第15話 神聖力の扱い方を学ぼう①

「お、おはようございます! オルフェン様」

「お、おはよう! リフィア」


 翌朝、食堂で顔を会わせるなり互いに赤面するオルフェンとリフィアに、イレーネが声をかける。


「二人とも、そんなところに立ったままどうしたの?」

「い、いえ! 何でもありません!」

「そう? ならいいんだけど。さぁ、ご飯を食べましょう!」


 オルフェンの体調がよくなってからは、こうして皆で朝食を取るようになった。

 流石にイレーネの手前であるため、配慮してオルフェンが膝に乗せて「あーん」をしてくる事はなくなった。しかし今度は逆にオルフェンが、リフィアの食が細い事を心配していた。


「ほら、リフィア。もっといっぱいお食べ」


 別邸に隔離され一日二食しか食べていなかったリフィアには最初、クロノス公爵家で出される食事が多くて食べきれずに残してばかりで申し訳なかった。

 そんなリフィアの思いを汲み取り、料理長が品数は減らさずに一皿ずつ量を調整してくれてはいたものの、その少ない料理を見てオルフェンはもっと食べさせたくて仕方ない様子だ。

 

「はい、頂いてますよ。美味しすぎて食べすぎてしまうので、私にはこれくらいがちょうど良いのです」


 それでも心配そうに「でも……」と言いかけたオルフェンに、イレーネがくすくすと笑いながら声をかける。


「あらあら、すっかり立場が逆転してしまったわね!」

「そうですね。ここに来たばかりの頃はどうやってオルフェン様にたくさん食事を取ってもらおうか、皆で話し合っていたのが懐かしいです!」

「リフィアにも母上にも、色々苦労かけたね」

「オルフェン、体の調子はどう?」

「まるで初期の状態に戻ったみたいに、呪いの影響は少なくなったよ。これもリフィアのおかげだ。本当にありがとう」

「頑張って、残りの呪いも解いてみせます!」

「ふふふ、心強いわね。そうそう、やっと昨日部屋の改装が終わったわ! 今日からもう使えるみたいよ」


 嬉しそうなイレーネに、リフィアはきょとんとした顔で尋ねる。


「何のお部屋ですか?」

「それは勿論、貴方達の寝室よ!」

「……え?」

「……はい?」


 リフィアとオルフェンの声が重なった。


(昨日の今日でこの話題は恥ずかしすぎる!)


「だってほら、リフィアさんが来てくれた時はオルフェンの体調が悪かったから、中々そんな体力もなかったでしょう?」

「そ、そんな体力って何ですか、母上!」


 狼狽えるオルフェンに、イレーネはにっこりと笑って答える。


「あらやだ、決まってるじゃない。最近はね、オルフェンには精力がつく料理を料理長に出してもらっているのよ。孫に会える日がとても楽しみだわ!」


 想像を膨らませうっとりするイレーネに、オルフェンは思わず飲んでいる紅茶を吹き出しそうになったのを何とか堪えた。


「イレーネ様、頑張ります!」 


 リフィアの発言に、オルフェンは思いっきりむせてしまった。


「オルフェン様、大丈夫ですか?!」


 ゴホッ、ゴホッと咳をするオルフェンに寄り添いリフィアは背中をさする。


「あ、ああ。大丈夫だよ。ありがとう」

「場所は三階の一番眺めの良い真ん中の部屋よ。両隣の部屋も一緒に改装して、それぞれの自室として使えるようにしているから安心してね」





 朝食を終えた後、早速部屋の移動が始まり、お昼になる頃には完全に荷物の移動まで完了した。


 白を基調とした部屋には、金の装飾が施された高級家具が置かれている。光沢のあるピンクの布地が使われたカーテンやソファーには繊細な薔薇の刺繍が施され、まるでお姫様の部屋のようだった。その可愛らしい優雅な空間に、リフィアは落ち着かずそわそわしていた。


(何だか使うのが勿体ないわ……)


 リフィアは部屋を汚さないように慎重に歩いて、ソファーに腰かけた。


「書物庫からリフィア様の好みに応じて本を移動してますが、欲しい本があれば何でも取り寄せるようにと旦那様から言われております。読んでみたい本があれば、遠慮無く仰ってくださいね!」

「うん、ありがとう。ミア、あの扉は何かしら?」


 一際目を引く扉が気になり尋ねるリフィアに、ミアは意気揚々と扉を開け説明する。


「それは勿論、寝室への扉でございます! ここから自由に行き来できますよ」


 扉の先には見たこともない大きなベッドが置かれていた。


(ここでオルフェン様と一緒に……)


 想像したら顔から湯気が出そうなほど、リフィアの顔は真っ赤に染まっていた。心臓に悪いと、急いで自室に戻った。


――トントン


「リフィア、居るかい?」


 ミアが扉を開けると、そこには黒のロングブーツを履いたかっちりとした装いのオルフェンの姿があった。


 黒地に金の装飾の施された軍服と、セットになった豪華なマントは、ヴィスタリア王国で大賢者のみが着用を許されたものだった。


「すまない、リフィア。急ぎ王都で片付けなければならない仕事が出来た。夕方までには戻るから、今日のダンスレッスンはその後でも良いだろうか?」


 昨日はアスターが来てあまり出来なかったからと、オルフェンが今日も時間を取ってくれていた。


「オルフェン様。無理せず今日はお休みでも構いませんので、どうかお気をつけていってらっしゃいませ」

「うん、ありがとう。それでは行ってくるね」


 呪文を唱えると、オルフェンはその場から消えた。

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