第16話 神聖力の扱い方を学ぼう②


「旦那様の大賢者姿、久しぶりに見た気がします。王都で何かあったのかもしれませんね……」

「オルフェン様、大丈夫かしら?」

「ああ見えて旦那様はとてもお強いのです。その辺の魔術師が束になってかかっても傷一つ与えられませんし、きっと大丈夫ですよ!」


 ミアの言葉に安心したリフィアは、気持ちを切り替えて自分に出来ることをやることにした。


「ミア、神聖力の事を学べる本はないかしら? オルフェン様の呪いを解くために、少しでも役に立ちそうな事があるなら調べておきたいの」

「この国に聖女様がいらっしゃったのは、数百年も昔の事らしいので残念ながらこのお屋敷には……でも絵本なら聖女様が登場するものがあったと思います。子供の頃、読んだことがありますので!」

「ミアはここで働いて長いの?」

「はい! 私の母が旦那様の乳母なのです。だから小さい頃から、このお屋敷でお世話になってました」

「そうだったのね。良かったらその聖女が出てくる絵本が読みたいわ」

「はい、書庫へ参りましょう!」


 書庫に移動して、ミアと一緒に目的の絵本を探す。


「確かこの辺に……あ、ありました!」


 ミアに渡されたのは、『靴磨きの少女』と書かれた絵本だった。ソファーに腰かけて早速絵本を読んだ。


『靴磨きの少女』


 家族に愛してもらえなかった少女は、路上で毎日靴磨きをさせられていた。


 頑張って働いても、稼いだお金は家族に取り上げられる毎日。それでも少女は毎日お客さんの靴を一生懸命磨いた。


『ありがとう』とお礼を言ってくれるお客さんの笑顔を見るのが嬉しかったから。


 そして、とある噂が広がり始める。


 その少女が磨いた靴だけが、まるで新品のようにピカピカになって長持ちする。


 その噂を聞き付けて貴族が少女の元に通うようになり、やがて王様の耳にも入った。


 少女に靴を磨いてもらった王様は、少女が特別な力を持っている事に気付き、お城に迎える。


 少女が心を込めて触れた物は、どんなにくたびれた物でも新品のように復活させる力があった。


 少女は聖女と呼ばれるようになり、枯れた大地を復活させたり、怪我や病気で苦しむ人々を助け、王国を繁栄へと導いた。


 大切に育てられた少女はやがて、愛する王子と結婚して幸せに暮らした。めでたし、めでたし。


(心を込めて触れた物を復活させる力、それが神聖力なのかもしれない)


 オルフェンの右腕の硬鱗化が治った時も、リフィアはシャツ越しではあるが、確かにその部分に触れていた事を思い出す。


 リフィアは試しに、感謝の心を込めてその『靴磨きの少女』の絵本に触れた。


(貴重な情報を教えてくれて、ありがとう)


 すると古くなっていた絵本が新品のように新しくなった。


「リフィア様、すごいです! 絵本がまるで新品のように!」

「少しだけ神聖力の使い方が分かったわ! これもミアのおかげよ。ありがとう」

「お役に立てたなら、なによりです!」

「ミア、ここにある本で少し実験をしてもいいかしら?」

「お手伝いします! 私は何をしたら良いですか?」

「適当に何冊か選んで、新しい本から古い本まで順番に並べて欲しいの」

「分かりました。すぐにご用意します!」


 それからリフィアは実験を繰り返した。比較的新しい本は、古くなった食事のように触れなくても新品に出来た。


 逆に古くなればなるほど、祈るだけでは力が足りず、触れることで補う事が出来た。

 

(オルフェン様に感謝しながら、治したい部分に触れればいいのね!)


 オルフェンの帰りを、リフィアはうきうきしながら待った。


 イレーネと夕食を取った後、リフィアはミアを含む侍女達の手によって、いつもより念入りに体を磨かれ、全身のケアをされて、ナイトドレスに着替えさせられた。


「オルフェン様、大丈夫かしら……」

「後処理に少し時間がかかるそうで、夜までには必ず帰ると先ほど旦那様から連絡があったそうです!」

「無事ならよかったわ。教えてくれてありがとう、ミア」


(本でも読んで待ってよう)


 広い寝室のソファーに腰かけて、リフィアは本を読みながらオルフェンの帰りを待った。

 途中ミアがカモミールミルクティーを淹れてくれた。ほっと一息つくも、オルフェンはまだ帰ってこない。


 静寂に包まれた部屋に響くのは、リフィアが本をめくる時に発生する紙が擦れる音だけだった。次第にその音は止み、カチッ、カチッと秒針が規則正しく時を刻む音と静かな寝息だけに変わる。


 睡魔に抗えなかったリフィアは、ソファーの背にもたれ掛かりながらいつの間にか寝てしまっていた。

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