第14話 薄幸令嬢は好転の兆しを見つける②
「男女が同じ部屋で休むと翌朝、ハピネスコンドルが運んできてくれるって本で読みました」
真剣な顔で答えるリフィアが、冗談を言っているようにはまるで見えない。
思わずアスターはオルフェンに同情の眼差しを送った。その視線に居たたまれなくなったオルフェンは、顔ごとさっと逸らした。
八歳から別邸に隔離されていたリフィアが、閨教育など受けているはずもなかった。
しかもリフィアが嫁いできた当初、オルフェンの体調が悪く、とてもじゃないがそのような事を行う余裕すらなかった。もちろん寝室も別々のままで現在に至る。
(私が読んだ本には確かにそう書かれていたのに……どうして二人は困った顔をされているのだろう?)
隔離されていた別邸にあった本は古いものばかりだった。そこからリフィアが導き出した結論は――
「あの、私の知識が古かったのでしょうか? アスター様、よろしければ現代の方法をお教え頂けないでしょうか?」
「え、わ、私が教えるの!?」
懇願するリフィアに、アスターは目を白黒させる。
「アスターに教わる必要はない! 僕が、教えてあげるから……」
言葉にしながら、オルフェンの耳は真っ赤に染まっていた。
「ルー、お前経験はあるのか?」
「あるわけないだろう!」
これでは冬の舞踏会には到底間に合わないと判断したのか、現実を受け止めたアスターは冷静さを取り戻した。
「フィア、読書は好きかい?」
「はい、大好きです!」
「閨事情について詳しく書かれた本を、十冊くらい後で送ってあげるから……読んで勉強するといいよ。そこで初夜の事も分かるはずだ」
「はい、ありがとうございます!」
「一冊で十分だろう!」
「じゃあ残り九冊はルーが読むといいよ。冬の舞踏会までには、済ませておいてね? じゃないと呪い解けないからね?」
「分かりました、頑張ります!」
リフィアの言葉に、オルフェンの顔色は赤くなったり青くなったりしていた。
「ルー、転移魔法で私をお城まで送ってくれないかな? 急いでいたら転移結晶を忘れてしまってね。ほら、帰りに本を持っていくといいよ! 王都にはあらゆるハウツー本があるからね。善は急げ、だよ」
「…………わかった。リフィア、アスターを送ってくる」
「はい、いってらっしゃいませ」
オルフェンは呪文を唱えると、アスターを連れて消えた。
(もう少し、ステップの練習しておこう)
オルフェンを待っている間、リフィアは引き続きダンスの個人練習をしていた。そうして約一時間が経った頃、オルフェンが十冊の本を携えて戻ってきた。
「もう王都まで行かれたのですか!?」
何もない空間から突然現れたオルフェンに、リフィアは驚きを隠せない。
「うん。リフィアのおかげで最近調子がいいからね。自由に使える魔力もだいぶ戻ってきたし」
本を隅のテーブルに置いて、手のひらに火や水、風や雷、土と自由自在に魔法で出して見せるオルフェンに、リフィアの目は点になった。
「魔法って、一属性しか扱えないのではないのですか?」
「普通はそうみたいだね。でも僕は全ての属性の魔法を扱えるんだ」
(黒の大賢者の異名は伊達じゃないわ。オルフェン様のように、私も神聖力を自在に扱えれば良いのだけれど……)
現状は古くなった料理を新しくしたり、気持ちが高ぶった時にオルフェンの呪いを少し解く事しか出来ない。
その時、テーブルに置かれた本が目についたリフィアは、自身がやるべき事を思い出した。
「オルフェン様、本をお借りしてもよろしいですか?」
「え、い、今から、読むの!?」
「ここにオルフェン様の呪いを解く方法が書かれているのです! 今日中に一冊は読破したいです」
「そ、そっか……好きなやつを選んで、いいよ……」
リフィアが手に取ったのは、一番上にあった『初めての夜』と書かれた本だった。
下に行けば行くほどアスターが選んだ強烈な本になるため、オルフェンはわざと一番上に優しい本を置いておいた。
自室に戻ったリフィアは早速借りた本を読み始める。
(これ、本当に現実なの……!? お二人が慌てておられたのも、今ならよく分かる……あぁ、もう私の馬鹿!)
全てを読み終わった後、リフィアの顔は真っ赤に染まっていた。自身の言動を振り返り、羞恥に悶えていた。
「今日は安眠効果のあるハーブティをお持ちしました」
その時、ミアがお茶を淹れて持ってきてくれた。ミアの淹れてくれるお茶を飲んで寝ると、翌朝スッキリ目覚める事が出来る。
最近のリフィアのちょっとしたマイブームになっていた。
「リフィア様、その本は……! ついに、その時が来たのですね!」
「いや、これは、その……!」
「ご安心ください。衣装の準備は万全に整っております。こちらのクローゼットをご覧ください!」
今まで開かずの間だったクローゼットが、バン! と解き放たれた。そこには見たこともない透けたドレスの数々が収められている。
「こ、これは……何?」
「乙女の完全武装です!」
むしろどこも守られてない気が……と、喉元まで出かかった言葉を、リフィアは何とか飲み込んだ。
(最初からミアに教えてもらえばよかったのかもしれない……)
そう思わずにはいられないリフィアであった。
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