第20話 幸せは皆で分かち合おう②

「そりゃあ、天然記念物だよね」

「アスター、君には聞いていない。というか天然記念物はどう考えても君の方だろ」

「『黒の大賢者』の叙勲式で一目見たあの時からずっと俺の憧れです! オルフェン様にかかった呪いは、完璧すぎる貴方に嫉妬した神が与えた試練だと俺は常々思っておりました」


 そこからつらつらと、ラウルスはオルフェンに対する熱い思いを述べ始めた。そんな様子を見て、しまったと言わんばかりにオルフェンは顔をしかめている。

 王国魔術師団の団長を務めていた時の武勇伝の数々から始まり、魔法の扱い方に悩んでいた自身に的確なアドバイスをして育ててくれたお礼と、その勢いはあのアスターでさえ口を挟む隙がないほどだった。


「…………ですから、呪いが解けて本当に良かったです! おめでとうございます、オルフェン様!」

「……あぁ、ありがとう」


 オルフェンは苦笑いしながらお礼を言った。


(オルフェン様、やはりとてもすごい方だわ!)


 過去のオルフェンの数々の偉業を聞いたリフィアも、ラウルスに負けず劣らずキラキラとした眼差しを向ける。


「オルフェン様、素敵です!」

「そ、そんな大した事じゃないよ」

「ルー、墓穴を掘るんじゃない!」

「あ……」


「そうなんです、夫人! オルフェン様はとても素敵な方で、いつもこうして謙遜されるので俺は……」


 折角終わったはずのラウルスの話は延長戦に突入。その話を楽しそうに相槌を打ちながら聞いていたのは、もはやリフィアだけだった。


 そうしているうちに日が暮れ始め、イレーネの誘いで祝宴にアスターとラウルスも参加する事になった。二人は客間へと案内され、主役のオルフェンとリフィアはそれぞれ自室に戻って着替えを済ませる。

 リフィアの準備が終わった所で、オルフェンが迎えに来てくれた。


「僕達も行こうか、リフィア」

「はい、オルフェン様」


 飾り付けられた晩餐会の会場へ移動する途中、オルフェンは足を止めてリフィアに話しかける。


「リフィア、さっきはラウルスが余計な話を長々とすまなかった。退屈だったよね……」


 申し訳なさそうに謝るオルフェンに、リフィアはとんでもないと首を左右に振った。


「私の知らなかったオルフェン様の事を知る事が出来て、とても楽しかったです!」

「普段はあそこまで喋る部下ではないのだけど……え? 楽しかったの!?」

「はい! 素敵な話をたくさん聞けてとても幸せでした。少しでもオルフェン様の隣に相応しくなれるように、私も頑張ります!」


 そう意気込むリフィアを見て、赤くなった顔を隠すよう俯いたオルフェンは「どうしてそんなに可愛いの。反則だ……」と呟き身悶えていた。


「オルフェン様……?」


(はっ! まさかまだ呪いの痛みが!?)


 突然胸を手で押さえ俯いたオルフェンを、リフィアは心配そうに見上げる。


「痛む時はどうか遠慮なく仰って下さい。私の最善を尽くしますので……!」

「ち、違うんだ、リフィア。君が可愛すぎて、愛おしくて、幸せすぎて胸がいっぱいになっただけだから」


 言葉の意味を理解したリフィアは、恥ずかしそうに頬を赤く染めた。


「君に誇ってもらえる夫になれるように、僕も頑張るよ」

「オルフェン様は今のままで十分すぎます!」

「そんなことないよ。この幸せが実は全て夢なんじゃないかって、僕はいつも不安で仕方ないんだ。天使のように可憐な君が、いつか天界へと帰ってしまうんじゃないかと……」


(むしろ天使なのは、美しいオルフェン様の方だと思うんだけど……)


 間近にある憂いを帯びた儚げな美しい顔を見上げながら、リフィアはそう思わずにはいられなかった。


「そんなに不安なら、拐われないようしっかり腕の中に閉じ込めておくことだね」


 突然横から声をかけられ、リフィアとオルフェンは一瞬体を硬直させた後、声の主に視線を移した。


「アスター! 先に会場に向かったはずだろ、何でここに居る!?」

「主役達の登場が遅いから、様子を見に来ただけさ。イチャイチャは後にして、皆がお待ちかねだから、さぁさぁ進んで」


 アスターに促され、リフィアとオルフェンは恥ずかしそうに頬を赤く染めながら歩を進めた。


「手放したくないなら、頑張って足掻いて未来を変えてごらん。私の知らない、新たな未来へ……」


 後ろから何か聞こえた気がしてリフィアが振り返ると、そこには悲しそうに微笑むアスターの姿があった。一瞬驚いた様子で目を見張った後、アスターは何事もなかったかのように笑顔を作り明るく声をかける。


「ほらほらフィア、余所見してるとルーが焼きもち妬くよ。しっかり前を向いて歩くんだ」


(何だかアスター殿下のご様子が、いつもと少し違ったような……気のせいだったのかしら?)


 その後祝宴は滞りなく行われ、皆に祝福されながらオルフェンとリフィアは呪いが解けた幸せを皆と喜びあった。


「そうそう、父上に渡してくれって頼まれていたのをすっかり忘れていたよ」


 帰り際、アスターはリフィアに王家の蜜蝋の押された封書を手渡した。中を改めると、それは王城への召集令状だった。


「ルーにも会いたいって仰っていたから、二人でおいで。待ってるからね!」

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