七之章

   1

 耕平の住む縄文の里にも、また今年も厳しい冬の季節がやって来た。

 歴史の時代区分によると、縄文時代は約一万四千年ほど続いたが、その前の旧石器時代はまだ、氷河期の真っただ中で海水面も現在より、百メートルくらい低かったと言われている。それが地球の温暖化に伴い、徐々に穏やかな気候になり、ここからごくゆっくりとした歩調で、縄文文化の花が開いてゆくわけなのだが、縄文時代の草創期に入ると平均気温が、現在よりも2℃ほど高かくなったらしい。が、次第に寒冷化が進み段々と、現在の気温に近づいて行ったと言われている。

 また、有名な青森県の巨大縄文遺跡三内丸山遺跡は、すでに江戸時代からその存在を知られており、多数の土偶や瓦・かめなどの破片が、出土したことが記録されている。

 また、新たに県営球場建設のために、一九九二年に事前調査が行われた。その結果、この遺跡が大規模な集落跡であることが判明した。本格的な調整は一九九余念から始まり、直径一メートルの栗の柱が六本見つかり、これは大型建造物の跡だとも考えられ、これを受けた青森県はすでに着工していた、野球場の建設を中止して保存を決定した。なお、この発掘調査に当った担当係の報告書によれば、その遺跡の中からは争いや戦いの痕跡(人を殺す武器)類は、一切見られなかったということであった。

 つまり、狩猟や採取(クリ、ドングリ、トチなどの木の実)という、自分たちの手で調達できるものによって、生活を営んでいて足りない者には、平等に分け与えていたから争いなど、怒ることもなかったのだろう。

 しかし、例え縄文人がいくら温厚な人間だったとしても、まったく争いやもめ事がなかったとは、どう考えてもあり得ないことではないか。

なぜ縄文人が、戦争や殺し合いをしなかったかと言えば、それは縄文人の平均寿命と関係が、あったのではないかと考えられるのだ。縄文人の平均寿命については、本文中でも何度か書いてきたが、三十代後半から四十にかけての、極めて短い期間であったことと、子供が生まれてもすぐに死んでしまうことが多く、種を守ろうとする本能が働いて、小さなことで争いを起こそうとすることなど、縄文人たちにはそんな余裕もなかったのだろう。

 それはさておき、縄文の里にも雪の降り出す季節が、すぐそこまで近づいていた頃だった。そんなある日、ひとりの邑人が酒に酔って、もうひとりの邑人に絡むという事件が起きた。それだけなら、どうということもなかったのだが、絡まれたほうの邑人は至って大人しい男で、他人と争うことが嫌いな邑人は、絡んできた邑人を軽く突き放した。

 絡んできた男は酔いのせいもあって、ふらふらっと二三歩後退した。その拍子に男のかかとが石につまづき、仰向けにばたりと倒れ込んでしまった。ところが運の悪い時は悪いもので、絡んできた男の後頭部辺りには、大きな石がありガツンという鈍い音がした。

 絡まれた男は慌てて抱き起こしたが、倒れた男はすでに息はしていなかった。

「ガ、ガンダが死んでしまったぁ…。どうするべぇ…。おらが殺したんじゃねえぞ。ほんにどうするべぇ…。こまったな…。そうだ。コウヘイ邑長さ相談すてみっべが、何すろ困った時の邑長頼みって云うがらな…」

 そういうと、邑人はいま息を引き取ったばかりの、ガンダと男を背負うと耕平の家に向かった。

 耕平が出ようとしているところに、ガンダを背負った邑人がやってきた。

「何だ。クナキじゃないか、どうしたんだ…。そんなに慌てて…、それにお前が背負っているのは、呑んだくれのガンダじゃないのか…。また飲み過ぎて、そこいら辺で寝てたんじゃないのか…」

「そうじゃねえんで…。邑長、おらが歩いているとガンダがやってきて、いづものように絡んでくるんで、おらは人ど争うのは好まねえがら、こいづば軽く突き放して逃げようとしたら、こいづは酔っぱらってだがら、ふらふらっと後ろさ下がったら、そこさあった石に躓いて後ろさひっくり返っただが、ちょっうどガンダが倒れだ頭のどごさ、石があって『ガツン』という音がしたんで、おらはビックリすて急いで抱き起したんだども、そん時にはガンダはもう息ばしてながっただ。おらはどうするべぇと思ったんだども、とぬかぐコウヘイ邑長さ相談してみっぺど思って、ガンダのヤツを負ぶって連れできたども、どうすたらいいべが…、邑長…」

 クナキは、ことの一分始終をできるだけ詳しく、耕平に話してどうしたらいいのか、邑長としての耕平の判断を待った。

「うーむ…。これは、この里では一度もなかったことだな…。まして、今回のことはお前が直接手を下したわけでもなく、あくまでも不可抗力なのだが、邑始まって以来の出来事らしいし、この件に関してはオレひとりの判断では、どうするここともできない。邑の長老会に図って、みんなの意見を聞いてみないことには、いかんともし難いな…。

 とにかく、いつまでも死んだものを背負ってないで、向こうの山小屋にでも横にしてやりなさい。オレは長老会を開く準備をするから…」

 耕平はクナキを残して、長老たちの家を一軒一軒廻り、事情を説明してあるいた。

 長老会は即日開かれることになり、会場は耕平の家が充てられることになった。長老会といっても、わずか六人の老人で構成される、極めて小さな集まりで長老とは言えど、みんな耕平よりも歳が若いのだから、この時代の平均寿命がいかに短かったのが、自ずと知れるというものなのだろう。

 その長老会で一番取り沙汰されたのは、「病や獣に襲われて死んだのなら、いざ知らず自分で手を下さないにしても、人がひとり死んだということは、クナキには罪が認められないにしても、この邑としては由々しき問題…」と、いうのが長老会の見解であった。

 会議は夜遅くまで続けられ、ガンダは日頃から酒癖が悪く、迷惑を被っているのは邑人の、五人や六人ではきかなかった。

 そこで長老会が下した結論は、酒癖が悪いとは言ってもガンダも邑の住人、かといって直接手は出さないまでも、人がひとり死んだ以上はクナキを、このままにしておくわけにもいかないということで、長老会が出した結論は『クナキを邑から、追放するべきだ…』と、いうものであった。

 こんなことを書くのは警察機関がなかった、この時代にもなにがしかの形で、これらのことを取りさばく役職が、あったのではないだろうかと思ったからである。

 長老会で決議されたことは邑長である、耕平がクナキに告げなければならなかった。

 耕平は自分が初めて、この時代にやって来た時のことを、ふっと思い出していた。左も右もわからない、自分を温かく迎えてくれたのも、この邑の住人たちだったのだ。

耕平は長老会が終わった後、その足で真っ直ぐクナキのところへ向かっていた。

「おい、クナキ。いるか…、オレだ。耕平だ…」

 耕平が声をかけると、あまり元気そうでないクナキが出てきた。

「これは邑長…、長老会のほうはどうなりましだ…」

「うむ…。オレもお前から聞いて、知り得る限りの詳しい説明をしたんだが、長老会では『今回のような由々しき出来事は、本来あってはならないことなのだ。その証しに、この邑にはこれまでに、このようなことは一度も起こらなかった。よって、神に許しを乞うためにもクナキを、この邑より追放処分にすることにした。但し、移動するにしても準備が必要であろう。ここにひと月間の猶予を与えるので、それが終わり次第速やかに立ち去るように…』と、いうのが長老会の出した見解なんだよ。

 オレが『何も追放まではしなくても…』って云ったんだが、長老会の出した決議には邑長であっても、取り消すことができないという、昔からの習わしがあるんだそうだ。

 そんなわけで、どうしてもお前のことを、引き留めてやることができなかった。本当に済まない。この通りだ…」

 耕平はクナキに対し、深々と頭を下げて謝罪した。

「とんでもねえ…、止めてくだせえよ。邑長、別に邑長が悪いわけでも、なんでもねえんだがら、ほだぬ謝ってもらっても、おらのほうが困るだ…。それぬ長老会の決めだごどは、どだなごどがあっても従わくちゃなんねえ。っ、つう掟があるんだ。それぬ三年もすれば、まだ戻ってこれっぺがら、ほだぬ心配はいらねえ…」

「ほう…、それはオレも初耳だな…。何だね。その三年もすると、戻れるというのは…」

「あんれ、邑長は知らながったのがね…。長老会で取り決めたことは、長老会の長老がひとりでも死ねば、それまでの取り決めは効力をなくし、次の長老会が決めるまでお構いなしなんだ。長老会の長老なんてのは三年もすれば、必ずひとりやふたりは死ぬもんだで、下手をすりゃ一年ぐれえで、帰って来れるがも知んねえな…」

「うむ。確かに、この時代の人間は平均寿命が短いし、長老と云ったとこころでみんな、オレよりも若い連中ばかりだしな。縄文時代というところが、こんなにもやりずらいところだったとは、オレもまったく気が付かなかったよな。それにオレも若かったし、周りにはウイラやカイラもいたし、行方知れずになったオレを探しに、山本も遠路はるばるやって来たっけ…」

 長老会の話から始まって、最後は耕平の回想に変わっていた。

「それから、ひと月間猶予がもらえたのは大きいぞ。クナキ、ひと月あればじっくり考えられるし、そうすれば最善の方法が見つかるかも知れん…。

 ところで話は変わるが、お前は山登りが得意なほうかな…。山と云っても、そんじょそこいらの山とは違うぞ。断崖絶壁と云ってもいいくらいの、とてつもなく険しい岩山だ…。普通の人なら十人中ハ人が、尻込みをしてしまうというほどの、極めて厳しい条件付きの山なんだが、どうだ。クナキ、お前にその山を登る元気はあるかね…」

 その時、耕平の話を聞いていた、クナキの瞳がキラリと光った。

「邑長は知んねえがもしらんが、おらはコゲンほどではないぬしても、山で産まれで山で育った男だで、こごらの山はおらぬとっては、屁でもねえただの山だべな…」

「そうか…、お前もコゲンのように、絶壁や山の上での動きが達者なのか。それなら、ちょうどいい場所があるぞ。オレの兄弟分で、イサクという男がいるんだが、そいつが前に住んでた岩山が、割りと近くにあるんだよ。

 お前さえよければ、邑を離れずにしばらくそこに、潜んでいたらどうだろうか。何かあったら、コゲンに連絡を取らせるから、そうしなさい。これから、本格的な冬が来るというのに、邑を出て行くのは大変だぞ…」

「ありがとうごぜえますだ。邑長、おらのためぬ。そごまで気ィば使ってもらって、ほんにありがとうごぜえますだ…」

「礼などはどうでもいい…。それより、ひと月も期間があるんだ。その間に、できるだけ食料を集めておけ。足りない分はコゲンにでも頼んで、後で運ばせてやるからな…」

 その後、細々としたことを話して、耕平はクナキの家から帰って行った。

 それから、瞬くうちに二週間ほどが過ぎ去り、山に移り住む準備が整ったのか、ある日クナキが耕平のところに訪ねてきた。

「邑長ぬはいろいろ心配ばかげで、大変申すわげながったんだども、おらもようやっと用意が出ぎだんで、明日山のほうさ行ぐごどぬすたんで、邑長ぬも別れの挨拶すなければと、思ったんでやってきただよ。何から何までお世話ぬなりまして、ほんにありがとうごぜえますた…」

 クナキは深々と耕平に頭を下げて礼を述べた。

「そうか…、ずいぶん早かったな。これからは雪の降る季節だ。風邪なんか引かないように、充分気をつけて暮らしてくれよ…」

「なぬ、その心配ならいらねだよ。邑長、岩穴の中は普通の家よりも、かえって温かいくれえなのぬ、邑長は知らながったのがね…」

「いや、オレは洞窟には一度も住んだことないからな。そうか…、そんなに温かいか…」

「そりゃ、おめえ。ただの家に比べっと、隙間風は入って来ねえす、夜もぐっすり眠れっす、ほんぬ天国みでえみなとごだぁ…」

「そうか、そんなに寝心地がいいのか…。それじゃ、オレも一片泊りに来てみるかな」

「ほうだども、そうすっと邑長も岩穴の良さがわがっから、一遍来てみてけろ…。そんじゃ、おらは行ってみるだで、邑長も達者で暮らすてけろや…」

「ああ、お前も元気でやれよ。オレも機会を見て行ってみるからな」

 こうして、クナキは帰って行った。二十一世紀と違って、エアコンや暖房機もなかった縄文人は、真冬の厳しい寒さなど、気にも止めなかったのだろうが、耕平自身もこの時代に来た当初は、暖房といえば火を焚くくらいしかなく、よく震え上がっていたものだったが、慣れというは恐ろしいものだと思った。いまでは動物の毛皮で作った、着衣と靴のようなものを身に着け、真冬であろうが生きるためには、落とし穴を仕掛けたり狩猟を続けないと、暮らしそのものが成り立たないという、二十一世紀では考えも及ばない、過酷なほどに厳しい時代だったのである。

 それから四・五日が過ぎて、割りとカラッとしていて天気も、そう崩れなさそうな一日があった。耕平は今日を逃したら、こんな日は滅多にないぞ。と、ばかりにコゲンを道案内に頼んで、干し肉や魚を焼いて干したものを、手土産にしてクナキの住む岩山を訪ねて行った。

「相変わらず険しい断崖だな。この山は…」

 これから登ろうとしている、山を見上げて耕平は思わずつぶやいた。

「こだのは、まだまだいいほうだべ。おらの知ってる山ぬは、反対ぬ外側さ反り返ってる、山もあるだでよ。こごらの山はまだ楽なほうだべ」

「へえ…、そんな山もあるのか…。そんな山だったら、オレなんかには絶対に無理だな。さて、そろそそろ登ろうか…」

「そすたら、おらが先さ登って行って、足場のしっかりすたとご探すがら、邑長は後がらゆっくり来てけろ」

 そう言い残して、コゲンはまるで猿が木を登るように、スルスルっと岩山を登って行った。コゲンのようなわけにはいかないが、耕平もひとりゆっくりと登り始めた。

「なるほど…、人間は人それぞれ持って生まれた、才分というものがあるらしいな。ドッコイショっと…」

 耕平が昇り始めて二・三分経った頃、先に登って行ったコゲンが戻ってきた。

「邑長、もう少し昇っと前ン時みでえな。割りとなだらかな岩場があんだども、ほだぬ長くはねえんで、まだ岩をよじ登ってもらうんだども、邑長は大丈夫だべが…」

「何を云う。コゲン、オレは邑の長老たちよりも歳は上だが、彼らには絶対に負けない自信があるんだ。コゲンには勝てないかも知れんが、体力はまだまだ衰えてはいないぞ。まあ、見てるんだな…」

「ほだな…。確かぬ邑長は、長老だちなんかよりもよっぽど若ぐ見えんな。ほんぬ邑長は長老だちみでえぬ腰も曲がってねえす、見た目も格好がぜえすな…」

「おい、おい。コゲン、そんなにおだてるなよ。背中の辺りがムズムズするじゃないか…」

「おらは別ぬ、おだててなんかいねぞ。そう思ったがら云っただげだ…」

 そんなことを話しながらも、耕平とコゲンは絶壁の岩山を登り始めた。耕平は二度目であったが、こんな急勾配で絶壁ともいえる、岩山を登るのはあまり得意ではなかった。だが、耕平が西の邑の邑長である以上、そんなことばかりは言っていられなかった。

 コゲンに先導されながら、かつてイサクが住んでいた、横穴が並んだ場所まで辿り着いた。

「ふう…、やっと着いたか。しかし、何回来てもひどい絶壁だな。ここは…。どれ、クナキは元気でやってるかな…」

 洞窟が立ち並ぶ平たい岩の上に立つと、耕平はクナキの住んでいる穴を探し回った。

「あ…、こっちだでよ。邑長、ほんら煙が見えるべ…」

 コゲンの言う通り、一番端の穴から煙が出ているのが見えた。

「おい、クナキ。元気でいるか、陣中見舞いに来てやったぞ。これは土産だ…」

 耕平が声をかけると、火を熾(おこ)していたクナキが、手を休めて耕平のほうを向いた。

「これは邑長、わざわざ来てくれたのがね…。それはどうも、ありがたいことですだ…」

「オレたちのことはいいから、早く火を熾してしまえよ。せっかく煙が出始めていたんじゃなかったか…。また最初からやるんじゃ、大変だぞ…」

 耕平に言われて気を取り直したように、クナキは再び火熾しを開始した。

「よし、火が熾きたら土産に持ってきた、干し肉と魚でオレたちも食事をしようか…」

 火を熾し始めたクナキは、ものの五分も経たないうちに、枯葉や松ぼっくりを燃やしてから、本格的に焚き木などを加えると、炎は勢いよく燃え上がって行った。

「どうだ…。クナキ、ここでの住み心地は、そんなに住みにくいは思えないが、何しろイサクが長年住み付いていた所だからな…」

「へへへへ…、そりゃァ、もう最高でさァ。なぬすろ、岩山の穴ボゴだがら平地の家ど違って、隙間風ひとつ入ってこねえす。ほんぬ、大助かりだべ…。これもみんな邑長が頭ば使って、おらが追放されても、あんまり遠く行かなくてもいいようぬ、イサクが住んでいた、この岩穴を教えてもらったべ。ほんぬ、ありがたいこどだべ…」

「そうか…、そいつはよかったな。とにかく、元気そうで何よりだった。お前はまだ若いんだし、少しの間辛抱してくれ。そのうちいいこともあるさ。きっとな…。

 それより、土産代わりに干した魚と、イノシシの肉を持って来たんだ。これで一緒に食事にでもしようか…」

「そいつはありがてぇ…。邑長、ほんにありがとうごぜえますだ。ほんではさっそく用意ばすっぺが…、ちょっくら待ってでけろ。すぐにできっから…、そこいら辺りさ腰でも下すて、いま少ス待ってでけろや。すぐぬ喰えるようぬなっから…」

 クナキは耕平から受け取った、干し肉と魚を木の枝に刺して焼き始めた。その魚と肉を焼く匂いが、辺りに一面に立ち込めていて、身軽な身のこなしで断崖を、登ってきたコゲンなどは、相当腹を空かしているらしく、腹の虫をグウグウと鳴らしていた。

「何だ…。おえ、ずいぶ腹ば減らしているみでえだども、そろそろ食える頃だがら、まずはお前えさ食わせっから、お前えが先ぬ食ってみろや…」

 クナキが手渡した干し肉を指した、木の枝を受け取るとコゲンは、「アヂ、アヂヂチ」と喚きながらも、耕平とクナキの見ている前で、瞬くうちに焼き干し肉を平らげてしまった。

「どれ、オレもひとつご馳走になろうか…」

 と、言って耕平は干し魚を挿した、枝を手にと取ると口へと運んで行った。

「うむ…。イノシシもうまいが、オレはどちらかと云ったら、このニジマスのほうがいいな。何か、こう食っていてもサッバリしていて,オレにはこっちのほうがあってるな…」

「ほうだがね。おらはやっぱス、脂がゴッテリ乗ったイノシシが、うめえな…」

 大の大人が三人して、空腹の状態で食べているのだから、耕平が持ってきた干し肉や干し魚などは、あっという間に底を突いてしまった。

「ああー、喰った、喰った…。腹がいっべえぬなったぁ。ふうー…、もうダメだぁ…。おらぁ、もう喰えねえだ…」

「それは、そうだろうな。コゲンと手分けして持ってきた、肉と魚を三人で食い尽くしただからな。腹も膨れるだろうよ」

 ポッコリと膨れた腹を、撫でまわしながら横たわっている、クナキを見ながら耕平は言った。

「おらも、もうダメだぁ…。クナキにつられて食ったのはいいだども、ちいとばっかり食い過ぎただ。邑長、下に降りるのは少し待ってもらえねべが…。このままでは、おらのほうが転がり落ちっちまうだで、頼んますわ…」

「うむ…、クナキも、この調子だしな…。仕方があるまい、少し休んでから、降りることにしよう。いざとなれば、洞穴もあることだし、そう無理して降りることもなかろう…」

 そうしているうちに、いつの間に曇ったのか、空から白いものが落ちてきた。この冬初めての初雪であった。

「雪だ…。まずいな。このまま降り積もったら、ますます帰れなくなってしまう、お前さんたちには悪いが、オレはひと足先に帰らせてもらうぞ。お前たちはゆっくり降りて来ればいいさ。じゃァ、オレは行くぞ…」

「大丈夫だが、邑長。雪が降って来たっつうのぬ、心配しんぺえだな…」

 ふたりは心配そうに言いながら、互いに顔を見合わせた。

「心配はいらん。登りの時よりも降りるほうが楽だし、それに雪だって断崖では、平地のようには積もらないだろう。それじゃァな…」

 耕平はクナキとコゲンが、心配そうに見送る中ひとりで、初雪の降り出した断崖を降りて行った。


     2

 耕平とコゲンが、クナキの住み着いた岩山から邑に戻り、早くも四ヶ月が過ぎ去り縄文の里にも、厳しかった北国の冬も終わりを告げ、野や山に花の咲き乱れる季節が巡ってきた。

 この時期になると耕平は、決まって邑人たちを誘って花見をやるのが、邑長になって以来の長年の恒例になっていた。

『そう云えば、あの時も今頃の季節だったな…』

 耕平は想い出していた。もう二十年も前になるだろうか。あの時もちょうど今日みたいに、からっと晴れ渡った日曜の昼近くだった。耕平はせっかくの日曜なのに、部屋に籠っているのはもったいないとの思い、近くにある公園にやってきたのだった。

 そこへ山本徹が来て、「これから家族と花見をやるんだが、よかったらお前も交ざらないか…」と誘われたが、「これから、ちょっと行くところがあるんだ」と、断ったのだった。

 実際には、耕平に行く当てなどなかったのだが、山本とは子供の頃からの付き合いで、お互いに何でも言い合える親友だったが、他人さまの家族の花見に加わって、飲んだり騒いだりするのが、性に合わなかったからに過ぎなかった。それから、耕平は子供の頃にみんなで遊んだ、ブランコが目に留まり懐かしさで、ちょっと乗ってみようと思った。二・三回漕いでいるうちに傍の草むらの中で、何やらキラリと光るものが目ついた。なんだろう。と、思った耕平は草をかきわけて見ると、太陽の光を受けて銀色に光る腕時計だった。

 誰か落とした人はいないかと、耕平は辺りを見回してみたが、それらしい人影はどこにも見当たらなかった。仕方がないので、警察には明日にで届けようと、拾った腕時計をズボンのポケットに仕舞った。

本屋でも覘いてみようと思い立ち、公園の裏口から出ようとした時、横のほうから自転車に乗った、小学生くらいの子供が走ってきた。双方ともあまりに突然だったので、避け切れずに少年の乗った自転車は、耕平の太股辺りにぶつかって、少年はもんどりうって倒れ込んだ。

少年は急いで起き上がると、倒れた自転車を立て直してから、耕平にペコリと頭を下げて走り去って行った。耕平は倒れこそしなかったものの、自転車のタイヤが当たった太股が、ズキンズキンと痙攣を起こしていた。そこで耕平はハッとした、自転車がぶつかったショックで、今拾ってポケットに入れた腕時計が、壊れてはいないかと心配になった。取り出してみると腕時計は無事だったが、何やら低い音を立て始めていた。耕平は周りの景色が、一瞬揺らぐのを感じたがすぐ収まったので、目眩でもしたのだろうと考えながら、行きつけの本屋に向かって歩いて行った。

ところが、店に行くと店そのものは変わりはなかったが、いつも店番をしている七十くらいの親爺が、五十代くらいの男に代わっていた。耕平は『顔も似ているし、親爺さん用事でもできて、親戚の人でも頼んだのかな…』とも考えてはみたが、どうしても耕平自分の中にある、違和感をな打ち消すことができなかった。耕平は親爺の座っている、机の上に置いてある日捲りカレンダーを、見るとはなしに見て驚愕してしまった。何とカレンダーに記されていたのは、一九九〇年四月八日の日付けだったのだ。

一九九〇年と言えば、今から二十七前で耕平が生まれた年であった。二十七年も過去の世界に来るなどとは、普通ではタイムマシンでもない限り、絶対に不可能なことでもあった。

『そうか…。この腕時計が、タ・イ・ム・マ・シ・ンだったのか…』

 しばらく耕平は回想に耽っていたが、回想もそこまで耕平はふっと我に返った。

『あれから、いろんなことがあったな…。元々オレは、平凡な生活を送っていたんだが、あのタイムマシンを拾ったばかりに、今じゃこうして縄文時代で生きてんだから、人間の運命なんて一寸先は闇っていうけど、まったくその通りだったよな…。

 お陰でオレは原日本人の、祖先のひとりになってしまったんだからな…。あの時、あの腕時計さえ拾わなければ…。いやいや、そうとも云えないか…。あの日の午前中に、オレが公園になんか行かなかったら、こんなことにはならなかったはずだ…』

 と、そこまで考えが及んだ時、耕平は大きくひとつため息を吐いた。

『しかし、あの後一九九〇年に行こうとした時、タイムマシンの操作ミスから一年早い、八九年に行ってしまった時に、吉備野博士が夜オレが寝ている時、突然訪ねてきたことがあったっけ。その時に博士は云われた。「初めてお目に掛かります。私は吉備野と申しまして、あなたが拾われたタイムマシンの開発者です」と、云われてもオレは別に驚きもしなかった。

 なぜ驚かなかったのか。それは簡単なことで現に自分がこうして、自分が生まれる以前の過去に来ているのだから、これ以上驚くことなど何もなかったからだ…』

 だが、耕平はそれにもまして、あの時吉備野が言った言葉を、今になってまざまざと思い出していた。

『そう云えば…、博士は確か、こんなことも云っていたな…。「あなたは偶然に、そのRTTS(タイムマシン)を拾われたと、思われているかも知れませんが、前もって私にはあなたがあの日、公園に行かれることが分かっておりました。それ以前に、私はあなたの置かれている、不思議とも思える運命に、並々ならぬものを感じ取りました。

 あ…。いや、これはあなたの云われるような、あなたをモルモットとか実験台に、使おうとかという考えは毛頭ありませんので、悪しからず…」と、云うことは、博士は初めからオレがこうなることを、知っていたことになるじゃないか…』

 そこまで考え及んだ時、どうしようもない苛立ちを感じていた。それでも耕平は、七百年後の世界からやってきた科学者、吉備野のことを恨む気にはなれなかった。むしろ、普通に生活を送っている現代人には、経験したくても到底できないことを、耕平は実体験として実践してきたのだから、感謝することはあっても恨むことなど、耕平には考えも及ばないことであった。

「ええい…、やめた、やめた。こんなこといくら考えたって、どうなるものでもあるまい。どーれ、ひさびさにイサクでも誘って、狩りにでも行ってみるか…」

 思い立ったが吉日とばかり、耕平はさっそくイサクを誘い出すと、冬の間家の中に籠もっていて、鈍った身体を鍛え直す意味合いも含めて、耕平とイサクは春のポカポカ陽気の中を、冬の間はあまり遠出もできなかった分、今日はふたりとも普段来ないような、かなり遠いところまでやって来ていた。

「きょうは天気もいいス、ポッカポッカしてて気持ちいいス、ずいぶ遠くまで来ちまったなあぁ…。コウヘイ兄イ」

「うむ、この辺までは普段は滅多に来ないからな。その分できるだけ早く、猟を済ませて帰らないと、夜までに邑に帰れなくなるぞ。イサク…」

「大丈夫だってば、コウヘイ兄イ。おらと兄イがいれば、獲物を狩るぐれえほだぬ、掛かんねえから心配しんぺえすっこどねえべ」

 イサクは日頃から、耕平の弓の腕前は邑で名人と言われている、少数の人たちに比べても引けは取らない、腕の持ち主であることを知っていた。それにも増して凄いのは、怪力のイサクが投げる石つぶてであった。このふたりが組めば、大概の獲物はまず百パーセント、取り逃がすことはないと言われていた。

「こごいらぬは、どだな獲物がいっかわかんねえだども、おらと兄イがいれば大概(てえげえ)の獲物は、絶対ぬ逃がすたりしねえがら、まんずそだな心配はすっこどねえべ…」

 イサクは、耕平のことを絶対的に信頼していたし、自分の投げる石つぶてにも、相当の自信を持っていたからこそ、ここまで言わしめたのだろう。

「しー…、静かにしろ。イサク、あそこの木が生えている岩影辺りで、何か動くようなものが見えたんだ。獲物が潜んでいるのかも知れん。いいか、そっと近づくんだ…。足音を立てるなよ…。何がいるかも知れんからな…」

「ホントが…、兄イ。なんだべな…」

 ふたりは耕平が見たという、木立が立ち並ぶところにある、大きな岩を目指してそれこそ、抜き足差し足で近づいて行った。岩を遠巻きにして、ふたりは岩の裏側に回り込むと、一体何がいるのかと覗きこんだ。

しかし、覗き込んだふたりが見たものは、獲物である鳥や動物ではなく、れっきとした人間だった。しかも、まだうら若い女の娘だったのだ。年の頃は十六・七歳と、言ったところだろうか。

「娘さん。こんなところに、たったひとりでいては、危険ではないのかね…」

 耕平は娘が驚かないように、遠くのほうから声をかけながら、ゆっくりとした歩調で近づいて行った。

「あ…、オレは東の邑の耕平という者で、決して怪しい者ではない…。それから、これはオレの弟分でイサクという男だ。見掛けはごっつくて、怖そうに見えるかも知れないが、根はいいヤツだから、よろしく頼むよ…」

 紹介されたイサクは、何にも言わずにペコリと頭を下げた。

「まあ…、東の邑のコウヘイさまと云えば、何でもよく知っていらっしゃる、神さまみたいな邑長だって、うちのお父が云ってたのを、アタシ何回も聞いているわ…。そのコウヘイ邑長さまが、何でこんな辺鄙なところに、いらっしゃったんですか。

 東の邑からだと、ここまで来るにしても、ずいぶん時間がかかったでしょうに…」

「ああ…、そのことかね。オレたちは…、みんなもきっとそうだと思うんだが、冬の間はあまり遠出をせずに、夏秋の間に狩り溜めていた、獲物の干し肉や魚の干物類、または栗ドングリトチの実といった、木の実を採取したもので細々と、春が来て自由に動き回れる日まで、これらの食糧のみで、冬の期間を過ごさなければいかん。

 だから、今日のように暖かくなると、オレたちのように長い期間、狩りで生活を立ててきた者には血が騒ぐというか、居ても立ってもいられないというのが、正直なところだろうな…。

 ところで、あんたの名前をまだ聞いてなかったが、もし差支えがなかったら、オレたちにも教えもらえまいか…」

「あら、そうだったかしら…。これは失礼をいたしました。あたしは、この先の部落に住んでいる、タリアといいます。どうぞ、よろしくお願いします。コウヘイ邑長さま」

 そういうと、タリアと名乗った娘は、ふたりに対しペコリと頭を下げた。

「ほう…、こんなところにも部落があったのか…。全然知らなかったな」

「いえ、部落と云ってもコウヘイさまの、東の邑のように大きなものではありません。あたしたちの先祖は、元々は狩猟民族だったそうで、それがいつしかひとり集まり、ふたり集まりしていつの間にか、その部落に住み着くようになったそうです。

 狩猟民族とは、定住の地を持たずに全国を渡り歩き、狩猟を生業とした民族のことです」

「いや、タリアさん。せっかくだが、狩猟民族に関する説明なら、もうそれ以上しなくていい。実はな。オレの邑にも、狩猟民族の末裔という男がいてな。ある時、ブラっと村を訪ねてきて、オレのところに寄ったんで、いろいろ話を聞いてみたんだ。何でも、西のほうからやって来たと云うから、『そんなに、全国アチコチ渡り歩いて、疲れたりはしないのか…』と聞いたら、『物心ついた頃から、こんな暮らしをしてますから、別段何でもありません』と云っていたが、人間にとって慣れというものは、すごいものなんだなと思ったね」

 耕平とタリアの話を聞いていたイサクが、少し苛立ったような表情で言った。

「コウヘイ兄イ。話ばすんのもいいだども、早ぐ獲物ば狩って帰らねえど、夜までぬは邑さ帰らんにぐなっちまうぞ。なぬすろ、こごは今まで来たごどもねえぐれえぬ、遠いとごろだで早ぐしねえど、夜ぬなっちまうがら早く邑さ帰っぺよ。兄イ…」

 イサクは、よほど夜の闇が苦手と見えて、しきりに耕平を急かせ立てていた。イサクの石つぶても、昼間なら威力も十二分に発揮できようが、昼と夜とではあまりに条件が違い過ぎた。いくらイサクが力自慢の剛腕でも、昼間ならともかくもこれが夜で、鼻を摘ままれても分らないような、闇だったら著しく条件が違ってくるのだ。だから、イサクが夜(いや、闇)を恐れるのは、獣が襲ってきたとしても、相手が夜の闇では手の施しようがないからだ。

「そうですよね…。ここから東の邑までですと、かなりの距離がありますからね…。……そうだ。もしよったら、今晩うちに泊まってもらえばいいんだわ。そうすれば、まだゆっくり狩りができますし、うちに泊まって明日の朝早くに、帰ればいいんだわ。

ねえ、そうしましょうよ。コウヘイさま、うちのお父も喜ぶと思うわ。きっと…、何しろ有名なコウヘイ邑長を泊めるんですもの。ウフフフ…」

と、タリアは勝手に決めつけるように言った。

「うーむ。オレたちは構わんが、きみのお父や家族とかが、迷惑するんじゃないのかね…」

「とんでもありません。有名な東の邑の、コウヘイ邑長を泊めたとあらば、うちのお父にも箔がつくというものですわ。ですので、そんなに気を使わずに、もっと気楽な気持ちで、休んで行ってください…」

 タリアに誘われて耕平は、ふいにイサクのほうを振り向くと、何かを言おうとした。

「おぉっと…、こごは何ぬも云わねえで、この娘っ子の云う通りに、今日ンところはひとつ、お世話になったほうが、いいんでねえべが…」

「何だ…。イサク、普段なら他所に泊まろうなんて、絶対に云いださないお前が、今日に限ってタリアさんのところに、泊まろうだなんてお前どうかしたのかよ。一体…」

「いや、おらは何でもねえだ…。見だ目ではハッキリとしたことが、わがんねえんだども、何ぬが困ったこどでも、抱えていんでねぇべがど、思っただげだ…」

 耕平はイサクに言われて、初めて気が付いた。いくら部落が近いからと言って、まだ裏若い十六・七の娘がたったひとりで、こんな誰もいない部落の外れまで、来るのだろうかという疑問であった。

 かつて山本が耕平を探しに来て、ウイラの姉のカイラと暮らし始めて、ライラが生まれた頃のことだった。カイラは邑の女たちと四・五人で連れ立って、山菜取りに出かけて行った折りに、カイラと邑の女が熊に襲われたと、一緒に行った女が血相を変えて、知らせに来たことを耕平は想い出していた。

『女だけでも四・五人で行ったのに、そのうちふたりも熊に襲われて、死んでしまったと云うのにタリアという、この娘は見ず知らずのオレたちを見ても、怖がる素振りも見せなかった。例え、未開の縄文人といえど、小さな子供ならいざ知らず、十六・七歳と言えばこの時代では、れっきとした大人のはずだ…。懸念に思った耕平は娘に訊いてみた。

「君はこんなところで、たったひとりで何をしていたのかね。まだ昼だからいいが、昼とは云っても、どこにどんな危険な獣が、潜んでいるか知れんのだ。それに武器も持たずに、こんなところにひとりでいたら、危険極まりもないところだぞ。よし、これからオレが君の邑まで、送って行ってあげるから、一緒に帰ろうか…。ついでにオレたちも、少しの間休ませてもらうから。さあ、行こうか…」

行き掛かりとはいえ、こんな若い娘をたったひとりで、置いておくわけにもいかず、耕平とイサクは娘を連れて歩き出した。

タリアの住んでいるという邑は、三人がゆっくりと歩き出して、さほど遠くないところにあった。

「何だ…。ほだぬ遠ぐねえどごさあったのが…。ほうすっと、やっぱスおらの勘(かん)違(ちげ)えだったのがな…」

 イサクは独り言のようにつぶやきながら、ふたりの後をついて行った。邑に着いた。なるほど邑はタリアがいうように、こじんまりとして戸数も十軒にも満たない、極めて質素で邑というよりも、タリアが言うように部落のほうが、シックリときそうな集落だった。

「ほら、ここがあたしの家よ。少し待っててください。いまお父がいるかどうか、見てきますから…」

 タリアは耕平たちにそう言い残すと、そそくさと家の中に入って行った。それから、少しの間時間が空いて、タリアの後からひとりの老人が出てきた。老人とはいっても、おそらく歳は耕平よりも若いのだろうと思われた。この時代の人間は平均寿命が短い分、身体のほうも老化が進むのが早いのだろうと考えられる。

 タリアの父親は耕平の前まで来ると、地面にペタリと座り込むと両手をついた。

「これは、これは。東の邑のコウヘイ邑長さま、こんな辺鄙な小さな部落まで、よくぞおいでくだされた。わしはタリアの父親で、ラシドと申します。どうぞ、お見知りおきのほどを…。あなたさまのような、高名な邑長さまに来て頂いただけでも、この部落ではひとつでもふたつでも、格が上がるというものでございます。さあ、さ。中に入ってゆっくりとお休みくだされ…」

 案内を請いながら建物に入ろうとしたが、床が普通の家より三倍ほど高いことに気づいた。如何してこんなに深いのかと、耕平が尋ねると冬は暖かいし、夏は涼しいからだとラシドは答えた。

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廻りくる季節のために 縄文に吹く風 佐藤万象 @furusatoha

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