Mさんの知らない世界

ミコト楚良

1話  テンプレ

 Mは、つまるところ現実逃避のため、ネット小説投稿サイトに登録した。

 

 ひっそりと活動することを指針としているが、反応をいただいたりすると、伝えたくなる「ありがとう」。

 だが、交流するのは早い。 

 ネットにて交わされる言葉、その言葉が、Mには、しばしばわからないからだ。

  


 ある年、Mにとって一大事な年だった。

 Mの家の若君は、受験生だった。ころなのせいで、ほとんど城(一般住宅)にいる若君。

 この若君を1年、ふぉろーしなければならぬ。

 それでなくても、「母上、わしは、しなりおというものを書いてみた。読んで」とか云う少年である。

三十路みそじの女の心理が書けていない」と、Mは、しなりお(A4紙の束)を少年に返した。


 若君は、文筆というものに憧れているようだった。

「ネットで小説を書いている友がいて、けっこう評判がよい」と言う。


 その頃、ネットを彷徨さまよっていると、やたら表示されるものに漫画広告があった。

 つい、Mは、ぽちっとして、その漫画を読んだ。試し読みした先が気になった。漫画の先ではなく原作が気になる。

 探したら、ほぼ一強、小説投稿サイトにたどり着いた。

 

 そういう原作を読むということを、日々の娯楽にして、ある日、Mは気づく。

「やたら、トラックにかれて〈転生〉しておる……」


 最初は、同じ人が書いた作品かと思った。

 トラックにかれて転生する、その〈導入部のアイデアが同じ〉なのはイカンというのが、Mの感覚だった。昔、それでボツくらって、とある時期にくじけているから。


「テンプレだから」と若君が言う。

「てんぷれ?」


 はい、出た。Mさんの知らない世界……。





〈告知コーナー〉『月と逃げる』 byミコト楚良

        https://kakuyomu.jp/works/16817139557273729884

        時代・歴史・伝奇カテゴリの短編

        姉の子供たちと城から逃げ出す女子のお話

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