じいじ 4





「話にならん!」


桂の怒声が響いた。


「それならやっちまえ、どうなっても知らんぞ!」


こちらは林太郎の声だ。


「まあまあお二人とも、そんなに熱くならずに。」

「藤井さんもはっきり言ってくれよ、

このままじゃどこにも動けん。

せっかくの計画が絶ち切れだ。」

「だから少し待てと言ってるんだ、分からんなお前は。」

「それが出来ないから言ってるってるんだ。

そっちこそ分からんクソ親父だな。」

「うるさいクソガキ。」


襖越しに美月は話を聞いている。

そのそばで愛が落ち着きなく目をきょろきょろさせていた。


美月はしばらく我慢はしていた。だが、


「もう止めだ、全部止めてやる。

もうただの田舎のままで良い。先細りで消えればいい。」


と桂が言った時だ。

襖が音を立てて勢いよく開いた。


皆がそちらを見る。


そこにいたのは仁王立ちした美月がいた。

彼女のお腹は大きい。


「うるさい!」


三人は身動きもしなかった。


「喧嘩するのは結構だがな子どもの前でするな!

こちらの腹が張る!

それとここはど田舎だ。努力しなきゃ人は来ん!

お前らは考える頭があるんだ、一つの事に囚われず考えろ!

それと桂ぁ!!」


桂が直立不動になる。


「自分が住んでいる所を消えろなんて言うな!」


そして美月がぱあんと襖を閉めて音を立てて歩いて行った。

愛も連れて行ったようだ。


三人はしばらく身動きもしない。

そして、


「桂よ、お前の女房は凄いな。」


と林太郎がぼそりと言った。

桂が大きくため息をつく。

すると藤井がくすくすと笑いだした。


「何だか昔の会議を思い出しましたよ。」

「会議?」


桂が聞く。


「昔クローンの法律の改定を審議している時に

先生が相手の胸元を掴んでクソガキとか言ったんですよ。

非公式だから表には出ていませんが、

その後のお詫びとか本当に大変で……。」

「うー、まあその時は悪かったな。」


林太郎が頭を掻きながら言った。


「そう言えば桂さんの時も私は大変でしたし、

親子で迷惑をかけられてホント困ります。」


林太郎と桂が顔を合わせた。


「二人とも血の気が多くてそっくりですよ、参ります。」


彼等は物も言わず首の辺りや頭を掻いたりしている。


「で、どうしますか。」


藤井が言った。


「そ、そうだなあ、美月が言うように

一つの案に囚われるのもダメだろうな。」

「まあ確かにお前が言う話が一番手っ取り早いが、

リスクを考えるとやはり……。」


二人はぼそぼそと話す。


「親父、悪かった、もう少しみんなと考えてみる。」

「ああ、そうしろ、その案も悪くはないがと言ってくれ。」


桂が襖を開けた。

その時林太郎が言った。


「美月に謝っておいてくれ、愛の前で悪かったとな。

それと良い嫁さんをもらったな。」


桂がにやりと笑う。


「俺も美月に謝らないと。

住んでいる所の悪口を言った。」


と彼は出て行った。


「藤井よ。」


林太郎が藤井を見た。


「昔なあ、桂がまだ人工子宮にいた時に

叔母の久美子と見ていたんだが、」


藤井がそっと茶を差し出す。


「俺が酷い事を言ったら叔母が

今まで見た事が無いくらい怒ってな、

さっきの美月みたいに仁王立ちしていたよ。」


林太郎は一口お茶を飲んだ。


「叱られて良かったよ。」


藤井はにこにこしながら林太郎を見た。


外で鳥が鳴く。

愛の遊ぶ声が聞こえた。







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