愛ちゃん





執務室で藤井がスマホで写真を見せた。


「生まれたそうですよ、美月さんが送って来ました。」

「生まれたか、そうか、そうか。」

「女の子です。名前は愛さんだとか。遠山愛ですね。」

「藤井、その写真を送ってくれ。」

「はい、すぐに送ります。」

「……、三人で並んでか、桂も元気そうだな。

少し太ったんじゃないか。」

「そうですね、美月さんもすごく痩せていましたが、

今では普通ですね。」

「まあ良い事だ。

ところで桂は今何をしてる。」

「役場で経理や経営相談などの仕事をしているみたいです。

あの麻衣と言う子がピザを作っていまして、

それを村おこしの拠点にするようです。

私も一度行って食べて来ましたが、美味しかったですよ。

場所も良いですね、自然に囲まれていますから余計美味しさを感じます。

自分で採った野菜を食材にするんです。」

「お前、行ったのか。」

「おや、先生も行きたかったのですか。」

「あ、その、ピザは、うーん、美味うまいよな。」

「そうですね、美味おいしいですね。

それで通販も行うようです。いずれ取り寄せましょう。」

「う、すまん。」

「それでですね、先生。」


藤井があの人を見る。


「やはり今期で辞任されますか。」

「……。」


しばらく沈黙が続く。


「そのつもりだ。

一番気にしていた明開市の再開発も決まり急ピッチで進んでいる。

クローン関係の法律もしっかり構築した。

そろそろ後進に譲る時期じゃないかと思っている。

いつまでも上が動かないのはな。」

「……そうですか、お決めになったのなら私はついて行くだけです。」

「そうだな、藤井君には私が死ぬまでついて来てもらう。

絶対に逃げられんぞ。」

「怖いですね。」


藤井がにやりと笑った。


「スケジュールとかは私が全て握っていますからね。

私がいなくなったら先生がお困りでしょう。

なら任期が終わったら一度ピザでも食べに行きますか。

あと半年ぐらいですから、

その頃はお座りぐらいはしているかもしれませんよ。

スケジュールを開けておきます。」

「……本当にお前は怖いな。」


にやりと笑って藤井は部屋を出て行った。

残ったあの人はスマホを見る。


ニヤニヤしながら。


「孫、になるのか?いや遺伝的には異母兄妹だ。

面倒くさいな、孫で良いな。

しかしまあ、何となく俺に似てるか?

目元はそっくりじゃないか。

女の子か。

俺の子は二人とも男だったからな。

女の子か、愛ちゃんか。」


誰も聞いていない言葉だ。

だが藤井だけにはそれを想像出来たかもしれない。







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