第4話 ブラジル
ふと母に聞いた昔話を思い出した。
ブラジル棄民という言葉がある。明治の終り頃を中心に前後五十年間、日本からブラジルに移民が行われた。
それぐらい日本は貧しく、開拓できる農地も尽きていたのである。
我が家の一族の中にもその頃ブラジルに移民した人物がいた。日本人はどこに行っても良く働く。彼はブラジルで成功し大農園主となった。
金持ちになって思うことは、故郷の山々と相場が決まっている。故郷に帰りたいという思いがつのり、ついに彼は日本に帰ることを決心した。
作り上げた農園をすべて売った。まだ各国間の銀行の間での振り込みは一般的ではなかったので、彼は全財産をすべて金に換えてトランクケース一つに収めると日本へ向けて出発した。
日本への船の出航日に合わせてブラジルの港の宿に一泊した。そして次の日の朝、死体で見つかった。
バスタブの中で全裸で死んでいたそうだ。首をざっくりと切られ、バスタブの中にできた自分の血だまりの中にどっぷりと浸かって見つかった。
持っていたはずの金の詰まったトランクはどこにもなかった。犯人は見付からずじまいである。
ブラジル棄民時代のただそれだけの話である。
ただそれだけのハ・ナ・シ。
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