第4話 タニシヘアー~非モテ女子の挫折~

 ……。


 この天敵との闘いは、私が誕生して間もなく幕を開けた。



「なんだ、あの子? ずいぶんだなぁー。サルみたいだ」 


 ガラス越しに複数の赤ん坊の中から私を発見し、馬鹿にする男。

 その数分後……『自分の子供(しかも娘)だと知った時の顔は笑えた』と、後に母は語る――。


 乳児の頃からフサフサの髪と海苔を張った様な眉毛がチャームポイントの私は、常に男児に間違えられたそうだ。



 残酷にもこの現象は26、7才頃まで続くのだが、詳しくは前に書いた「女装キャラ~非モテ女子の苦悩~」を読んでくれ。



 さて話を戻そう。


『(親の)エゴだな……』

 

 この台詞は一枚の写真に収まるまだ幼い自分を、母と共に見返した時の感想だ。


 海をバックに3歳児の私が着ていたのは、白い水玉がプリントされた紺色のビキニだった。

 胸当ては丸く、ひらひらレースまであしらわれた可愛らしさ全快の無敵装備――。


 ただ思い出して欲しい。

 その装備主は「海苔眉毛」だということを……。


 しかも豊富な毛髪が原因で頭皮に湿疹症状が出ていた為、当時の髪型はまさかまさかの「丸坊主」だった。


 お世辞をいくつ重ねようとも、例え相手が幼児であろうとも、1ミクロも可愛いとは言えない私の姿が、目の前の写真にしっかり残されている。


「……」


 溢れ出る違和感。

 ある意味、幼児ながらも他人の視線を独り占めにした逸話は本当のようだ。


「(このポテンシャルで)何故にこんな水着を?」


「初めての女の子だったし、可愛くしてあげたくて……」 


 大人になった私の問いに対し、申し訳なさそうに白状した母。

 それ以上の追求はしなかった。しかしこの「毛」にまつわるコンプレックスが、私の青春をある程度蝕んだのは事実にほかならない。


 小学生時代――鼻の下や眉間みけんを支配しようと攻め込む奴らと、毛抜きで格闘した。

 

 中学生時代――腕毛を金髪にすべく肌に合わない薬剤をつけて、想像を絶する激しい痒みと足をバタつかせて戦った。


 高校生になり、除毛剤やカミソリと運命ともいえる出会いを果たす(ようやく気付く)。

 こうして長年の体毛問題から解放された……のだが『髪型』だけは、成人を越えても常に悩みの種だった。


 何十名もの美容師(プロ)にその毛量を驚愕されながらも、私は様々な髪型を試す。


 キンタロウ(まさかり担いでる方)

 ムッシュかま○つ

 ウォー○マン(牛丼好きが主人公のアニメ(漫画)に登場するキャラクター)

 シンプルキノコ 等


 失敗の度に家族や彼氏(旦那)に面白おかしくあだ名をつけられても、私は粘る! 未知(モテ髪)の研究に時間と金を湯水の如く費やした。

 

 しかし33才でついに、鋼の心が折れてしまう――。

 トドメの一撃は、旦那の「タニシ」だった。


 額の広さが3センチにも満たない黒髪ボブの私には、まさにピッタリの名だ。

 たった3文字の巻貝に敗北した女は力尽き、それを素直に受け入れた。



 あれから数年――。

 今は「タニシヘアー」が私のお気に入りとなっている。


 カットも殿方に混じり、1000円処で済ませるまでになった。洗うのも楽チンだしセットの必要もない。


 ただ女性として「残念」であることは誰がどう見ても明白だ――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る