20

 「ちょっと、誰?ここにバナナ仕掛けたの!」


 「っしゃ、かかったー」


 「証梨、そうやってアイテムばっか使うの”せこい”って言うんだよ!ねぇ、颯くん?」


 「そういう菜乃葉だって、さっきからスーパーキノコで蹂躙してない?」


 「これは、たまたま拾ったんだよ」


 「小学生みたいだな……」


 証梨と僕は同じセリフを吐いてため息をつく。


 「何よ、2人して私を子ども扱いして!」


 「はいはい、画面見てないと事故るわよー」


 僕らのレースゲームは、白熱と言えば白熱だった。というのも、僕ら3人の力量はほぼ同じで、菜乃葉が僕を抜けばそれを証梨が抜き、最終的に僕が追い抜くといった、拮抗状態が続いていた。最終ラップに入っても、僕たちの運転するカートは足並みを揃えたまま。かと言ってコンピューターほど上手いわけでもなく、7、8、9位を僕らが仲良く独占している状態だった。


 「ちょっとお、誰か1位に甲羅投げてよー」


 「それができないからこうなってんでしょ。大体何なの、私たち3人レベルが全く一緒って。これじゃいつまでたっても追い抜きあいだけで、全然ゲームにならないじゃない」


 「仕方ないだろ、これやったの久しぶりなんだし。アイテム投げるボタンどこかも分かんないんだよ」


 「それはAボタンだよ、颯くんそんなのも分かんなかったの?」


 「アイテムはBボタンね。Aはアクセルだってば」


 僕たちは本当にこんなでいいのだろうか。


 夏休みの平日に、3人で小学生みたいに仲良く肩を並べてゲームだなんて。しかもそれがまた、小学生みたいな実力の3人。ひょっとしたら小学生のほうが、僕たちよりよっぽど上手いかもしれない。


 「だああああ、6位かあああ」


 「マシじゃない?私5位」


 「僕は8位」


 左に座る2人の友達になぜか冷たい視線を送られた僕は、菜乃葉のお母さんが出してくれたオレンジジュースをちょびっと啜る。


 「はあ、にしても、やっぱり久々にやると楽しいねー」


 「また3人でやろうよ」


 疲れてコントローラーを手放した僕たちは、オレンジジュースを嗜みながらそんな話をしていた。そして、証梨が言ったのだ。「また3人でやろうよ」


 「できるといいね」


 菜乃葉は笑った。けれど僕には、笑っているようには見えなかった。まるで、「もう次がない」とでも言いたげな目。もし仮にそういう意味合いを彼女の言葉が含み持っていたとして、それはなぜなのだろう。なぜ、次がないのだろう。これは僕の妄想なのか、あるいは気味悪いほど鋭い勘なのだろうか。

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