36話  お残しを許せない

 道徳的に、お残しが許せないというより、お金を出して注文したものを食べ残すということをしたくない。


 バイキングでは皿に盛ったものは、もちろん、すべて食す。

 オレンジジュースを頼んだなら氷が溶けて、うすまったものも飲む。

 そもそも、若君が幼いときには、「氷なしで」とオーダーすることもあった。コップ半分くらいしか中身がないものを配膳されることもあった。

 

 近くのテーブルの人たちが退席すると、何気に残ったものを目でたしかめてしまう。


 御老人たちが、ハンバーグランチの付け合わせの野菜を、ほぼ残していたのに遭遇したときは仰天。

(自分の食べる量、把握できんの⁉ 年金生活なんでは? お金持ちか!)


 若い女性の二人連れが、互いにサンドイッチ一片とか残していると絶句。

(シェアしろ!)


 バイキングだと、(取ったもんは責任もって食べんか!)と、心で叫んでいる。


 そういうMの気持ちが若君の前で、だだ洩れていたのだろう。

 年端も行かない若君が、食べ残しまくって去って行った家族のテーブルを見て、

「見た目、いい感じの人たちだったけど、人としてのレベルは低いね」

と酷評したとき、親としての責任を感じた。


 時と場合によっては、お残しをする人にも、いい人はいると思うんだな。

 と、世を渡るすべを教えておこう。

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