19

 「いらっしゃい。藤崎颯くん、だったかしら?」


 「はい、初めまして。菜乃葉さんのクラスメイトの藤崎です」


 インターホンを押してから数秒後に現れたのは、痩身の女性だった。彼女が菜乃葉の母親なのだろう。若い……。


 「あの、これ、良かったらどうぞ」


 手土産を手渡すと、彼女はわざわざありがとう、と受け取り、どうぞ入ってと言ってくれた。


 「あ、颯くん。いらっしゃい」


 「遅いよ、藤崎」


 「あれ、証梨もいたんだ」


 リビングに通された僕は、ソファに座る2人を見て少し驚く。


 「“も”って何だよ。私だって沖縄行くんだから、別にいいだろ」


 「悪いとは言ってないだろ」


 「まあ、仲がいいのね」


 この状況のどこを見てそう思ったのか、お母さんはフフフ、と目を細めて僕たちにオレンジジュースを出してくれた。


 「それにしても安心したわ、菜乃葉が急に友達と旅行に行きたいなんて言うから、いったいどんな子を連れてくるのかと思ったけれど。颯くんでよかった」


 「だから言ったでしょ?颯くんは一緒に外泊しても無害だって」


 …………何かものすごく失礼なことを言われている気がする。


 「けれどやっぱり、遠く離れた沖縄に未成年だけでって言うのは、さすがに心配で。だから、私たち夫婦もついていくことにしたの。安心して、邪魔はしないわ。友達同士の関係に、水を差したくはないもの」


 何だろう。僕もすごく失礼なことを思ってしまったけれど、お母さんは菜乃葉と違ってすごく常識人だ。


 「私はちょっと、仕事で席を外しちゃうんだけど。3人でごゆっくり。菜乃葉、ちゃんと颯くんと証里ちゃんに失礼のないようにね!」


 「分かってるよ!」


 お母さんは手早く身支度を終えると、僕らにひらりと手を振って家を出て行った。


 「さて、それじゃ何しよっか」


 菜乃葉は僕たちにくるりと向き直り、ぽんと手を合わせる。


 「何って、何するつもり?私ゲームやりたい」


 「あ、僕も」


 「ちっ、インドアめ……」


 そう言いつつも、菜乃葉は部屋の奥へと引っ込んでいった。どうやら本当にゲーム機を持ってきてくれるらしい。彼女も意外とゲーム好きなんだろうか。


 「じゃじゃん。持ってきたよ」


 格闘ゲームにレースゲーム、彼女はやたらたくさんゲームを持っていた。僕が欲しがっていた、新作のゲームまであった。


 「どれにする?」


 満面の笑みで菜乃葉が聞いてくる。証梨もかなりノッている。


 「僕はどれでもいい」


 「またそれ言うー」


 僕の発言に、菜乃葉は頬を膨らませて口を尖らせた。あれ、今の彼女を、無意識に可愛いだなんて思ってしまっている自分がいる。おかしい。夏の暑さに、僕の頭はどうかしてしまったんだろうか。


 「じゃあこれやろ、これ」


 「お、いいねぇ」


 2人はそんな僕の懸念なんていざ知らず、今からやるゲームの話で盛り上がっている。結局彼女たちは、レースゲームをやることにしたらしかった。

 2人がキャッキャと盛り上がるなか、僕は1人冷や汗をたらりと流していた。

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