続・名前編(三十八・五)クリスパート
僕は、授業の後、お持ち帰りされて先生の部屋にいる。
シャワーを浴びてバスルームから出ると、僕の部屋に届く筈だった夕食を世話係の人が先生の部屋に持って来てくれていた。
僕は髪を乾かしてから、先生と一緒に夕飯を食べ始めた。
しかし、食べ終わったらデーザートが待っていると言う事で、僕の心は既にそっちに飛んでいる。
僕が甘い物が好きだと知ってから、先生はいつも部屋にお菓子を用意してくれるようになった。
先生は、なんだかんだ言って僕にすごく甘い。
許されるって分かっているから、僕はついつい先生をからかってしまう。
今日の授業で名前を呼べって言われた時もそう。
でも、あれはからかったと言うより、どう呼ぶべきか分からなかったというのが正しい。
先生の名前は、レイ・ウィルボーンと言う。
けれど、それは本当の名前ではない。
先生には元の名前があって、レイと言う名前は、先生がここに来て、新たに作られた戸籍上のものだ。
僕は、前の名前の頃の先生を知らないから、言われた通りに今の名前で呼べばいいのかも知れない。
けれど、レイという名前は嘘のような気がするし、元の名前は先生ではないような気がする。
先生は自分でも言っていたけど、新しい人生を歩む為に整形手術を受けた。
元の顔は、インテリっぽい感じの整った顔立ちをしていた。
けれど、今の先生は粗野な感じのする顔立ちで、体も鍛えたのかがっしりとしていて、見た目は全然違う。
それから、先生は、見た目に合わせて性格や口調も変えたから、今の性格は後付けだって言ってる。
確かに、僕は以前の先生を知らないけれど、今の方が本来の性格に近いような気がする。
変えたと言うより、隠す必要がなくなって、先生の奥底に眠っていたものが出て来ただけなんだと思う。
「クリス。お前はなんで俺の事を名前で呼びたがらねえんだ?」
「だから、僕にとって、先生は『先生』なんだよ」
「
「敬ってなくても、この呼び方が気に入ってるんだからいいんだよ」
「クリス! 今しれっと敬ってねえって言いやがったな!」
「だって、先生がそう言ったんじゃない」
「そんな事ばっかり言ってやがると、今日のデザートは食わさねえからな」
先生が、僕の弱点をついてくる。
今日のデザートは、きっとアイスクリームだ。
さっき、先生が氷を出した時に見えたから間違いない。
「卑怯だ!」
僕は抗議の声をあげる。
「じゃあ敬いやがれ」
「先生様、アイスをいただけないでしょうか」
「そんなもん、からかってるだけじゃねえか!」
しばらく、そうやって他愛もない話をした後で、先生は急に真剣な顔になった。
「お前が俺の名前を呼びたがらないのってあれか? 本当の名前じゃねえからか?」
先生は鋭いところをついてくる。
「どうだろう? そんな事、考えた事もなかった」
僕はそう言って、手に入れたチョコアイスをスプーンですくう。
「バレバレな嘘ついてんじゃねえよ」
先生はそう言うと、ベッドに寝っ転がった。
僕は何も言わないで、アイスを口に運ぶ。
これはこれで美味しいけれど、前にネットで見たアイスの方が美味しそうだった。
後で先生に取り寄せてくれるようにお願いしてみよう。
「クリス。無視してんじゃねえぞ」
先生は枕の上で腕組みをして、自分の頭を乗せる。
「今、食べるのに忙しい」
質問に答えない理由ではないけれど、僕にとって重要である事には違いない。
今この場での優先順位の第一位がアイスなのだから。
「取り上げるぞ」
先生は寝転がったまま言ってくる。
きっと、取り上げる気なんてないんだろう。
それに、今の僕には弱みなんて存在しない。
「残念。もう食べ終わった」
「クリス。なら、俺を前の名前で呼んでみろよ」
「嫌だよ。あれは僕の知ってる先生じゃない」
「じゃあ、なんで今の名前で呼びたがらねえんだよ」
僕はカップを捨てると、ベッドの脇に座って腕に
「ずっと言ってるじゃないか。僕にとって、先生は『先生』なんだって」
「だから、その理由を言えって言ってんだろ、くそラングレー」
僕はベッドに上半身だけあげて、先生に覆い被さるようにして言う。
「ルー」
僕がそう言うと、先生が驚いたように僕を見る。
「今、なんて言った? よく聞こえなかったからもう一度言ってくれ」
「嫌だよ」
僕はそう言って、先生から顔を背け、ベッドに突っ伏した。
「もう一回言えって」
先生はそう言って、僕をベッドの上に引きずりあげる。
「嫌だよ。今言ったら襲われる」
「言わなくても襲うんだから言えよ」
無茶苦茶な理論だ。
「ルイス・アシュリー」
それが、先生の名前だ。
今の先生には全く似合わない。
「フルネームより愛称の方を呼んでくれよ」
「もう言わない。二度と言わない」
僕がこれ以上言わないって気付いたんだと思う。
先生は僕の上に覆い被さると、服を脱がせ始めた。
それに、先生は興奮しているらしく息が熱い。
「クリス。愛してるぜ」
「知ってる」
僕はそう言って、先生の首に腕を回す。
「理性は飛ばさないでね」
「善処する」
僕は先生に深く口付ける。
甘いものが苦手な先生の口の中が、アイスで満たされるほどに深く。
「離せ! 確信犯か! もうデザートなんざ用意しねえからな!」
「じゃあ、僕が先生の部屋に泊まらないだけだ」
先生は悔しそうにしながら、僕の足を取った。
「いつか仕返ししてやるからな!」
「じゃあ待ってるね」
先生と遊ぶのはとても楽しい。
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