束の間のアイリス

18

 夏休み。家で本を読んでいた僕に電話がかかってきた。相手はもちろん彼女だ。


 「沖縄行きたい」


 電話に出て、1秒後に聞こえたのは彼女のそんな一言だった。


 「2年の修学旅行は沖縄だよ?」


 僕らの通う高校の修学旅行は、沖縄3泊4日だ。夏休みにわざわざいく必要がない気がする。


 「……だから、夏休みは他のところに行った方が」


 その旨を僕なりに説明したけど、彼女には伝わらなかったようだ。


 「3泊4日しかないんだよ?それに、向こうで自由行動のとき、どこ行こうかなぁって迷う時間もったいないじゃん!だから下見に行きたいの」


 彼女はそれにもう一つ付け加えた。


 間に合わないかもしれないから、って。


 「何が間に合わないの?」


 聞いても、返事は返ってこなかった。かわりに、


 「とにかく沖縄行きたいの!2泊3日でいいからさぁ」


 2泊3日も行くのかよ。


 「けどさ、家の人は許してくれるの?どこの馬の骨とも分からないやつと海を越えて沖縄旅行なんて」


 「……じゃ、その前にうちに遊びに来ればいいよ!」


 そういうことを言ってるんじゃないんだけどな。


 「今お母さんに聞いたら、お母さんたちが一緒についていくならいいって!だから、蒼城家の家族旅行プラス私と颯くんの親睦旅行!」


 「そんなメチャクチャな……」


 「行こうよ、颯くん。沖縄!」


 ***


 母に聞いたら、本当になぜだか分からないけど許可が降りてしまった。


 「向こうの親御さんが同行するなら私は構わないわよ?楽しそうじゃない、下見旅行なんて」


 こうして僕らは沖縄に行くことになってしまった。あとから、3泊4日で行くことになった。それと、菜乃葉が誘って証梨も一緒に行くことになった。


 「……メチャクチャだ」


 旅行は2週間後になった。菜乃葉の家にお邪魔するのは1週間後だ。

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