六之章 承前
1
翌朝になると耕平は、昨夜のうちに話をつけておいた、イサクを加えた総勢四人で、昨日行った森の奥にある、あの大きな湖を目指し出かけて行った。湖に向かう道々四人は、こんな話をしながら歩いて行った。
「とにかくだな…。イサクは普通でも声がでかいんだから、現地に着いたら出きるだけ、小さな声で話すんだぞ。おまけにイサクはダミ声だしな。おいらたちも、姿を見たわけじゃないけど、とにかく用心深いというか、こちらには絶対に姿を見せないんだから…」
「バガこぐでねえぞ。ムナク、おらの声がでがいだと…、ほだなバガなごどがあっかよ…」
「ほら、云ってる先からこれだもの、先が思いやられそうだな。これは…」
「なあ…、コウヘイ兄イ。おらの声って、ほだぬ酷いんだべが…」
ムナクから、メチャクチャ言われたイサクは、前を歩いていた耕平に助けを求めてきた。
「そりゃぁ、イサクに小声で話せというほうが、少しばかり無理があるも知れんな…。イサクは長い間、絶壁の谷とも云える山の中で、親子三人で暮らしてきたんだからな。
大自然の山の真っただ中で、生きてきたんたから声のほうだって、自然に大きくなるんだろうな…。と、オレは考えていたんだが、どうなのかな…。イサク」
「ほだなぁ…、さすがはコウヘイ兄イだな。おらの心ン中ばお見通しだ…。どうだ。ムナク、人間はみんなこうでなくちゃ、なんねえんだぞ。人間つうのはな、お互いに信じ合うどごろがら、真の友情どが信頼関係ができるんだ…」
「いやぁ…、イサクから友情論を訊かされるとは、夢にも思っていませんでしたよ。コウヘイお父、イサクも大したもんですよ。これには参りましたとしか、云いようがありませんね。おいらも…」
それを聞いていた、イサクが向きになって言い返した。
「こら、ムナク。おめえはまだ、おらのごどばバガぬすんのが…」
「とんでない。おいらはただ、イサクのことを素直に褒めただけだよ。嘘だと思うなら、コウヘイお父に訊いてみなよ…」
「うむ…、ムナクの云うことは正しいと思うぞ。人間は動物の中で、唯一言葉を与えられた生き物なんだ。だから、動物と違って人間は無暗に、殺し合ったりはしないだろう…。だけど、動物たちも殺し合いはしても、生きるためには仕方のないことなんだ。弱い物が喰われ、強いものが生き残る。それが天然自然界の摂理なのだから、仕方のないことなのだろうがな…。現にオレたちだって、鳥・獣・魚介類を獲っては、その日その日の糧にしてるんだからな。
オレは、この世界に来て以来ずっと、狩りに出て鳥や獣を殺すたびに、『これも、オレたちが生きるために、仕方のないことなんだ…。許してくれ…』と、いつも心の中で詫びながら続けてきたんだ…」
耕平がムナクの跡を継いで語り終えた時、そこに居合わせた者は誰ひとりとして、声を発する者もなく黙々と昨日見つけた、深い森の中の向こう岸も見えないくらいの、大きな大きな湖を目指して歩いて行ったが、湖に辿りつくには膝のあたりまで来る、草を踏み超えて行かなければならず、道程はこれからというのが正直なところだった。
さて、縄文の世界で時間の経過を知るには、太陽の位置関係で大体の予測をする以外方法はなかった。それても、縄文人たちは不自由を感じたことはなかった。それが、一万年も続いた縄文という時代人たちの、永年にわたる経験でもあったのだろう。
耕平たちは、昼近くにはどうにか森の見える、地域までたどり着いていた。
「どうやら、森の見える地点までは着いたようだ。しかし、あの森から湖のあるところまでは、まだ相当距離があるから、充分気を引き締めて行くようにな。もっとも、イサクなんかは何が出てこようと、いささかの心配もあるまいがな…」
「そんだともよ。おらが、この世で一番おっかながったのは、おらの死んだお母ァだったんだども、アイヅも死んじまったがら、もう怖(こへ)えものなんか何(なん)ぬもねえだぞ。ガハハハハ…」
イサクは豪快に笑ってはいたが、その横顔にはどことなく寂しさを、漂わせているのを耕平は感じ取っていた。
イサクは先頭を切って、黒曜石の石斧で行く手を阻んでいる、木の枝などを切り倒しては、森の中をどんどん突き進んで行った。
「イサク、そろそろ湖に近づいているから、木を切り倒すのはそれぐらいでいいぞ」
「いやぁ…。イサクがいると、さすがに進むのが早いですね。昨日の半分くらいで、もうここまで着いてしまうなんて…」
ムナクは進むのを止めて、耕平に歩み寄りながら言った。
「うむ、やはりイサクを誘ってきたのは、正解だったようだな。あと、もう少しで湖のはずだから、出来るだけ音を立てないように、近づかねばなるまい…。
あの湖に、何者が潜んでいるのかは知らんが、とにかく音に敏感なのだけは、確かなようだからな…」
「ほうしたら、いまからおらはこうだな。コウヘイ兄イ…」
イサクは、いつになく小さな声で、両手の指でバッテンを作り、自分の口の前に当てたので、居合わせた三人は声を殺して笑った。
「おい、おい。イサク、何もそこまでしなくても、いいんだぞ」
耕平も、笑いを堪えながら、イサクに言った。
「だども、兄イは云ったでねえだが、おめえは声がでげえがら、湖さ着いだらでぎるだけ、静かにしろって云わっちゃがら、おらは黙っていっかなど思ったんだ…」
イサクは年の割には、はにかむような仕草を見せると、ふいっと後ろのほうを向いてしまった。
「ほら、もういいから機嫌を直せよ。イサク、あの茂みの裏辺りが、湖のはずだから音を立てないように、みんなゆっくりと進め…」
「しかし、昨日の水飛沫の音と、あの大きな波紋の跡は、一体何だっですかね…」
ムナクも耕平同様、昨日聞いた水飛沫の音と、人間が飛び込んだ時のような、大波紋のことを思い出したように、前を行く耕平に訊いてみた。
「なんだ…、ムナクも気になっていたのか…」
「そりゃァ、気にもなりますよ。コウヘイお父、あんな人間でも飛び込まない限り、出来ないような大きな波紋を、この眼で見てしまったんですよ。気にするなと云われたしても、気になるのが当たり前じゃないですか」
それから、またしばらく時間が経過して行った。四人は湖面に近い茂みの中で、蹲るようにして待っては見たが、湖面は静まり返り波ひとつ立たない、静寂さを保っているばかりだった。イサクなどは、長いこと座ったままの状態なので、痺れを切らしてしまい左右の足を、横のほうに伸ばしたり曲げたりの、繰り返しをさっきから百回は続けていた。
「やっぱり、きょうも現れないんじゃないの。こんなところで時間をムダにしてるより、邑のほうに戻って狩りでもしたほうがいい。お父…」
と、コウスケが言った」
「オレはな。コウスケ、お前には昔から、やりたいことがかあったら何でもいい。自分で考え自分でできることであらば、何でも好きにやれと教えて来たはずだぞ。別に、オレたちに付き合うことなどは、さらさらないんだからな。自分で一番やりたいことを、やればそれでいいんだからな…」
「うん、わかった。ありがとう、お父。それじゃ、おいら行くね。みんなも頑張ってね…」
コウスケは、そういうと湖畔の茂みを抜け出すと、草原ほうを目指して駆け出して行った。途中で三人のほうを振り返ると、大きく手を二・三度振ってから、後も振り向かずに邑へと戻って行った。
「さて、どうするかだな。これから…、そうだ。イサクも何だったら、帰ってもいいんだぞ。どうせ、いつ現れるかも知れないだ。だから、お前が退屈だと思ったら、いつ帰ったっていいんだ。無理強いはしない…」
「なんだ…。ほだなごどが、すかす、コウヘイ兄イも水くせえなぁ…。おらが、いづ退屈だなんて云っただ。おらは兄イの云うごどだったら、何だって聞くべど思ってんだ。だがら、退屈なんてするわげがねえべ。違うが、コウヘイ兄イ…」
「あ…、これはイサクに一本取られたかな…。そうじゃないんだよ。イサク、人間というものは自分の趣味とか、興味のあることには熱中もするが、そうじゃないもの…。つまり、自分とは無縁なもの、まったく興味を示さないものには、他人から頼まれたとしても、あまり気乗りはしないだろう…。
逆に、喰いものでもいいんだが、ここにお前の大好物のものがあったとする。すると誰かがそれを獲ろうとするんだが、お前も大事な喰いものを獲られてたまるかと、必死に奪い返そうとするんだ。だけど、そのうちに別のものを見つけて、いままで奪い合っていたものを、放り出して新たな獲物の奪い合いになるんだ。
前の話は別としても、喰いものの話はどうだ。お前だったら、こんな時どうする。イサク…」
「おらが…。おらだったら、ほだぬ喰いもので奪い合ったりしねえな…。おらも腹が減ってんなら、相手だって腹が減ってんだべ。ほだどしたら、その喰いものば半分こして、半分を 相手にも分げてやれば、どっちも飢え死にしなくても済むべ…」
耕平は、このイサクという縄文人の言葉に、縄文時代という歴史の一区分に過ぎないが、一万年も続いたと言われる縄文時代の、本質のようなものを見た思いがしていた。
「さて、コウスケもいなくなったことだし、きょうは三人でじっくりと、一体どんな姿を見せるのかひとつ腰を据えて、特と見定めてやるからいつでも来るがいい…」
「本当に、どんなもの現れるのか…。おいらなんかは、いまから胸がドキドキしてますよ。
とにかく、おいらも昨日は水飛沫の音と、あの大きな波紋だけしか見てませんからね…」
「果たして、今日も現れるかどうかだが、例え現れたとしても、また昨日みたいに水飛沫と、波紋だけでは話しにならないからな…。これが、どんなものであろうとも、オレたち三人が同時に見たとなれば、これは歴然とした立派な証拠になるからな…。だから、ムナクもイサクも見落しのないよう、しっかり見張っていてくれよ。何が出てくるか、分ったものじゃないんだからな…」
湖畔の波打ち際の近くにある、灌木の茂みに隠れて耕平たちは、湖水に何か変化は見られないかと、交代で見張りを続けていたが、太陽はもうすぐ中天に達しかけていた。
耕平たちの周りでは何ら変わった様子もなく、風が出て来たのか湖面には、波が出てきたようだった。
その時、湖面の湖畔に近い辺りに、ちょうど人かひとり掛けられる程度の、波に洗われ岩の出っ張りがあった。その辺りの湖水の一角から、ポコっポコっという水泡が現れて、弾けては現れるという現象が続き、そのうち湖水の中から真っ白な、一本の腕が出て来たかと思うと、若い女の上半身が姿を現した。
「女ですよ。コウヘイお父…」
ムナクが小さな声で、つぶやくように言った。
だが、女が湖水から上がり、岩の上に腰を下ろした瞬間、まるで時間が止まりでも、したかのような衝撃が走った。
「こんなバカな…」
耕平は、ひと言だけ小さな声でいうと、絶句してしまった。
岩の上に腰を掛けて、髪を乾かしている女の下半身には、人間の足は付いていなかったのだ。
『あれは、単なる伝説ではなかったのか…。ここは縄文時代だが、まさかこんなところで人魚に出逢うとは…、人魚伝説は世界中の、至るところにあるらしいが…、オレも昔何かの本で読んだことがあるぞ。日本の八百比丘尼という尼さんは、人魚の肉を食べて八百歳まで生きたというが、果たして本当なのだろうか…』
世界中に今もなお伝説として残る、人魚伝説の妄想は耕平を虜にしていた。
まして、目の前で濡れた髪を乾かしている、人魚の姿を見た以上はもはや、それは伝説や伝承の類ではなく、耕平はすでに現実として捉えつつあった。
そして、ムナクとイサクも無言のまま、神秘的とも言える神聖な、人魚の姿に見入っていた。
耕平は何とかして、この人魚とコンタクトを取れないかと、思案の最中だった。
『人魚か…。上半身が人間で下半身が魚か…、人間の言葉なんか分らないだろうな…。何とか、コミニュケーションが取れないのか、ん…。しかし、待てよ。人魚と云えば海に棲んでるはずだぞ…。それが何で、こんな山の中の湖になんかいるんだろう。
いくら縄文時代だからって、これでは話がメチャクチャじゃないか…。世の中って、どうして、こうも訳の分らないことばかりなんだろう…。とにかく、どうにかして、人魚との会話を成立させることは、できないのか…。人間の言葉は分かるのか。もし、下手に声をかけたりして、湖の中に逃げ込まれでもしたら、それこそ元も子もなくなるし、本当に困ったぞ…。これは…』
耕平は、本当に戸惑いを感じているようだ。これまでは、伝説やお伽噺・童話としてしか、捉えていなかった人魚が、現にこうして自分のいる、すぐ眼の前で岩に腰を掛けて、濡れた髪を乾かしている姿を、その眼で見てしまった以上は、もうそれを「夢だ!」「幻だ!」だと否定しても、現実は現実として永久に残るのだと、耕平も真実は否定することはできなかった。
「お…、お父…。あれは…」
何ですか。と、ムナクも聞き立ったのだろうが、予想だにしなかった展開に、あとの言葉が出なかったのだろう。
だから、イサクにいたっては、身動きひとつせずに口を、パカンと開いたままで、茂みから首だけチョコンと出して、人魚の後ろ姿に見入っていた。
「これから、どうするんですか。コウヘイお父…」
ようやく我に返ったのか、ムナクが耕平に訊いてきた。
「どうすると云われてもなぁ…。相手が人魚じゃ、どうすることもできまい…。第一こっちの言葉も、分らんだろうからな…」
「に、人魚…って、あれのことですか…。コウヘイお父」
「うむ、オレのいた世界では、伝説の生き物として、古くから語り継がれてきた、幻の生き物なんだが、まさか、実際に生存していようとはな…」
ムナクの質問に答えながらも、自分でもまさかと思っていた、事柄が現実のものになろうとは、耕平自身もさらさら考えてもいなかった。
だとしたら、どうにかして意思を通じさせる手が、ないものかと考えるのが、人の世の常ではないかと耕平は思った。
しかも、ここは縄文時代で相手は人魚だから、一般的な人の世とは若干違うのは、致し方のないことだと考えて、耕平は灌木の茂みから立ち上がると、人魚が腰を下ろして髪を乾かしている、波打ち際に近い岩に向けて、自ら足を一歩踏み出していた。
この時の耕平の胸に去来していたものは、自分が初めて縄文時代にやって来て、ウイラとカイラの姉妹に出逢った時のことだった。
自分のほうに近づいてくる。耕平に初めて気づいたのか、人魚が振り向くと耕平の視線と、ピタリと合ってしまった。人魚はとっさに、湖水に飛び込もうとしたが、それを予測していた。耕平が身振り手振りで、待ってくれるようにと告げた。
すると、次の瞬間。耕平にも予測がつかないことが起こった。
『私(わたくし)に、何かご用でしょうか…』
それは声ではなく、耕平の心に直接響いてくるような。声というより、何かに捧げる祈りのようなものだった。
耕平もまた同じように、心の中で念じてみた。
『貴女はどなたなのですか…。もし、貴女が本当の人魚であるのなら、どうして、このような山の中の…、しかも湖なぞに棲んでいるのですか…。
私の知っている人魚なら、みんな海に棲んでいるはずです。なのに貴女は、なぜこんな山の中の、湖などに棲んでいるのですか。教えてください…』
耕平は、そう必死で心の中で念じていた。
人魚もしばらく黙っていた。やがて、意を決したように、ふたたび耕平の心の中で、祈るような人魚の声が響いてきた。
『私たち人魚族は、もともとは海に棲んでおりました。ある時、わたくしたちの仲間のひとりが、泳いでいる姿を漁をしている、人間に見られてしまったのです。
人魚族には掟がありまして、人間に私たちの姿を見られたら、もうその海には棲めないことになっているのです。ですから、私たちは人間に見られるたびに、世界中の海を転々としてまいりました。そして、ついに行くところがなくなって、時間を超える決心をしたというわけなのです…』
人魚の話を聞いた耕平は、しばらく黙ったままでいたが、やがて人魚の心の中に静かに語りかけた。
『それでは、今回も私に見られてしまったから、またどこかに行くことになるのかね…』
『はい、そのようになるかと思われます…』
『だとしたら、私は何も云わないし、この時代は幸いにも人間の数も少ない。海だってそうだ。広々としていて、何も邪魔するものもいないし、魚だって豊富に棲んでいる。君たちが、こんな山奥の湖までどうやって来たのか、私には見当もつかないが、海まで行く手段だってあるのだろうから、私はぜひ進めたいね。ここなんかよりは、ずっといいと思うがな…』
『はい、ありがとうございます。ですが、こればかりは私の一存では、決められることではありません。みんなとも話さなくてはなりません。それでは、私は行ってみたいと思います。いろいろと、ありがとうございました…』
耕平と人魚を見ていた、イサクとムナクはピクリとも動かないで、お互いに見つめ合っているふたりを見て、
「なあ、ムナク。コウヘイ兄イは、どうすたんだべ。ふたりども身動ぎもすねえで、顔ば見でっけど何すてんだべ…」
「そんなこと、おいらに訊かれたって、分るわけがないだろう…。あとで、コウヘイお父に聞いてみるんだな…」
「なんだ…、ムナクだって知らねえくせに…」
「何を…、このー」
ムナクとイサクが、諍いをしている間に人魚は、腰を下ろしている岩の上から、ひらりと身をひるがえすようにして、湖水に飛び込むと水中深く姿を消して行った。
人魚を見送ったあとに、ムナクとイサクが駆け寄ってきた。
「なんだ、何だ…。コウヘイ兄イ、あの半分が人間で、半分が魚のバケモンは…」
初めて人魚を見たイサクは、すっかり人魚のことを半人半漁の、化け物扱いにして騒いでいた。ムナクはムナクなりの視点から、人魚を見ているらしく耕平に訊いてきた。
「コウヘイお父、いまのは何という生き物なのでしょうか…。何しろ、おいらは初めて見る生き物なもんで…」
「ん…、人魚か。オレのいた世界でもあれは、伝説の生き物として扱われていて、オレ自身もまさか実物に出くわすとは、夢にも思っていなかったから、驚きもひとしおってところなのさ…。さて、今日もいろいろあったし疲れたし、早いとこ引き揚げて邑に帰ろうか…。みんなもごくろうさん…」
「コウスケがまだなんですが、どうしますか…」
「アイツも子供じゃないんだ。ほっとけば勝手に帰るだろう。さあ、オレたちも帰るぞ」
こうして、まだ戻らないコウスケを残して、耕平たちは邑を目指して戻って行った。
2
翌朝、耕平が目醒めると、昨日森の湖で出逢った、人魚のことを思い浮かべていた。イナクろを起こさないように、そっと床を抜け出ると、人魚のことをお思いながら外に出た。
外に出ると、太陽が昇らんとしているところで、まぶしい光が耕平を照らし出していた。
耕平は、なおも人魚のことを思い続けていた。
『色が白くて、なかなか綺麗な娘…だったな…。もうすぐ、いなくなるんだろうが、あの娘の名前…。あ…、しまったぁ…。名前を聞き出すのを、すっかり忘れていた。せめて名前だけでも、聞いておくべきだった…。
もう、行ってしまっただろうか…。まだ間に合うかもしれんな。これから、すぐに行ってみよう…』
耕平は一旦家の中に入ると、弓と矢を両手に持つと邑の外れの、草原に向かって歩き出していた。今回はひとりなので、他の者に合わせる必要もなく、耕平は気ままな足取りで歩いて行った。
そのせいか誰に合わせなくても、自分のリズムで歩いてきたのが、功を奏しのか耕平が思っていたよりも、はるかに早く人魚の湖のある、森が見える地点まで近づいていた。
『やっぱり、自由に動き回るのには、単独で行動するのが一番だな。お陰でずいぶん早い時間で、こんなところまで来れたし…。あとは、間に合ってくれるのを、祈るばかりだが…。さあ、オレも急ごうか…』
耕平は、森まで辿り着いても、少したりとも休もうともせずに、一気に森の中へと駆け込んで行った。幸いにもイサクが前に、森の中に生えている樹木を、切り倒したり引っこ抜いてあるから、耕平ひとりくらい行き来するのには、まったくと言っていいほど支障はなかった。耕平はわき目もくれずに湖へ向かった。そして、灌木の茂みを抜けると、晩秋の陽光を反射させるように、耕平の目の前に湖が輝いていた。
耕平は、湖畔の水辺まで来ると、湖水に向かって念じ続けた。
『まだ、ここにいるのでしたら、もう一度だけ出てきてください。そして、もう一度だけ貴女の顔を、この私に見せてください。お願いします…。
もしも、まだいらっしゃるのでしたら、もう一度だけ、貴女の顔を見せてください。お願いですから、もう一度だけ…、お願いします…』
耕平は、ひたすら祈り、ひたすら念じた。
時間にすると、五分か十分だったろうか。湖の中ほどから、水中をこちらに向かって、泳いでくる影が見えた。すごいスピードで泳いでくる。
昨日腰を下ろしていた、岩の近くまで来ると速度を落とし、水面に顔を出し耕平の顔を見ると、ニッコリと微笑みながらも、実に器用な身のこなしで、ヒラリと岩の上に腰を下ろした。人魚は濡れた髪を軽く絞ると、
『昨日は、いろいろとご指導をいただきまして、ありがとうございました。一族の者とも話し合いをしまして、この度はこちらの海のほうに、お世話になることになりました。本当に、ありがとうございました。それで、私にもう一度逢いたいとのことでしたが、どのようなご用だったのでしょうか…』
『あ…。そことなら、実は昨日、あなたの名前を聞きそびれまして、もう二度とお逢いすることも、出来ないのでしたら、せめて名前だけでも聞いておきたいと、朝起きてすぐにやってきたと云うわけです』
『そうでしたか…。ですが、残念ではありますが、私たちの言葉は人間である、彼方にはとても理解することが、困難かとも思われます。ですので、今は仮に彼方たちの言葉で、〝オーム〟とでも名乗っておきましょう…』
『オームさんか、とてもいい名前だ…。私の名は、耕平と云います。もし、忘れなかったら、たまには思い出して下さい。それで、いつ経つのですか…』
『はい、これからすぐにでも、経とうかという話もありましたが、長老たちの意見によりまして、しばらく準備を整えてからでないと、危険が伴うとのこでもう少しの間、ここに置いて頂くことになりました…』
『そう…、それはよかった。どうせ、誰のものでもない湖なんだから、しばらくゆっくりすればいいさ…』
『ありがとうございます…。何から何まで、ご心配をおかけいたしまして、何とお礼を申していいのやら…』
『何、いいんですよ。そんなことは、人間だってそうなんですから、誰のものでもない土地に、勝手に住み着くのはいいとしても、ここからここまではオレの土地だ。とか、勝手に決めつけて、挙句の果ては戦いを始めるんですから、人間なんてどうしようもない生き物なんです。
その点、貴女たち人魚族は純粋というか、人間に姿を見られたと云っては、他所の海に移って行ってしまう。これを純粋と云わなかったら、この世に純粋という言葉すら、存在しなくなってしまうでしょう…』
『まあ…、そのようにお褒めになられましても、いまの私には貴方にお返しするものも、何も持ってはおりません…』
『いや、私はそんなものは何もいりません。ただ貴女たちが、無事に海に辿りつけるのを、心から祈るだけです。それに、私には貴女たちがどうやって、海まで移動されるのか、それすらも分らないのですよ。だから、ただただ貴女たちの海までの、旅の無事を祈るだけしかできないのです』
『ありがとうございます。そのように、ご心配を頂きまして、長老たちも感謝しています』
『いつ、ここを経つのか分かりましたら、私にも知らせてもらえますか…。お見送りをしますから…』
『でも、困りましたわ…。私たちの思念は、そんなに遠くまでは届きませんの…。海の中や水中なら、ある程度は何とかなるのですが、空気中だとあまり遠くまでは届きませんの…。いかが致しましょう…』
『それなら、こうしましょう。これから毎日、私がここまでやってきますから、貴女たちの日程が決まったら、教えてもらえればそれでいいですよ。それに、そのほうが私としても、オームさんの顔も見られますからね…』
耕平が、そう提案すると、人魚のオームがニッコリと微笑んだ。
オームにしてみれば、これからしばらくの間は、耕平と毎日逢えるというのが、殊の外嬉しかったのかも知れなかった。
それから耕平は、湖水の岸辺に腰を下ろすと、オームといろいろ語り合った。耕平は人間のことを語り、オームは人魚のことをそれぞれ話した。
『前にも話したかと思いますが、日本では人魚のことはかなり古くから、庶民の間で語り継がれてきました。庶民とは云っても主に漁師の間で、囁かれていたんでしょうが、中には何か別のものと見間違えたものも、数多い話の中には多々あったのではないかと思われます。
しかし、人魚伝説は日本だけに止まらず、世界各地に分布していて内容も、多種多様に渡っていることも加えておきます。
普通、人魚というと日本の人魚のように、心優しいものばかりではありません。外国にはセイレーンという、船人たちを美しい歌声で惑わし、海に引きずり込み殺してしまう。ある種の怪物のようなものです。また、ドイツという国のライン河と云う河には、ローレライという精霊が棲んでいて、やはりセイレーン同様に美声で、人の心を惑わしては河の中に、誘い込んで殺すという点は、類似性が感じられます』
『まあ…、何と恐ろしい話ですこと…。それはきっと、私たちとは違う、種族のものだと思います。私たちにはとても、そのようなことは来ません。まして、私たちには人間に姿を見られたら他所の海に、移動しなければならないという、神さまがお決めになられた掟がございますから、そのような恐ろしいことは、一切できないのです』
『ですが、最初のセイレーンのほうは、完全なる人魚ではなく、上半身は人間なのですが、下半身は鳥で背中には、翼がついているという説もあるんです』
『まあ…、翼ですか。それでは、まるで人魚とは云えませんね…』
『いや、これはあくまでも神話に出てくる話ですから、信憑性については何とも云えません。
それでも、それも最初のうちだけで、最後には正確な人魚として、描かれていますから、神話などと云うものは、所詮そんなものなのでしょう…』
『だとしましても、いま伺った話ではセイレーンにしても、ローレライにしましても、私たちの一族とはほど遠いものと、感じられてなりません。
私たちは人間を惑わしたり、水の中に誘い込んで殺したりもしません。ですから、これまでの私たちは、少しでも人間に姿を見られると、世界中の海を転々としてきたのです。
そして、行き場を失った私たちは、時間を超える決心をして、この世界にやってまいりました。そうして、偶然にもこうしてコウヘイさまにも、お逢いすることができました…』
『そうか…、君たちは自由に時間を超えられるんだったね。
私も実は、タイムマシンいう機械の力を借りて、この世界にやって来たんだが、ここは実にいいところでね…。あまりにも、時間がゆっくりと流れ過ぎていて、私には最初の頃はまるで時間が、止まっているように感じられたものだった…』
『それでは、コウヘイさまも私たちと同じように、
『いや、いまはもう出来ないんだ…。時間を超える機械を返してしまったからね…』
返したわけではないのだが、人魚に細かいことを言っても仕方がないと、耕平は思いながら自分も人魚たちのように、自由に時間を超えられるのなら、どんなにいいだろうと耕平は考えていた。
それから、耕平と人魚のオームは、いろいろ語り合った。オームと語り合っているうちに、耕平は知ってしまったのだ。人魚族の歴史が人類の歴史より、遙かに古いものであることを…。
地球の生命の源が海であるならば、人魚族が「地球上」にというか、地球の海に現れたのは、人類が地球上に登場する遙か以前、海中にはアンモナイトなどの、原始生物が溢れていた。人魚族の始祖も、人類の祖先がそうであったように、人魚族も現在絵画等で見られるような、綺麗な姿はしていなかったらしい。
だが、オームの送ってくる思念では、はっきりとした人魚族の始祖の姿は、窺い知ることはできなかった。耕平が後で聞いたところによれば、人魚族の記憶は、親から子へ子から孫へと、受け継がれていくらしいが、映像の部分は、その限りではないらしかった。
『大変、勉強になりました。どうもありがとう。それにしても、先祖代々の記憶が受け継がれていくのは、すごいことだと思いましたよ。人間には到底真似ができません…』
『そうでしょうか…。私にはコウヘイさまが、とても羨ましいと思います。私も出きることならば、コウヘイさまのように、大地の上を歩いてみたいのです。ですが、それも決して叶うことはありません。私にはもともと足がないのですから…』
『オームさん、そんなに悲しむことはありません。貴女さえよければ、私が貴女を抱きかかえて、野原のほうに連れて行ってあげますよ』
それを聞いたオームは、異常なまでの昂ぶりを見せた。
『それは、とても嬉しいのですが、私をどのようにして、運んで頂けるのでしょう…』
『それも簡単です。私が貴女を抱きかかえて、連れて行けばいいのですから…。
ただ、ひとつだけ心配なことがあります。貴女たち人魚族は何時間もの間、水中から離れていても大丈夫なのでしょうか。それだけが、私には気がかりだったものですから…』
『それなら、ご心配には及びません。私たち人魚族は、三日四日となりますと話は別ですが、一日くらいなら陸の上でも生きられますから…』
『そうですか、それなら安心です。そうと決まれば、さっそく出かけましょう…。ところで、貴女は自力で陸に上がれますか、それとも私が手を貸しましょうか…』
『いえ、結構ですわ。ここは湖ですから、波打ち際まで浅瀬になっています。ひとりで上がれます』
オームは、そういうと浅瀬まで来て、人間が片足立ちをするように、尾びれを軸にして立ち上がり、やはり人間が片足飛びをするように、水辺を飛び跳ねて耕平のほうへ寄ってきた。
『やあ、やはり近くで見ると肌は白いし、とてもキレイですね。貴女は…』
耕平に褒めれて恥ずかしくなったのか、オームは普通よりは大きいと思われる、ふたつの乳房を両手で覆い隠してしまった。
『何も、そんなに恥ずかしがることはありません。美しいものは、誰が見たって美しいのですから…。さあ、行きましょう。緑に揺れる草原の海へ…。さあ、オームさん。私の両腕の中に乗ってください。そのまま抱きかかえて行きますから…』
オームは言われた通り、尾びれでタイミングを計りながら、ひらりと耕平の腕の中に乗っかっていた。
『私が思っていたよりも、オームさんは遥かに軽いですね。それに、間近で見ると肌が透き通るように真っ白で美しい…』
『そんなに見ないでください。耕平コウヘイさま、あまり見られますと私は恥ずかしくて堪りませんわ…』
と、人魚のオームは身をくねせると、耕平の首に両腕でしがみついてきた。
しがみつかれた耕平は、着衣の上からオームの乳房が、直に感触として伝わってきた。さすがに、オームは水生の生き物だけあって、人間のような肌の温もりは感じられなかった。
耕平はオームを抱きかかえながら、イサクが切り開いた道を通って、草原地帯まで辿り着いた頃、吹く風も夏の生暖かいものではなく、もう間近に迫った厳しい冬の到来を、思わせる冷たい風が吹き抜けて行った。
「もう、だいぶ風が冷たくなってきたな…。雪が降り出すには、まだ間があるはずだが…」
耕平は独り言のようにつぶやいた。
『まあ…、もうそんな時期ですか。冬は湖なんかにも氷が張りますし、私も嫌いですわ…』
「あれ…、オレはいま独り言を云ったはずだが、オームさん。もしかすると、貴女は人間の言葉が分かるのですか…」
『いいえ、そうではありません。言葉というものは、人魚でも人間でも同じだと思うのですが、話そうとする言葉を頭に浮かべます。コウヘイさまが、独り言を云われたとしても、それが思念となって私に伝わったのです』
「それじゃ、もうオレは普通に喋っても、オームさんにも伝わるんだね…」
『はい、そのようです…。私も、いま初めて知って、驚いているところです』
「さあ、着きましたよ。オームさん。ここが見渡す限り、草だけが生えている大草原です。まるで海のように波打ってるでしょう…」
『わあぁ…、本当…。ここが陸の上なのですね…。私は陸の上が、こんなにも綺麗なところとは、夢にも思いませんでした…。本当に綺麗ですこと…。あ…、それからコウヘイさま。早く私を下ろしてください。いつまでも私を抱えていては、コウヘイさまが疲れてしまいます。ですから、早く下ろしてください』
「オレのことを、心配してくれるのは嬉しいんですが、そんなに気を使わなくてもいいです。いま下ろしますから、ちょっと待ってくださいよ。ドッコイショっと…」
耕平はゆっくりと、オームの体を草の上に下ろした。
『まあ…、これが草なのです。水の中では感じられない、いい匂いがします…』
風に乗って漂ってくる、大草原の大いなる草の匂いに、オームはうっとりとしていた。
耕平とオームが腰を下ろして、海原の波を思わせるような、大草原のうねりを見ていると、二・三人の男たちが近づいてきた。ムナクとコウスケとイサクだった。
「コウヘイお父。やっぱりここだったんですね。イナクが起きると、お父がいないんでおいらのところに来て、『コウヘイがいない』と騒ぐんですよ。
おいらは、どうせここだろうと思って、放っておいたんですが、どうしようもなくなって、コウスケとイサクを誘って、朝早くからやって来たんですよ。あ…、これが昨日の人魚さんですね」
「それはご苦労だったな…。そうだ。みんなに紹介しておこう、こちらは人魚のオームさんだ。それから、こっちが息子のムナクとコウスケ。それにこっちが弟分のイサクです。みんなも挨拶しろ」
『あ…、昨日はご挨拶もできずに、すみませんでした。私は人魚のオームと申します。どうぞ、よろしくお願いします』
三人の頭の中にオームの声が響き渡った。ムナクたちが挨拶をする前に、オームのほうがひと足早く、挨拶を済ませてしまっていた。
「おいらムナクって云います。いまあなたの声が、おいらの頭の中で聞こえました。あなたたちは、みんながそうやって話をするのでしょうか…」
「おいらは、息子のコウスケって云います。よろしく…」
「おらはコウヘイ兄イの弟分で、イサクって云うだ。だども、昨日のおめえさんは色が真っ白けで、とってもうっつぐしがったんで、すっかり見とれでしまっただ…」
ひと通り自己紹介が終わった。
「だけど、コウヘイお父。人魚のオームさんを、こんなところまで連れてきて、大丈夫なんですか…。森の湖まではだいぶあるようですが…」
「うむ…、オレもオームさんから確かめてみたんだが、陸の上には長くはいられないそうだが、一日ぐらいなら大丈夫ということで、ここまで来てもらったんだが、彼女は湖から離れて陸に来るのは、これが初めてだそうで見るもの聞くもの、すべてが珍しいと云ってここに来てから、ずっと草原の波打つようなうねりに、すっかり見とれていたところだったんだよ」
『ええ、私は海にもいたことがあるので、よくわかります。ですから、この草原のうねりが大海原のうねりと、よく似ていたものですから、つい懐かしくなりまして、見取れておりました』
「あのう…、海にいたことがあると云われましたが、それはいまから、どれくらい前の話なんですか…」
オームの話を聞いていた、ムナクがオームに訊いた。
『そうですわね…。かれこれ六十年か、七十年ぐらいになるでしょうか…』
「ち…、ちょっと、待ってくださいよ。オームさん…」
ムナクの質問に答えている、オームに耕平は慌てたように、話に割って入ってきた。
「いま七十年とか云われましたが、女性に歳ことを聞くのは、オレ自身も失礼かと思うのですが、オームさん…。貴女の年齢は一体何歳なのですか…」
『私の年齢でしょうか…。詳しく数えたことはありませんが、三百歳くらいだと思いますけども…』
「さ、三百歳…」
そこに居合わせた四人は、ほとんど同時に叫んでいた。
「そ、それじゃ…、貴女が云われていた、一族の長老っていう方々は、どれくらいの年齢なのですか…」
『はい、長老たちはみな八百から、九百歳くらいの者ばかりですわ』
「人魚というは、そんなに長生きできるものなんですね…。われわれ人間にしてみれば、本当に羨ましい限りだよなぁ…」
人魚のオームと耕平一家は、それから陽が西に傾くころまで、草原の波打つような草の上で、大いに語らいを続けた後に、イサクがオームを抱きかかえて、森の湖まで四人揃って送って行った。
そして、湖での別れ際に耕平が「明日もまた来るから」と、約束を取り付けるとオームは、嬉しそうな顔で両手を振ると、湖の奥深くへと姿を消して行った。
邑への帰りの道々耕平の足取りは、いつもより軽やかだった。
オームたちが、いつこの地を去るのかは、知らないまでも最後の最後まで、見届けてやろうという、強い意志が耕平の全身に漲っていた。
3
朝が来た。耕平はいつものように、イナクを起こさないように、そっと寝床から抜け出ると、家からひとり外へと出てみた。今朝はいつになく、ひと際寒さが身に染む日だった。
『うー…、だいぶ寒くなってきたな…。これは、そろそろ霜が降りるかも知れんな…』
縄文時代という、日本の歴史上での時代区分では、旧石器時代の後の時代に当たり、約一万四〇〇〇年間続いたという、世界でも類を見ない異例の歴史である。
日本における縄文文化の成り立ちは、日本がまだ大陸と陸続きだった頃、北と南から獣を追って来たのが始まりで、それがいつしか住み着くようになり、原日本人たちとも交わりながら、現代人のわれわれからすれば、気の遠くなりそうな歳月をかけて、築き上げてきた歴史があるのだ。
こうして北と南から、日本に流入してきた渡来人たちは、いまから約一万二〇〇〇年前頃になると、最終氷期も終わり急激な地球温暖化による、海水面の上昇が始り日本列島は、アジア大陸から分離されて行った。
さて、話を元に戻すと、耕平は朝飯もそこそこにして、今日も邑の外れの林を抜けて、蒼茫とした草原を真っ直ぐ渡り、湖のある森を目指す足取りも軽やかだった。
太陽の位置加減から、もうそろそろ昼に近い、時間帯であることが分かった。
灌木類の茂みを掻き分けて進むと、枝の合間よりキラキラと輝く、太陽の反射光が耕平の眼には眩しく映った。
耕平は湖に着くと、湖畔の水際に腰を下ろした。それから、水面に向かってオームを呼ぶために小さく声をかけた。
「おーい。オーム、今日もやって来たぞ…。聞こえていたら出てきておくれ…」
耕平が声をかけるのを待っていたかのように、耕平からそれほど離れていない湖面が、大きく盛り上がったかと見ていると、オームが水面を蹴り上げるようにして、大きくジャンプをしてまた湖面に落ちた。オームが落ちた湖水には大きな水飛沫が上がった。水飛沫が収まったあとには、あの大きな波紋が二重にも三重にもなって、湖水いっぱいになって広がって行った。
『そうか…、あの時の水飛沫はこれだったのか…』
三日前に、ムナクとイサクで見た水飛沫は、これだったのかと耕平は、はたと思い当たっていた。
あの時は、三人ともまさかこの湖に、人魚が棲んでいようとは、誰ひとり考えていなかった。だから、人間ひとりが飛び込まないと、出来ないような水飛沫と大きな波紋も、それも何が原因でできたのか、分らなかったのも当然だった。
耕平自身でさえ、伝説とか童話としてしか、捉えていなかったのだから、縄文人のムナクやイサクにしてみれば、チンプンカンプンな話で、到底理解することなど無理に近かった。
『ふふふふ…。驚かせしてしまったかしら…、コウヘイさま』
「別に、オレは驚きはしないさ。それよりも、この湖から海のほうに移動する時期は、いつ頃になるかまだ決まらないのかね…」
『はい、そのことなのですが、長老たちの云うには、「もうすぐこの辺りにも冬が来て、氷が張るのも間近だろう」と云うんです。湖が凍ってしまうと、湖ごと移動するには差障りがあるんだそうで、冬が来る前の出きるだけ早い時期に、この湖から移動することが決定いたしました』
「そうか、決まったか…。それで、いつこっちを経つのかね…」
『はい。それもただいま、長老たちが協議中とのことで、そう長くは掛からない時期に。旅立てるものと思われますが…』
「そうか…、それはよかったね。短い期間だったが、オレはオームと知り合いになれて、よかったと思っているんだ。ありがとう、オーム…」
『まあ…、コウヘイさま。そのようにおっしゃられたら、私(わたくし)は、私は…』
耕平の頭の中で、いまにも泣き出しそうな、オームの思念が伝わってきた。
「とにかく、出発の日取りが決まったら、オレにも知らせてくれ。ムナクやイサクやコウスケたちとともに、みんなで盛大に見送ってやるから、絶対に知らせてくれよ…」
『わかりましたわ。コウヘイさま、必ずお知らせいたしますわ。私お約束いたします』
人魚一族の旅立ちの日が決定次第、オームが知らせることを約束したので、耕平は何となくホッとしたのだった。ほんの三日間というわずかな期間でも、人魚族という伝説としか捉えていなかった、耕平にしみれば縄文時代という、すでに歴史の彼方に過ぎ去ってしまった、歴史上の区分のひとつにしか他ならないのだ。
縄文時代の、長い歴史のごく一部分に過ぎない、耕平のいるこの時代にあって、まさしく人魚と出逢うなどとは、耕平が縄文時代にやってきたよりも、すべてにおいて稀であったことには違いなかった。
それから、五日余りが過ぎ去った。その間、耕平は毎日森の湖に通い続けた。そして、五日目の昼近く湖に着いた時だった。耕平が来るのを待っていたように、オームは耕平の姿を見つけると、尾びれの先でピョンピョン跳ねながら、耕平に勢いよく抱きついてきた。
「どうしたんだ。今日は…、そんなにはしゃいでいる、オームは珍しいんじゃないか。何かあったのかい…」
『決まったんでんですよ。私たちが、この湖から海のほうに、移動する日が決まったんです』
「そうか、決まったか…。それで、いつこっちを出発するんだね…」
『はい、五日後の午後にコウヘイさまたちが、見えられたらすぐに出発するという、長老たちの特別の図らいだそうで、そのように決定いたしました…』
「そうか、五日後か…。まだ時間はあるな…。これからは、オレとオームだけの思い出作りを、遠く離れても決して忘れないような。ふたりだけの思い出をいっぱい作ろう」
『思い出を作ると云われましても、私は水の中コウヘイさまは陸の上、一体どのようにすればいいのか、私には何も思いつきません。どうしたらいいのでしょうか…』
人魚と人間では、棲む世界がまるで違うことは、オームにも充分わかっていた。わかってはいても、どうすることもできないほどの、苛立ちにオームも悩み苦しんでいた。
「それでは、こうしようか…」
耕平は、言うよりも早く身に着けていた、着衣をすべて脱ぎ捨てていた。
『まあ…、身に着けているものを脱いでしまって、どうなさるおつもりですの…。コウヘイさま』
オームは怪訝そうな表情で耕平に訊いた。
「なーに…、どうもしないさ。オレもオームと一緒に、この湖で泳ごうと思ってね。ふたりだけの思い出作りには、これしかないと思ったからさ。さあ、泳ごうか…」
『ですが、コウヘイさま。もうすぐ、雪が降ろうかという時期に、私たちはもともと水の中が生活の場。彼方は陸の上で生きている人間、まして今は間もなく、雪が降ろうかという時期でもあります。そんな人間にとって厳しい季節に、コウヘイさまが水に入ろうとする行為は、まかり間違えば死を意味することもなります。ですから、どうぞお止めになってください…』
「いや、オームが心配してくれる気持ちは嬉しいが、日本には古くから寒中水泳というものがあって、冬季間のもっも寒い大寒という時期に、男たちがフンドシ一本になって泳ぐという、江戸時代から続いている伝統的な儀式があるんだ。だから、今はまだ冬にもなってはいなし、寒に入るのもまだまだ先のことだから、オームが心配することなんて何もないんだ。それじゃ、行くぞ…」
耕平は、二・三回準備運動をするように、両手足と身体を屈伸させると、オームのいる近く目指して飛び込んだ。ザバーンという音とともに水飛沫が上がった。
耕平はすぐに浮かび上がってきて、オームの傍らに寄ってきてニッコリと笑った。
「どうだ…。オレだってまんざらでもないだろう。それは、オームと比べたら、足元にも及ばないだろうがね…」
『でも、コウヘイさま。水は冷たくありませんの…。人間は冷たさや寒さには、弱い生き物だと聞いておりますが…』
「いや、何。これくらいの冷たさなら、まさか凍えて死ぬこともないだろう。さて、これからどうすればいいのかな…」
『そうだわ…。これからコウヘイさまのことを、私たちの棲んでるところに案内しますわ。さあ、ご一緒に参りましょう…』
「ち、ちょっと待ってくれ…。オーム、君は水中で生きているからいいが、オレは空気がないと生きてられないんだ。わかるか…」
『それなら、ご心配には及びませんわ。コウヘイさま、私が口移しでコウヘイさまに、空気を送って差し上げますから、どうぞご安心を…。さあ、参りましょう』
オームは耕平に近寄ると、両腕を耕平の肩に回して自分の唇を、耕平の唇にピタリと押し当ててきた
『さあ、潜りますわよ。用意はよろしいですか。コウヘイさま』
オームは耕平の肩を抱えたまま、水中に潜り込み体の向きを湖底へと合わせた。両手は使えないオームは、尾びれだけで器用な泳ぎを見せ、どんどん湖底深くに沈んで行った。
『ほら、着きましたよ。ここが私たちちの住処ですの…』
オームに言われて耕平が目をやると、湖底の真ん中に大きな岩山のようなものがあった。
よく見ると岩山のところどころには、小さな横穴のようなものが開いていた。オームは耕平を抱えたまま、そのひとつの横穴に入り込んで行った。
『もう少しの辛抱ですから、我慢してください。コウヘイさま』
横穴を少し入ったところで、もうひとりの人魚がやってきた。
『あ、あれは私の姉ですわ。コウヘイさま』
『オーム、あなたも疲れたでしょうから、ここからはわたくしが変わりましょう…。わたくしはオームの姉で、レムと申しますの。よろしくいお願いたしますわ。さあ、変わりましょう。オーム』
オームも姉のいうこことには、逆らえないらしく耕平を引き渡すと、一緒に後ろから着いて行った。
レムもオームと同じように、耕平の前から肩に手を回し、唇をより強く押し当ててきた。それにもまして、オームの小柄な乳房とは違い、レムのひと際大きな乳房が、耕平の胸に押し付けられては、さしもの耕平も例え人魚とは言え、反応を抑えることは困難だった。
レムが耕平と抱き合ったまま、次第に上昇していくのがわかった。上方に目を向けると、何かしらぼんやりとした、光のようなものが見えてきた。
『あれ、おかしいぞ…。ここは湖の中のしかも岩山の中だぞ。それなのに、どうして明かりが見えるんだ…』
耕平がそんな思いを浮かべていると、その思念がレムにも伝わったのか、レムからも即座に返答が返ってきた。
『あれは発光苔ですわ。コウヘイさま、もうすぐ水面に出ますから、いま少し辛抱してください…』
レムはそういうと、ますます強く乳房を耕平に押しつけてきた。耕平は反応が頂点に達しかけていた。
『何、水面だって…。それじゃ、この湖の底にある岩山の内部が、空洞にでもなっているというのかね…』
『その通りですわ。コウヘイさま、さあ、水面です』
レムは、思い切りよく水面に浮かび上がった。
ザバー、続いてオームも水面に顔を出した。
上を見上げるとレムが言った通り、発光苔らしい光が天井一面を、蒼白く浮かび上がらせていた。太陽光には勝てないまでも、夕闇迫るたそがれ時くらいの明るさは、十分あって耕平も目を凝らさないと、見えないという暗さではなかった。
「こんなところがあるとは、思ってもみなかったなぁ…。しかも、その湖の底にこんな岩山があって、中が空洞になっているとは、世の中驚くことばかりだよなぁ。まったく…」
『さあ、コウヘイさま。こちらにいらして、少し休まれてはいかがですか…』
レムが声をかけので、耕平が振り向くと水面の淵の辺りが、平面になっていてレムとオームは、すでに腰を掛けて耕平を見下ろしていた。
耕平も、ふたりのほうに寄っては行ったが、一度昂ぶったものは自分の意志では、どうすることもできずに、水面をあちこち泳いでいると、見るに見かねたレムとオームが、同時に耕平の側まで飛び込んできた。
『何をしていらっしゃいますの…。コウヘイさま、わたくしたちと一緒に上がって、お話をいたしましょうよ。さあ、早くぅ…』
事情の知らないレムとオームは、左右から腕を押さえ込むようにして、耕平を自分たちが掛けていた、岩場のほうに連れて行った。岩場まで来ると、ふたりの人魚は耕平を抱えたまま、大きくジャンプするように飛び上がり、尾びれで調整するような形で、ひらりと方向を変えると元いた、岩場に一センチの狂いもなく、耕平を真ん中にして見事に着地した。
腕が自由になった耕平は、慌てて自分のものを両手で、覆い隠してしまっていた。
『あら、何をなさっているの…。コウヘイさま』
何も知らないらしく、オームは無邪気に訊いた。
「いや、これは別に何でもないんだ…」
オームの質問に対して、返答に窮している耕平を見て、レムが耕平には分からないように、苦慮しながらオームにそっと囁いた。
『バカね…。この娘は、人間のオスは気持ちが昂ると、…………が……して、…………になるのよ。あなた本当に知らなかったの…』
『まあ…、それ本当なの…。コウヘイさま、私人間のものは見たことがありませんの…。よろしかったら、私にも見ていただけません…』
さすがの耕平も、返事に困っているようだったが、しばらく考えていたがおもむろに口を開いた。
「いいだろう…。見せてやるよ。これがオームとの思い出作りの、ひとつになるのだったら、お安い御用というものだ。よーく、見るといい…」
耕平は半身を覆っていた両手を、ゆっくりと外して行った。
『まあ…、これが人間の…。いえ、コウヘイさまの…』
オームは、初めて見る人間のもののを、放心したような表情で見つめていた。
『これ、オーム。そのように見つめては、コウヘイさまに失礼でしょう。本当に子供なんだから…、困った娘ね…。
誠に申しわけありません。コウヘイさまにばかり、迷惑をお掛けてしまいまして…』
「オレのことなら、気にせんでください。レムさんの胸が、あまりにも見事なもので、それにもまして、あんなに強く押しつけられては、誰だって気持ちが昂りますよ。謝りたいのはこっちのほうですよ…」
『いえ、いえ、そのようなことは、何でもないことです。そのようなことよりも、コウヘイさまのものを、そのままにしてはおけません。何とかして差し上げなければ…』
そういうと、レムは水の中に飛び降り、一旦水中深く潜り込むとすぐに、耕平の真ん前に浮かび上がってきた。
『さあ、コウヘイさま。ここからは、わたくしの責任で後始末をつけてあげますわ。どうぞ気を楽してください』
「あの…、レムさん。その後始末って何のことですか…」
『わたくしのせいで、コウヘイさまのものが、大きくなられたのなら、これはみなわたくしの責任です。ですから、私が元に戻して差し上げますわ。
そうですわ。コウヘイさまも、もう一度水の中に入ってください。そのほうが、わたくしも水の上より自由が利きますから、早くいらしてください』
レムは水の中から手を伸ばすと、耕平の腕を掴んで水中に引き入れた。レムはすぐに自分の唇を、耕平の唇に重ね合わせて、空気を送り込んできた。すると、左腕を耕平の首に回して、右手のほうで耕平のものを弄(まさぐ)りに来た。
『何をするんですか。レムさん…』
いきなり自分のものに触れせれた耕平は、驚いてレムに思念を送った。
『オホホホホ…、これがわたくしの責任の取り方ですわ。コウヘイさま…』
『責任と云われても、オレにはどうでもいいことだし、レムさんもお願いですから、そんなに向きにならないでくださいよ』
『いいえ、そうはまいりません。コウヘイさまはよろしくても、わたくしにはわたくしなりの、ケジメがございますれば、キッチリと責任を取らして頂きますわ…』
耕平に唇から空気を送りながら、レムは右手を巧みに操っては、耕平に刺激を与え続けている。そして、いつの間に呼んだのか、オームがレムと入れ替わって、耕平に空気を送り込んでいた。レムは耕平の腰の辺りまで潜ると、手と口を使って刺激を与え続けた。
『もういい…、止めてくれ…。レムさん』
『もう少しで元に戻ります。そうすれば、楽になりますから、辛抱してください』
レムは、さらに手と口を素早く動かすと、耕平もついに耐えられなくなったのか、
『う、う…』
と、いう思念を発した。それを察知したレムは、口を離すと右手でそっと握りしめた。
『いかがでしたでしょうか。コウヘイさま、これで少しはスッキリと、されましたでしょうか…』
『……………』
耕平はしばらくの間、何も言わず無言のままだった。
『あら…、いかがなされましたか、わたくしのやり方に何か不手際でも、ございましたでしょうか…。コウヘイさま』
『いや、そうではない…。貴方たちは人魚族、オレはただの人間なんだよ。オレのいた世界では、人魚のことはすべて伝説としか、捉えられてはいなかったんだよ。オレ自身も伝説や童話に出てくる、架空の生き物のくらいにしか、考えてはいなかったんだ…。
ごめんよ。レムさんオーム、そんなオレに貴女たちは、こんなにまでして奉仕を惜しまなかった…。心から礼を云います。ありがとう…』
『まあ、そのようにおっしゃられますと、わたくしはまだ足りなかったのではと、不安になってしまいますわ…。よろしければ、もう一度やり直して差し上げても、よろしいんですのよ…。こんどは、もっと時間をかけてじっくりと…』
『いや、もう結構ですよ。レムさん、オレもそんなに若くはないんでね…。それより、オレを元の場所に連れてってください。早くしないと夜になってしまう…』
『そうでしたわね…。残念ですけど、続きは次の機会に回すとして、そろそろ戻りましょうか。オーム、行きますよ…』
レムは来た時と同じようにして、耕平の首に腕を回して意識的なのか、またしても自分の大きな乳房を、耕平の胸にギュウギュウと押しつけてきた。耕平も最初は耐えていたが、徐々にそれなりの反応を示してきた。
『は、早く水の上に出してくれ…。レムさん…』
『少々お待ちくださいませ。もうすぐ水の上ですから、ほーら、見えてきましたわよ。水面が、はい。お待たせいたしました』
ザバーッという音とともに、耕平と二匹の人魚は勢いよく、湖の水面に浮かび上がってきた。耕平もやっとの思いで、岸部まで辿り着くと水際まで這い上がり。そのまま、その場に横たわってしまった。レムとオームも尾びれで飛びながら、耕平の傍らまで来ると横座りに腰を下ろした。
『まあ…、コウヘイさまったら、もうあんな元気になられて…、そうだわ…。オーム、今度はあなたがして差し上げるのよ。さあ、早く…』
『でも、わたしは…』
『何をためらっているのです…。あなたも三百歳を請えた大人なんですよ』
『でも、お姉さま。私は…』
こうして、縄文の世界の耕平の周りでは、時間だけがゆっくりとした足取りで、頬を染めるように通り過ぎて行った。
4
レムはオームのことを、「あなたも三百歳を超えた大人なんですよ」と、ひと言で言い切ったのだが、人間に換算すれば十六か十七くらいの、女の娘に過ぎないのだろうと、耕平はそんなことを考えていた。
「さあ、オーム。これでオレとお前の、思い出作りになるのなら、好きなようにしなさい。それとも、陸の上がイヤなのなら、もう一度レムさんに空気をもらって、水の中に戻ってもいいんだぞ…」
耕平がいうと、オームは思念も発せず無言のまま、コックリと静かに頷いた。耕平はレムと目配せをすると、ひと足先に湖水に入ってくるとレムが耕平を、横抱きにして口を寄せると空気を送ってきた。続いてオームも水中に入ると、耕平たちの下まで潜り込むと、ふたたび浮き上がってくると、ちょうど耕平の腰の辺りで止まった。
『さあ、ここであなたの思ったとおりに、コウヘイさまにして差し上げなさい』
レムがいうと、オームは頷くと耕平の腰の辺りに、静かに手を指し伸ばして行った。
その頃、湖の岸辺付近では、ムナクとイサクが耕平を探しにきていた。
「あれ、今日もここだとばかり思っていたのに、どこにも見えないなぁ…。どこに行ってしまったんだろう…。湖の周りを探してみようか」
ふたりは湖畔に沿って歩き出した。少し行った辺りでイサクが何かを見つけた。
「あんれ…。あれはコウヘイ兄イの着ていだもんじゃねえのが…」
イサクのいう通り、水際の草むらに脱ぎ捨ててあったのは、いつも耕平が身に着けていた着物だった。
「おい、イサク。まさか、もうすぐ雪が降ろうっていうのに、コウヘイお父は水浴びでもあるまいに、どうしたんだろう…。この寒さじゃ、下手をすると凍え死んでしまうぞ…」
「なぬ、ほしたらコウヘイ兄イは、こごで泳いでいで凍えで死んじまったつうのが、ムナク…。バガこぐでねえぞ。コウヘイ兄イは明日の明日の、そのまた明日の世界からやって来た、神さまみたいな偉い人だぞ。ほだな神さまみだいな人が、ほだぬ簡単ぬ死んじまったりしたら、おらは神さまなんか信じねえ…。絶対ぬ信じねぇぞ…」
「わかった、わかった…。わかったから、そうムキになるなよ。イサク」
「どんれ、ほすたらおらも、ちょこら水さ入ってみっか…。ドッコラショ…」
何を思ったのか、イサクは着衣を脱ぎ捨てると湖に踏み入って行った。
「あんれ。まあ…、何だべ。なんだが、外よりも水ン中のほうが、暖けえぞ。ムナクも入ってみろや」
「どれ、ウソだろう…。周りの空気はこんなに冷たいのに…」
ムナクは水際にしゃがむと、湖水の中に手を差し入れてみた。
「あ、ホントだ…。でも、何故なんだ…。周りの空気はこんなに冷たいのに、水の中のほうが暖かいなんて…」
「な、ウソじゃなかんべぇが…。だども、コウヘイ兄イはどごさ行っちまっだべ…。よす、ついでだがら、おらもひと泳ぎすっか…」
「おい、止めろよ。イサク、コウヘイお父を探すほうが先だろうが…」
「だども、コウヘイ兄イはほだら簡単ぬ死ぬ人でねえぞ。おらぬは分んだ。何がわげがあって、どごさが出がげだんだべ。ほだこごどはいいがら、ムナク。おめえもひと泳ぎすねえが。気持ぢええぞ」
「何をそんなに、のんきなことを云ってんだよ。イサク、コウヘイお父が見えなくなったんだぞ。着ていたものだけ残して、姿が見えなくなったんだぞ。それでもお前は心配じゃないのか…」
「ほだがら、いいがよっくど聞けよ。兄イが着てだものが、こごさあるっつうごどは、ほだぬ遠ぐさ行ってねえつうごどだ…。絶対ぬ、こごら辺りさいるはずだぞ。ムナクも一緒ぬ探してけろや…」
「捜すと云っても、コウヘイお父の着ていたものだけじゃ、どこをどう捜せばいいのか、おいらには分かりゃしないよ。どうすりゃいいんだろう…」
「ほうしたら、こうすっべ。おらは水の中ば探すがら、おめえはこの周りをぐるっと回って、探してみてけろや…」
「この周りを回れと簡単に云うけどな。イサク、この湖はこんなに広いんだぞ。ひと回りするのだって、一日は掛かりそうなんだぞ。その間お前はどうする気なんだよ」
「おらが…、ほしたらおらも一日かがってでも、水ン中ぬ潜ってもコウヘイ兄イば、探すてやっから見でろよ…」
「ちぇ、お前は長生きするよ。まったく、お父は人間なんだぞ。魚や人魚と違って、こんなに長い時間水に潜っていられるわけがない…。そうか…、人魚だ。人魚なら人間にも空気を分けてやれるだろう…。きっと、そうに違いない。よし、おいらは向こう岸のほうまで、捜してみるからイサクは水の中を頼む。それじゃ、おいらは行くぜ…」
そう言い残して、ムナクは行ってしまった。
「まったぐ、忙すいヤヅだな。アイヅも…、どうーら。ほんだばおらも水さ潜って、コウヘイ兄イ探すでもすっか…」
イサクは腰まで入っていた体を、頭から勢いよく水中に飛び込むと、湖の底深くまで潜って行った。
『コウヘイさま。何か得体の知れないものが、こちらに向かって近づいてきますが、いかが致したらよろしいでしょう…』
湖水の中で何者かが接近してくるのを、察知したレムは耕平に報告した。
『ん…、ここを知っているのは、ムナクとイサクとコウスケくらいだから、そのうちの誰かがオレを探しに来たんだろう…』
『でも、コウヘイさま。人間は水中では、そんなに長くは呼吸が続かないのでしょう…。もし、よろしかったら、わたくしが手助けいたしましょうか…』
『そうか、そうしてもらえると助かるが…』
『わかりました。これからわたくしが、お向かいに行ってまいりましょう』
レムはひらりと身をかわすと、湖水面を目指して昇って行った。
一方、山育ちのイサクは肺活量には自信があったが、水の中となると話は別門題らしかった。息が苦しくなったイサクは、一旦上に戻ろうとしたが水に入る経験の浅い、イサクは感覚を間違えていた。徐々に息が苦しくなってきたイサクは、ゴボッという音とともに空気を吐き出していた。
『あ…、あぶない。ちょっとの間、待っててくださいね。すぐ行きますから…』
溺れかけているイサクを見つけたレムは、両手と尾びれを巧みに使うと、全速力でイサクに近寄って行くと、イサクの首を両手で掴まえると、自分の口をイサクに押し当て空気を送った。
『もう大丈夫ですよ。イサクさま…』
『むむむ…、おめは誰だ…。なして、おらの名前ば知ってんだ…』
『わたくしの名は人魚のレム。コウヘイさまの言いつけにより、貴方さまを探しにまいりました。さあ、先に上に戻ってお待ちください。間もなく、コウヘイさまも戻られますから…』
『むむむ…、何ぬ。コウヘイ兄イはやっぱす、湖の中さ隠れでいだのが…』
イサクはレムに誘導されて、湖水の水面に浮かび上がってきた。
「ぶわぁ…、やっぱす陸はぜえなぁ…。んだども、さっきはおらも死ぬがど思ったども、おめえのお陰で命拾いばしただ…。おめえは人魚だがらいいども、おらは人間だがら陸の上でねえど、生きでいられねえんだ。ありがどな…」
そういうと、イサクは一緒に陸に上がっていた、レムを思いっ切り抱きしめていた。
「だども、おめえは人魚なのぬ、ずいぶんでっかい乳ばしてんだな…。おらの胸さ当たって、ギュウッて音ばしてだぞ」
『まあ…、恥ずかしいですわ。それにイサクさまがあまりにも、力いっぱい抱き締めるんですもの、わたくし困ってしまいましたわ…』
「ソイヅは悪かったな…。だども、おめえの乳がデガ過ぎで、おらも困ってだんだぞ…」
『まあ…、イサクさままでが、コウヘイさまと同じになられて…。
仕方がありませんわね。また、わたくしの責任で元に戻して、差し上げなければなりませんわね…』
「何ぬ、元ぬ戻すってどだごどすんだ…。レム」
『わたくしたち人魚には、人間のものを受け入れるところがありません。ですので、もう一度水の中に入ってください。陸の上では、わたくしが自由に動くことができません。
ですから、イサクさまをわたくしが、責任を持って元に戻すためにも、また水の中に入ってもらわねばなりません』
「ほだごどは、いいんだども…。ほだごどよりもコウヘイ兄イは、まだ上がってこねえんだども、ホントぬ大丈夫なんだべが…」
『それなら、心配はいりませんわ。コウヘイさまには、妹のオームが着いています。間もなく、浮上してくる頃かと思われますわ…』
イサクとレムが、そんなことで言い合いをしているところに、耕平とオームが湖水の水面に浮かび上がってきた。
「ぷはぁ…、やっと空気が吸えたぁ…。やっぱりオレは人間なんだな…。おお、イサクだったのか…。ここを知っているのは、お前とムナクとコウスケの三人だけだから、またオレを探しに来たんだろうと、思っていたところだったんだが、やはりイサクだったのか…」
「いんや、来たのはおらだげでねぇ…。ムナクも一緒に来たんだども、アイヅはコウヘイ兄イを探して、湖の向こうのほうさ行ってんだ…」
イサクは耕平とオームを見ながら、ムナクがいると思われる湖の対岸を指した。
「何だ…。ムナクも一緒だったか。向こう岸まで行ったとなると、戻るまで待つしかないな…。それから三人で帰ろうか…」
「ほだども、向かいっがわがらだど小半日はかがんだども、ほだぬ待つ気でいんのがコウヘイ兄イは…」
「それでは聞くが、イサク。お前がムナクの立場で、ひとりだけ置いて行かれたらどうする…。人間というものはな。あまり来たこともない土地に、ひとりだけぽつんと取り残されたら、誰だって寂しい思いをするだろうさ。いいか、たったひとりでだぞ。しかも、夜になると野獣が襲って来るかも知れないんだ。こんな時、イサクだったらどうする…」
「おらが…。おらだったら、まんず薪になる木ば拾い集めで、それば櫓(やぐら)みだいぬ積み重ねで、そごさ火ィば付けて燃やすんだ…。獣は火みたいぬ熱ぐて燃えでるもンには、おっかながって近くさ寄って来ねえべ….そんでも、もす襲ってきたらおらの石つぶてで、追っ払ってやっから大丈夫だべ…」
イサクは石つぶてには、相当自信を持っているようだったが、この時代の日本にはマンモスや、ナウマンゾウはいなかったにしても、イサクの石つぶてで追い払えるものは、精々日本狼か野犬の類だろうと思われた。
『コウヘイさま。ムナクさまは間もなく戻られます。向こう側の仲間に連絡を取り、すぐ戻られるように伝言を頼みましたから…』
「そうか…、それはすまんな…」
レムと耕平が、そんなやり取りをしていると湖水の一部が盛り上がり、レムよりもオームより若い一尾の人魚が姿を現した。
『おや…、リームじゃない。どうしたの…。あなたまで出てくるなんて、どうかしたのかい…』
『レムお姉さま…、オームお姉さま。大変です。長老たちの会議で旅立ちの日は、五日後に決まっていたのですが、ひとりの長老が「これ以上は、人間と関わりを持ってはならん。人間と関わりを持つと、古の昔よりろくなことにならん。これよりすぐ出立をする。皆のものをすぐに呼び集めなさい」と、みんなはあまり急な話なので、大騒ぎをしていたことろなのです。ですので、お姉さまたちもすぐに戻るようにと、お父さまの言いつけで迎えに来たの。さあ、一緒に戻りましょう。お姉さま…』
『まあ…、それは大変だったわね…。コウヘイさま、お聞きのとおりです。わたくしは、急いで戻らねばなりません。コウヘイさまとは、わずかな期間ではありましたが、とても楽しい思い出になりましたわ。これから先も、決して忘れることはないでしょう…。
それから、コウヘイさま。これだけは、どうぞご注意ください。わたくしたちが、この湖を経つ時には、この水際からできるだけ離れていてください。わたくしも場所の移動は、初めての経験でありまして、どのようなことが起こるのか、見当もつきませんのでくれぐれも、ご注意くださいますように…。それでは、オームにリームわたくしたちも参りましょうか…。それでは、コウヘイさまイサクさま、いろいろお世話になりました。みなさまも、どうぞお達者でお暮しください。それでは、これにて失礼いたします…』
「ああ…、レムさんも元気で暮らしなさい。オレが最初に出逢ったのはオームだったが、オレたちふたりの思い出作りのほうは、うまくいったのかい…。人魚の寿命は八百年から千年と聞いたが、オレは人魚と違って人間だから生きても、あと精々四十年くらいのものだろうが、オレが生きている間は絶対に忘れないからな。オームもレムさんも、もう二度と逢えないかも知れないけど、みんな元気で頑張ってくれ。オレも一生懸命生きてみるから…」
「レムもオームも、おらのごどは忘れんでねえぞ…」
耕平とイサクが、オームたちと別れを惜しんでいると、湖畔の右手からムナクがどこで逢ったのか、コウスケを伴ってやってくるのが見えた。
「やあ、お前たちも来たのか。ならば、ちょうどよかった。実はな。お前たちも知っていると思うが五日後に、この湖から移動することが決まっていたんだが、長老たちのひとりが『これからすぐにでも、出立しなければならん…』というひと言で、急きょ海のほうに移動することが決まったんだそうだ。だから、お前たちも特にコウスケには、しっかりと見送ってもらわないといかんな。うーむ…」
「え、何で…。何でおいらだけが、しっかりと見送らなきゃならないんだよ。お父…」
「コウスケ、お前だけだぞ。今回は、みんなが人魚たちのために、一生懸命力を合わせて動いていたのに、お前は自分だけ好き勝手なことばかりやって、遊んでいたのではなかったのかな…」
「違うよ。それは…、みんなが夢中になっていたから、おいらひとりぐらいいなくても、いいんじゃないかと思って、狩りに行ってただけじゃないか。それを何だい。さも、おいらだけがサボっていたみたいに、云うなんてあんまりじゃないか…」
耕平の言葉に憤慨したのか、珍しくコウスケが喚き散らした。
「まあ、そうひがむなってコウスケ。コウヘイお父は人魚たちのために、出きるだけのことをしてあげたいと、頑張っていただけなんだから、そんなに云うのはひどいと思うな。おいらは…」
ムナクの言葉に何かを感じたのか、コウスケも素直な気持ちに戻って、
「ごめん…、お父。おいらはみんなの手伝いもしないで、ひとりで狩りに行ったのは悪かったけど、おいらたちが生きていくためには、狩りだって大事な仕事なんだって、教えてくれたのはお父なんだよ…。おいらたちが生きて行くために、他の動物たちを殺したりするのは、おいらもおかしいと思うけどね…」
「えらい! えらいなァ…。やっぱす、コウヘイ兄イの息子だなぁ…。コウスケは、おらはすっかり感心すただぞ」
イサクはコウスケに感動したのか、その逞しい両腕でガッシリと、コウスケの肩を力いっぱい抱きしめた。
「痛たた…、何すんだよ。イサク、お前のバカ力でそんなに締められたら、おいらの体中の骨がバラバラになっちゃうよ。止めろったら、イサク…」
「おい、お前たちもいい加減もにしなさい。それよりも、こうしてみんなが集まったんだから、レムさんたちの旅立ちを、見送ってやろうじゃないか。そろそろお別れだろうから、みんな湖の周りからなるべく離れてくれ。
それでは、レムさんもオームもお達者で、オレたちは生あるかぎり貴女たちを、決して忘れないように生きて行きます。さようなら。そして、ありがとう…」
『わたくしも、コウヘイさまたちと出逢ってから、人間に関する考え方を改めました。わたくしたちの長老たちの云うような、わたくしたちに害を与えるような、悪しき生き物ではないことがよくわかりりました。いろいろとお世話なりましたが、わたくしたちにはお返しするものがも何もありません。ただただ、ありがとうとだけしか、云いようがありません。本当にありがとうございました。それではわたくしたちは、これにてお暇を頂きたいと思います。みなさま方も、どうぞお健やかにお暮しくださいますように、それでは参ります。みなさま、さようなら…』
『コウヘイさま。さようなら…』
「ああ、オームも元気で暮らせよ…」
「おらのごども忘れんなよ。レム…」
耕平とイサクも声をかけた。レムとオームは別れを告げると、末の妹のリームを連れて湖底深くに、その姿を消していくとその後には、大きな波紋だけが広がって行った。やがて、その波紋も収まると湖面には、元のような深閑とした静寂が戻ってきた。
「さて、これからがいよいよ本番だな…。オレたちは水際から退避して、もっと後ろのほうに後退して、彼女たちを見送ろうじゃないか…」
「だけど、海に移動するって聞いたけど、どうやるんだろうね。お父…」
水際から遠のきながらコウスケが訊いた。
「さあな…。オレもそこまでは聞いてなかったが、まさか湖ごと移動するわけでもないだろうがな…」
そんなこと話しながら湖を見ていると、突然ムナクが大きな声で叫んだ。
「あ…、あれを見てください。コウヘイお父、湖が…、湖面が盛り上がっていきます…」
ムナクが言う通りだった。見ると、湖の中央付近が徐々に膨らみを見せて行き、小山ほどの大きさにまで膨れ上がり、一旦湖水の膨張は止まったかのように見えた。が、次の瞬間には半球形の湖水の山は、プルンプルンという揺れを見せ、湖自体からスッポリと抜け出て、完全な球形の水の玉となって浮かび上がった。それは実に壮大な景観であった。
二十一世紀で育った耕平でさえも、ひとつの湖がそっくりそのまま、大きな水球となって空中に浮かぶこと自体が、前代未聞の出来事であることだけは確かだった。
空中に舞い上がった巨大な水球は、ゆっくりゆっくり空へ昇って行った。水球の壁のからレムが顔と手を出した。続いオームも顔を出してきた。
『コウヘイさま。さようなら…』
『わたしのことも、忘れないでね…』
「ああ、忘れないとも、絶対にな…。お前たちも元気でなぁ…」
「達者でなぁ…」
「おいらたちのことも、忘れないでくれよぉ…」
耕平たちが声をかけ合っているうちに、巨大な水球はどんどん遠ざかって行き、最後には米粒ほどの大きさになって、ついには耕平たちの視界からも消えて行った。
「ついに見えなくなってしまいましたね。コウヘイお父…、おいらも長いこと西から東まで、あちこちと旅を続けてきましたが、今回のような人魚と出逢ったのは初めてですね…」
「それはそうだろう…。オレのいた世界でだって、人魚などと云うものは伝説とか、童話に出てくるものだと思っていたから、まさか縄文時代にきて本物の人魚に、出逢うとは考えてもいなかったから、最初は少し戸惑いもしたんだが、これぞまさしく〝現実は小説よりも奇なり〟だよな…。うーむ…」
ほんのわずかな期間ではあったが、耕平はオームとの出逢いの時から、今日という別れの日までのオームとの、思い出作りは耕平もオーム同様、誰に告げることはなくても、一生大事に仕舞っておこう決めていた。
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