旅行は実現しなかった。
僕がすっぽかしたとか、菜乃葉がすっぽかしたとか、そういうことではなかった。
けれど僕は、旅行に対してなんとなく気まずさを抱いていたことを後悔した。
旅行が実現しなかった理由は、いかにもシンプルで、それでいて残酷だった。
彼女が、菜乃葉が、倒れて病院に入院したのだ。
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