3
「やっほー、菜乃葉」
「あ、やっほー、ハル」
廊下に「仲良し」がたくさんいる彼女は、道行く人と軽い応酬を交わしていく。さっきから、それが途絶えない。
この時の僕の役回りといえばもちろん脇役、背景だ。僕は人と積極的に話すようなタイプではないので、別に構わない。根暗というわけでもない。ただ、人と関わることにあまり必要性を感じないだけだ。
「どうしたの、颯くん?黙り込んじゃって」
さすが、というべきか、普段から人と関わっている彼女は僕のほんの少しの違和感を敏感に感じ取ったらしかった。
「別に。喋る必要性を感じなかっただけ」
「出た!必要性」
彼女は、笑いながら言った。
「……何、出たって」
「颯くん、いつも言ってる。必要性を感じないって。私、人生って必要性だけじゃないと思うのね」
急に、彼女の説教が始まった。
「もし人間が必要性だけで物事を見極めるなら、例えば……この世にお菓子なんていらないの」
「“お菓子”?」
僕はそのまま言葉を繰り返して、首を傾げた。話の方向性が明らかに違うと思ったからだ。
「うん、お菓子。ジュースとかも。いわゆる嗜好品ってやつかな。お菓子って食べる必要あると思う?」
「……あるだろ、美味しいんだから。みんな食べてる」
僕は甘党だから必死に反論を呈した。冗談じゃない、お菓子がない世界なんて。
「私たちが食べるのは生きるため。でも、生きるためにお菓子が必要なわけじゃない。お菓子はあくまでおまけ、添え物なの。必要性を感じないもの全てを切り捨てるなら、人生は食事と睡眠だけになっちゃう。それって、すごくつまんないでしょ?」
珍しく、彼女の例えはいつにも増して分かりやすかった。
「人と話すことも、人生においてお菓子が大切なのと同じだと思うよ。別に必要じゃない。でも、あれば人生がもっと楽しくなる。やっぱり、生きてるからにはエンジョイしなくちゃ!」
悔しいけれど、僕の持論は彼女の話術に完全に言いくるめられてしまった。
「……そうか」
「……えっ、それだけ⁉︎私、今すごくいいこと言ってなかった?」
「どうだったかな、忘れた」
「ちょっと」
彼女は軽く僕の頭を小突いた。痛くはなかった。
「ねえねえ、今日の放課後、どっか寄り道し……」
「今日の放課後はちょっと正義のヒーローとして世界を救う役目があるからなぁ」
「何それ」
「……冗談だよ?」
「当たり前でしょ!くだらないなぁ。いいよ、今日は
僕に断られて機嫌を損ねた彼女は、スタスタと先を行ってしまった。僕は追いかけなかった。
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