第18話 仮面の下に隠された驚愕の真実②
気持ちを切り替えて、リフィアはオルフェンに声をかける。
「オルフェン様。私、少し神聖力の扱い方が分かったんです」
「そうなの?」
「ミアに聖女の出てくる絵本を紹介してもらって、実験したんです。心を込めて感謝の祈りをささげると、比較的新しいものは触れなくても新しくする事が出来ました。逆に年月の経った古いものは、直接触れながらお祈りする事でその力を強めることが出来たんです」
「じゃあ、君がさっき僕の顔に触れていたのは……」
「オルフェン様が寝ている間に呪いが解けたらいいなと思ったのですが、許可なく仮面を外すのはよくないと思いまして」
「気を遣ってくれたんだね」
「アスター様も仰っていたでしょう? オルフェン様の呪いは私がオルフェン様の全てを受け入れた時に解けるって。そうするにはやはり、オルフェン様のお気持ちも大事にしないといけないと思ったんです」
「そこまで僕の事を考えてくれていたんだね。ありがとう、リフィア。とても嬉しいよ」
「オルフェン様。額に触れても、よろしいですか?」
「うん。かまわないよ」
優しくオルフェンの額に触れたリフィアは、そのままお祈りを捧げる。
「私の思いを信じて受け止めて下さったオルフェン様に、心から感謝します」
聖なる光がオルフェンの額に集まり、少しずつ硬鱗化した部分が治っていく。
(お願い。どうか綺麗に呪いよ解けて!)
光が収まりそっと手を離すと、オルフェンの額には一枚だけ鱗が残っていた。
「ごめんなさい、オルフェン様。まだ私の力が足りなかったようです。額に一枚だけ残ってます……」
がっくりと肩を落とすリフィアに、オルフェンが遠慮がちに言った。
「多分それは、その……あれが、済んでいないから、じゃないかな?」
「あれ……ですか?」
「ほら、先日渡した本の……」
その言葉で意味を察したリフィアの顔は、一瞬で真っ赤に染まった。
(そもそもオルフェン様をお待ちしていたのだって、そのためだったじゃない!)
「読んでみた?」
「はい……最後まで、読みました」
「リフィア。君に触れても、いいだろうか?」
熱を含んだオルフェンの眼差しが、真っ直ぐにリフィアを捉える。その言葉で、リフィアはそれが何を意味するのか理解した。
「は、はい! 勿論です!」
「ありがとう」
リフィアの頬に優しく触れて、オルフェンはそのまま顔を近付ける。
――チュンチュン
しかしその時、外からは元気な鳥の囀りが聞こえてきた。カーテンの隙間からは、朝日が差し込む。
「どうやら、朝になってしまったようだね……」
「みたいですね……」
「名残惜しいけど、続きは今晩でもいいかな?」
「は、はい!」
「アスターの馬鹿のせいで魔力を使いすぎちゃって。リフィアを満足させてあげる自信が正直あまりなかったから、ちょっと安心した……」
(ま、満足!?)
安堵のため息を漏らしつつ、オルフェンは胸の内を吐露した。
「か、勘違いしないでね? 今すぐ君が欲しいって気持ちはすごくあるよ! でも、なるべくリフィアには痛い思いして欲しくないし、ゆっくり時間をかけて大事にしたい。その、お互い初めてだから……」
恥ずかしそうに赤面しつつも、リフィアに変な誤解を与えたくなかったようで、オルフェンは隠さずに思いを告げた。
(やはりオルフェン様は、とても優しい方だわ)
自分のプライドより、リフィアの女性としての尊厳を傷付けないよう尊重してくれた。その事が素直に嬉しかった。
「ありがとうございます。オルフェン様、どうか無理せずお休み下さい」
リフィアはオルフェンに横になるよう促す。
「起きるにはまだ早いし、リフィアも一緒に寝よう。手、繋いでてもいい?」
「はい、勿論です」
オルフェンはリフィアの手を握ると、安心したように目を閉じた。しばらくすると、規則正しい寝息が聞こえてくる。
安心しきった顔で眠るオルフェンが、とても愛おしく感じた。
(オルフェン様、お疲れだったはずよね。あんな時間までお仕事されていたんだもの。どうかゆっくりお休み下さい)
もう一眠りしようと目蓋を閉じるも、すっかり目が冴えてしまって眠れない。手持ち無沙汰なリフィアは、オルフェンの寝顔を観察していた。
長い睫に通った鼻筋と薄い唇。完璧な造形をしたオルフェンの顔からは、よだれも垂れていないし、口も開いてなければ、目蓋もきちんと閉じている。
こんなに美しい寝顔なら、見られても痛くも痒くもないだろう。それと同時に不安になった。自分がどんな顔で寝ていたのか……
オルフェンは可愛いとしか言わないから、確かめようもない。
まさか寝顔を見られるのが恥ずかしくて悩む日が来るなんて、エヴァン伯爵家に居た頃のリフィアには想像もつかなかっただろう。
(ふふふ、何だか贅沢な悩みね!)
ありのままの自分を見て、それをオルフェンが嬉しそうに受け入れてくれるなら、それ以上追及しても意味がない。そう結論付けたリフィアは染々と幸せを感じながら、オルフェンに深く感謝していた。
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