第2話 モクロミ/最強の組み合わせを思いついた

○茶道部部室・居間(夕)


梨穂子

「うー……いいアイディア、出てこないねー……。」

「やっぱり、さっき私が考えたのが一番いい感じなんじゃない?」

「かくし芸で普通にお茶を点てたら、先輩たちもきっとびっくりすると思うんだよー。」


「《かくし芸になってない時点でダメ》? それは……そうかもしれないけど……。」

「じゃ、じゃあ、逆転の発想! お茶じゃなくてコーヒー出すのはどう?」

「……どこが逆転なのって言われると、私にもわかんないけど……。」


「はぁ……ほんと、どうしたらいいんだろ……」


   SE 立ち上がる音

   #主人公、こたつから出て窓に近づく

   SE 縁側の窓(引き戸)を開ける音


梨穂子

「どうしたの? 急に窓開けて。」

「《気分転換に、部屋の空気の入れ替えする?》」

「それもいいかも。部屋の中あったかくて、頭もぼーっとしてきたし。」


「私も縁側に出て深呼吸しよっかな。……ん? 縁側? 何か忘れてる気が……」


○茶道部部室・縁側(夕)


梨穂子

「あっ、そうだ! どてら! 干しっぱなしで取り込むのすっかり忘れてた!」


   SE 小走りする音

   #梨穂子、慌てて縁側に出て、干してあったどてらを取り込む


梨穂子

「あなたのおかげで、湿気っちゃう前に気づけたよ~。」

「……そんなに不思議そうな顔してどうしたの?」

「あ、このどてら? 演劇部のなんだ。」


「縁側でこたつ布団を干してたら、演劇部の子についでに干してほしいって

頼まれたの。」

「こたつ布団を先に取り込んじゃったから、どてらのこと忘れちゃってた。」

「ポカポカのまま取り込めてよかったー。ごめんね、どてらさん。」


「……へ? 《この組み合わせだ!》って、どういう意味?」

「私とどてらが組めば最強……?」

「もー! いきなりどてらが似合うとか言われても、あんまりうれしくないよー!」


「あれ? そういう話じゃないんだ?」

「えっ? どてらを使うかくし芸があるの? ほんと!? どんなの?」

「……二人羽織? なるほど、それがあったねー!」


「これぞかくし芸って感じだし、どてらさえあれば準備も楽だし……」

「私も良いアイディアだと思う!」

「やっぱり相談してよかった~! ほんとにありがとう!」


「けど、二人羽織するなら、一緒にやってくれる相手を探さないといけないよね。」

「《香苗さんに頼めば?》 そっか、香苗ちゃんかー……。」

「……できたら私……あなたと一緒にやりたいなーって……。」


「も、もちろん香苗ちゃんとやりたくないってわけじゃないよ!?」

「香苗ちゃんとだったら、たぶん上手にできると思う。」

「でも……あなたと一緒なら、もっともっと上手くいく気がするの。」


「だって、いつも私に力をくれるから。どんなことでも上手くいく、すっごい力を。」

「先輩たちの許可はちゃんと私がもらっておくから……ダメかな……?」

「《もちろんオッケー》? ほんとに!? ありがとう!」


「よかったー……これで合格間違いなしだ♪」

「《やる気満々だな》って? そりゃそうだよー!」

「なんてたってエゾバフンウニ味は――。」


「……あっ……えーっと……なんでもない、なんでもないよ? 気にしないで。」

「か、隠し事なんてないよー! あなたにはウソつかないもん!」

「……実はね、エゾバフンウニ味のポロツキーってけっこう高くて……。」


「お小遣いじゃなかなか買えないから、今まで食べてみたくても食べられなかったんだ。」

「そんなエゾバフンウニ味が食べられるチャンスだから」

「ついつい気合が入っちゃって……。」


「……《食い意地が張った理由が、梨穂子らしくていいと思う》?」

「それ、褒めてないでしょー!」

「自分が食べたいって理由だけで、やる気になってるわけじゃないんだからね?」


「珍しいポロツキーをみんなで一緒に食べてみたいなって思ったの。」

「(小声で)……それに、あなたと一緒に食べたら楽しそうだしさ……。」

「と、とにかく、絶対にエゾバフンウニ味はゲットしなきゃ!」


「だからテスト合格目指して、練習がんばろー! おー!」


   SE 小走りで走ってくる音

   #梨穂子、慌ただしく居間に入ってくる。


梨穂子

「ただいまー。演劇部にお願いしてきたよー。」

「しばらく使わないから、どてらは貸してくれるって。」

「お茶碗とお箸は茶道部のを使えばいいし、これで準備完了だね。」


「さっそく練習してみよ!」



《第3話へ続く》


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