第12話 未来への計算

マクレガー伯爵は考えた。

王都の騎士団にやるよりも、噂が届きにくい辺境に留め置いてその有能な魔法を使ってもらえば一挙両得くらいになるのではないか、と。


「騎士団のように華やかな職場ではないが、国境付近の魔物や隣国の動きに気を付けて国を守るお仕事なんだ。そのツバメを使ってくれると大いに助かるのだが…。」

「働いた分お給金がもらえるならどこでも大丈夫です」

「我が領地にも国境に近い場所があって、そこに駐屯地を設けているんだ。ミカエラが勤めてくれると嬉しいなぁ。ソーサラーだから勿論給金は弾むよ! 一人じゃ心細いだろうからローヴァンと行くと良い」


話を聞いて慌てたのはローヴァンだ。


「騎士団をやめろと言うのですか⁉」

「異動だ」

「所属も組織形態もまるで違います。異動にはなりません」

「ニコラスに(虚言も交えて)事情を話して休職扱いにし、復職が可能になるよう手配してもらう。それでいいだろう」

「僕は爵位が無いから王国所属の状態で武勲を立てて地位を築く必要があります」

「私の持つ子爵位の方をやる。そこから頑張れ」


決定事項で覆りそうもない。


「1人でも問題ありません。母が亡くなってから独りでやってきましたし。月義兄様を困らせたくありません」

「いや! ローヴァンの懸念案件は今解決したから困っていないよ! そうだな⁉ ローヴァン」


健気なミカエラを言いくるめようと脅しをかけてくる父の鬼気迫る顔に一瞬怯むが、ローヴァンはミカエラの前に来ると抱き上げ、あやすようにポンポンと軽く背を叩く。


「誤解しないでほしいのだけど、ミカエラと一緒にいるのが嫌なわけじゃないよ。次男の僕は家を継げないから立身出世が必要なだけ。ただ父上が爵位を譲って下さると今言ったからそこは解決したよ」

「…すみません」

「どうして謝るの? ミカエラは何も悪いことしていないだろう?」

「でも…月義兄様の人生計画が」

「騎士団で身を立てるより大分近道が出来たから逆に良かったよ。…それにミカエラのことは守ると言っただろう?」


ミカエラは躊躇いながらもこくりと頷いた。


「…やっぱりミカエラのことを子供だと思っているんじゃない?」

「あ」


苦笑するフレデリックの言葉で我に返ったローヴァンは、急いでミカエラを下ろした。




 辺境警備隊に就くことが大体決まったものの、当分の間はガヴァネスに外に出ても恥ずかしくない程度のマナーを習い、ローヴァンに魔法や剣を教わる日々だ。

フレデリックは害虫対策に向けて動いているので、しばらく教師役は休みとなる。


「辺境警備隊では内勤ではなく、外務になると思う」


ミカエラが剣筋を見てもらっている時にローヴァンが言った。


「ごめんな。本当は女性は内勤の方がいいと思うのだけど…僕と組んで動いていればあまり多くの人に関わらないで魔法や知識のことが漏れにくいだろうから」

「問題ないです。以前はよく薪や木の実取りに一日中歩いたりしてましたから」

「山歩きに慣れているのなら心強いな。一応ミカエラが偵察役で僕が攻撃役という登録になると思う。僕はあまり探索系が得意じゃないから」

「はい、分かりました。…あ、明日は授業お休みさせてください」

「構わないよ。ドレスの採寸?」

ひる義兄様がティーサロンへ連れて行ってくれるのです」


一瞬頭の中が真っ白になった。


「ああ…、そうなんだ。いってらっしゃい」


胸が痛いとかモヤモヤするとかではないが、ローヴァンは何だかひどくショックを受けた。

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