名前編(三十八)

 俺は授業の前に、ちょっとした提案をしてみる事にした。

「いつも『先生』って呼んでるが、たまには俺の事、名前で呼んでみろよ」

 名前呼びとか、ぐっと親密感が増した気がするだろ?

 そう思って提案したんだが、またクリスが訳分からねえ方向から返して来やがった。

「ウィルボーン」

「ブホッ」

 俺は予想していなかった呼び方に、むせちまった。

「違う! そんなもん、ファーストネームに決まってんだろうが!」

 こいつの天然な発言は本気で危険だ。

 まあ、天然と見せかけて十割計算だとは思うがな。

「レイ?」

「そうだ。今日の授業中は名前で呼べ」

 だが、大人しく名前で呼んだと思った俺が馬鹿だった。

「ウィルボーンは?」

 こいつ執拗しつこすぎだろ!

「違うって言ってんだろ、くそラングレー!」

「やめて。そんな呼ばれ方した事ない」

 俺が呼ぶと、クリスが全力で嫌がって来やがった。

 自滅とか珍しいな。

「じゃあクリストファーか?」

「それも嫌だ。今までクリス以外で呼ばれた事ないから、なんか慣れない」

 クリスが呼ばれ方くらいで、本気で嫌がるのが面白くて堪らねえ。

「じゃあ、クソガキはどうだ?」

「あ、それはある」

 からかってみたが、「クソガキ」はいいらしい。

 こいつの基準が分からねえが、まあ脱線しまくったのを戻す事にした。

「今日は一日、俺の事を『レイ』と呼ぶように」

「えー。『先生』って呼び方気に入っているのに」

「これは授業だ」

「ずるい! そう言えば許されると思ってるでしょ!」

「じゃあ、ラングレーって呼んでもいいか?」

 クリスは悔しそうに俺をにらみつけた。

「分かったよ。『レイ』って呼べばいいんでしょ」

 案外、素直に従ったな。

 どこまで「ラングレー」って呼ばれるの嫌なんだよ。

 大嫌いな親の名前だからか?

 まあ、俺は名前で呼んでもらえるならなんでもいいが。

「レイ。それで今日の授業はこの呼び方をすればいいだけなの?」

「まさか。それだけの訳ねえだろ」

 クリスがあからさまに嫌そうな顔をする。

 だが、そんな事は知ったこっちゃねえ。

「俺に犯されながら、ピンポイントで名前を呼べ」

 我ながらいい提案だと思ったんだよな。

 そうすりゃ、恋人みたいな気分が味わえそうじゃねえか。

 まあ、クリスに振られてる身としては、虚しいだけかも知れねえが。

「変態……」

「それは、俺にとっては褒め言葉だ」


 俺はクリスを台に寝かせると、早速、服を脱がせた。

「準備はいいか?」

「良くない」

 クリスはすげえ目で睨んで来やがるが、この表情が俺は堪らなく好きだ。

 何回もクリスに伝えてるんだが、学習してねえんだか、やめる気はねえらしい。

「拒否権はねえぞ」

 そう言って、俺はクリスの首筋に顔を埋めた。

「クリス。名前を呼んでくれよ」

 俺の方から言わねえと絶対呼びやしないだろうから、こっちから催促してやった。

「レイ……」

 クリスは、俺の名前を呼んじゃあいるが、イヤイヤ言ってるのはバレバレだ。

 俺としちゃあ、もっと色っぽく呼んで欲しい。

 だが、攻めたところで、こいつがまともに呼ぶとは思えねえ。

「気持ちを込めねえと、ラングレーって呼ぶぞ」

「レイ」

 俺が言うと、クリスは悔しそうにしながらも、少しだけ心を込めて言って来た。

「クリス……」

 俺が肌に手をわせて、股間や後ろを慰めてやる。

 その度に、いい感じのタイミングで俺の名前を呼ぶようになって来た。

 俺はそのまま足を取って、ピンポイントでクリスを攻めまくる。

「レイ……レイ……」

 クリスが可愛すぎて、もっといじめて名前を呼ばせまくってやろうと思ったが、俺が持ちそうにない。

「クリス。いくぞ」

 俺はそう言って、一回戦目を終了した。


 とりあえず、行為を終えてクリスを抱きしめていると、俺の腕の中で不服そうに声を上げる。

「でも、やっぱり『先生』がいい」

「なんでだ? 別にそこまで嫌がらなくていいじゃねえか」

 クリスは俺を見上げて口を歪めた。

「だって、先生は『先生』だし、この呼び方気に入ってるんだ」

「じゃあ、これから俺はラングレーって呼ぶが、いいんだな」

「ねえ。先生以外は『先生』って呼ばないから。僕の『先生』は先生だけだから」

 よく分からねえが、なんか可愛い事言って来やがったな。

 だが、この提案はちょっと俺の胸にキュンと来た。

「絶対に他の奴は『先生』って呼ばねえんだな?」

「うん。約束する」

「絶対に破るんじゃねえぞ」

「うん。破ったら、僕の事を好きに呼んでいいから」

 そこまで嫌う理由は全く分からねえが、特別待遇っていうのは悪くねえ。

「じゃあ、好きなように呼べよ」

「うん」

 なんか分からねえけど、可愛すぎて俺の理性が限界だ。

「もう一回、行くぞ」

 俺が二回戦目を始め、もうちょっとでいくってえ時に、クリスが言って来やがった。

「ウィルボーン」

 こいつ、すげえタイミングでぶっ込んで来たな!

 俺は吹き出しながら、いっちまった。


「ふざけんじゃねえぞ、この、くそラングレー!」

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