第9話 ドケチ

「友達が来ているからマージャンに付き合え」

 兄に命令された。断ると自分の面子を潰したと言われてまたネチネチと虐めが始まるので付き合う。嫁と姑の関係とはこのようなものだろう。

 カードマージャンだ。私は兄の友達から大三元役満を上がって見せる。

 三千円ほど勝ってしまった。

「俺が代わりに払っておくから」兄はそう言いながら友達を帰した。

 もちろん踏み倒された。

 つまりこれは私のお金で自分の友達に良い顔をしたのだ。それとも友達からは後でお金を取ったのだろうか?

 兄は家族中から異常なまでのケチと評されている人物である。一円でも二円でも儲けるためなら兄の威厳など欠片も気にしない。予想通りの行動だ。


「これ二千円で買わんか?」

 私が欲しがっていたハンドグリップを差し出す。

「買う」

 お金を渡すとハンドグリップを私の手に押し付け、それからまた取り上げた。

「じゃ、これ借りていくぞ」

 もちろん返って来なかった。

 兄は家族というものを毟る対象としか考えていない。


「信じられない」

 姉から電話が入った。

「喫茶店で会おうって言うから行ったのよ。そしたらお会計のときに、俺は財布を持ってきていない、なんて言うのよ。呆れた」

 兄は家族というものをエサと見ている、


「あの子。医療保険に入っていないんよ」母が言う。

「ダメダメ。あの子、健康保険があれば医療保険には入る必要ないといつも言ってるから。保険料が勿体ないって。信じられないケチよね」と姉。

「代わりにかけてあげたいねえ」と母が返す。

 調べてみた。保険会社に直接電話をかけて聞いてみると、保険会社は渋った。本人以外はかけられませんの一点ばりだ。生命保険ならわかるが医療保険でもダメとは知らなかった。

「じゃあ本人にお金をあげて自分でかけさせるしかないねえ」と母が言った。

「駄目よ」と姉。「あの子、保険にかけるぐらいならお小遣いとして自分にくれって言うから」

 隣で聞いていて呆れた。


 兄は尋常ではないドケチである。ただしそれは他人に対してであり、自分の飲む酒には惜しみなく使う馬鹿である。

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