第8話 空くじ

 絶対に景品が取れなくしてあるUFOキャッチャー詐欺のユーチューブを見ていて昔を思い出した。


 かって子供たち相手の駄菓子屋大全盛のとき、駄菓子屋にはクジの類が並んでいた。

 糸クジは糸の先に飴がぶら下がっていて、束ねてある糸の中から一本を引く。運が良ければ大きな飴が手に入るというものである。

 箱クジは箱の中に仕切りがあって、その仕切りを破ると当たりが出てくるというものもある。

 一等は大きく豪華なプラモであり、目につく場所に大きく飾ってある。はずれは小さな安物玩具である。


 兄がそのクジにはまった。貰ったお小遣いを握りしめて毎日駄菓子屋に入り浸った。それでもどうしても当たりが出ない。

 悔しがる兄の様子を、母は叔父さんに愚痴った。

 叔父さんは兄を駄菓子屋に連れて行くと、クジを丸ごとすべて大人買いした。そして兄に命じてすべてのクジを開けさせた。

 やはりというか当然と言うべきか、一等は入っていなかった。豪華プラモは決して手に入らないただの囮だったということだ。


「分かったか? 世の中とはこういうものだ」

 叔父さんは兄を諭したが、その結果、母に烈火のごとくに怒られた。

「子供の夢を台無しにするんじゃない!」


 私は叔父さんのやり方に賛成である。人に騙されてカモにされ続けるのが夢というものだとすれば、そんな悪夢からは早く覚めたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る