先生編(三十五・五)クリスパート
僕は先生に触られるのは好きだ。
ゴツゴツとした指が、少し乱暴に僕の体を
でも、時々優しく慈しむように。
先生に抱かれて、僕は初めて快感を覚えた。
けれど、性行為自体は好きにはなれない。
僕にとって行為はまるで地獄の中にいるような感じだ。
けれど、その間はなにも考えないですむし、相手に抱きついていれば苦しみも紛れる。
なにかから逃げたい時、誰かに救われたい時。
僕は抱かれる以外の方法が分からない。
「クリス」
先生は名前を呼ぶと激しく口付けて来た。
面倒だったので、舌を
すると、サボるなと言うように、先生が僕の髪を引っ張って来た。
まだ、この歳で
僕が先生に応えて舌を絡めていると、先生の股間が膨らんで来た。
長い口付けが終わると、僕は先生を
「変態!」
「何度も言うが、変態は俺にとっちゃ褒め言葉だ」
そう言うと、先生は僕の服を脱がせはじめた。
そして、服を脱がせ終わると、僕を台の上に寝かせた。
「堪らねえな」
先生はそう言って僕の体に舌を這わせる。
「先生も脱いでよ」
僕が言うと、先生はベルトをカチャカチャ言わせてズボンを脱ぎさると、上着のファスナーをおろした。
「子供の肌は暖けえな」
先生は僕にピッタリ体をひっつけたまま、棚の上のローションをたっぷりとって
時々、僕に刺激を与えながら、ゆっくりゆっくりと。
以前は雑だった行為が優しくなったのは、先生が僕を「人間」として認めたからなんだと思う。
しっかりと解れると、先生は上半身を少し起こして行為を始める。
先生の質量は僕には少し大きい。
「気持ちいいか?」
「頭になにか湧いてるの?」
僕は軽口を叩きながらも、先生の動きに合わせて動く。
先生が気持ちよくなるように。
先生との行為には、いつも感じる地獄のような印象はない。
それでも、はじめはいつも身構えてしまう。
そして、ああ、大丈夫なのだと安心する。
ずっと先生に抱かれていたら、僕の気持ちも紛れるのかも知れない。
だけど、先生がいない時に寂しくなると、僕は誰でもいいから相手をしてくれる人を探す。
別に、相手が乱暴だろうと、下手だろうとかまわない。
ただ、一時の感情を満たしてくれたらそれでいい。
「なに考えてるんだ?」
先生が僕の尻を叩いてくる。
僕が他の事を考えているのに気付いたみたいだ。
「次の先生への仕返しについて」
仕返しが怖いんだろう。
僕が答えると、先生が少し身構えた。
「ふざけんなよ!」
先生はそう言うと、激しく動き始めた。
刺激されて、快感が突き抜ける。
先生はそれに気付いたのか、僕の股間に手を伸ばす。
「後ろだけでいきそうじゃねえか。本当に感じてねえのか?」
「感じてないって」
「今にもいきそうだぞ」
先生は優しく扱いて、僕をいかせてくれた。
「どんな気分だ?」
「最悪の気分だよ」
「じゃあ俺も最悪な気分になってみるか」
先生は激しく動き始めた。
僕もそれに合わせて動く。
「堪らねえ」
先生はより激しく動いて、一回戦目が終了した。
「もう一回戦行くぞ」
ここに来た当初は、各授業の教師ともあまり話さないし、時々顔を出す社長ともそれほど話す事はなかった。
僕の世界は、教師と、社長と、僕が誘う人しかいなかった。
別に今までも孤独だったし、安全で快適な居場所があればそれだけで幸せだった。
でも、数ヶ月前に先生が話しかけてくれて、色んな話を聞いてくれて、なにかが変わった。
僕は先生から色々な物を貰った。
孤独から救ってくれて、行為の気持ちよさを教えてくれて、優しさをくれた。
こんなに沢山の物を先生はくれたのに、僕には返せる物がなにもない。
僕を愛してくれているのに、傷つける事しか出来ない。
もう、僕が返せるものなんて、この体以外なにもない。
こんな汚れた体でいいなら、先生には全て捧げてもいい。
そう、この命も全部。
だけど、先生の事は一生愛す事はないだろう。
先生と僕は、心の深いところがとてもよく似ている。
先生は自分に似ているから僕を愛し、僕は自分に似ているから先生を愛せない。
きっと、一生埋まらない溝なんだと思う。
「クリス、調子悪いのか?」
「先生が僕のどこを好きなのか考えてた」
「なんだ? また羞恥プレイか?」
先生が泣き言を言っているのは、僕が先生を振ったからだ。
それなのに、こう言う質問をする僕は本当に性格が悪い。
「きつい性格とか、無表情で人を殺せるところとか、頭が良くてえげつねえ策謀が得意なところとか、負けず嫌いなところだな。あと、顔と体だ」
「なんか褒められてる気がしないんだけど」
「まあ、そういうところがあるから好きになったんだが、それだけじゃねえぜ」
「聞かせてよ」
僕がそう言うと、先生は上から僕の顔を真剣な表情で見つめて来た。
「寂しがり屋で甘えん坊なところ。実は繊細で傷付きやすいところ。
「え?」
「お前は自分で思ってるよりいい奴だよ。いい加減、自分の事を認めてやれよ」
先生はぶっきらぼうに言い捨てると、照れ隠しのように無理やり体勢を変えた。
「先生! 無理!」
「無理じゃねえ」
先生は苦情を無視して、少し乱暴に僕を抱く。
「事ある毎に俺の黒歴史を引きずり出しやがって!」
そして、抗議するように激しく動いて、二回戦目が終わった。
そこで、終業のベルが鳴った。
でも、驚いた。
先生の目には、僕が優しい人間に映るらしい。
本当にその通りならいいのに。
僕は少し寂しくなった。
「先生、泊まっていっていい?」
「おう。泊まってけ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます