声編(三十三)

「お前、一回くらいあえぎ声出してみろよ」

 クリスに挨拶をしてから、苦情を言ってみた。

 これは、可愛い声を聞きたいという掛け値なしの下心だ。

「先生に言われて声出してるじゃない」

「演技はノーカウントだ」


 鳴けって言えば声は出すが、こいつのは全部演技だ。

 俺が執拗しつようにクリスの感じるところを攻めまくってると、時々声を噛み殺してるんじゃねえかって時がある。

 あの時に出したらどんな声になるのか、知りたくて仕方がねえ。

 今日はクリスが鳴くまで、授業で犯しまくるのもいいかもしれねえ。

 だが、快感が十倍になる注射を使った時にも、聞こえるかどうかの声しか出しやがらなかった。

 まあ、それでも堪らなくそそられた訳だがな。

 だから、本気の声は失神物の可愛さに違いねえ。

 俺はそれが、どうしても聞きたい。


「声を出さねえなら、快感を十倍にする注射をするが、どうする?」

「卑怯だ!」

 クリスが抗議して来たが、手段を選んでる場合じゃねえんだ。

「で? どっちがいいんだ?」

 聞いたら、クリスが考え込んじまった。

 だが、こんなもん声を出す一択だろ。

 注射は凶悪なほど快感が増す。

 それで、俺は頭がおかしくなる寸前までいっちまった。

 快楽をむさぼるというより、あれは凶器に近いもんがある。

 あんなもんをもう一度試すのは、俺は絶対にごめんだ。


「注射……」

 悩んだ挙句あげくにクリスが選んだのは、まさかの注射だった。

「本気か?」

「声を出す気はない」

 流石は負けず嫌いだ。

 演技では俺にバレるのが分かったんだろう。

 だが、そんなに喘ぎ声って聞かせたくねえもんか?

「時々、声が出そうなってる時あるだろ。あれを我慢しなきゃいいだけだぞ」

「我慢してない!」

 クリスは言い切ったが、嘘なのは抱いてる俺には一目瞭然いちもくりょうぜんだ。

「自分で選んだんだから仕返しは受付ねえぞ?」

 俺は一応クリスに釘を刺しておく。

 まあ、こんな事を言っても情け容赦なくやるんだろうがな。

「どっちを選んでも仕返しはするよ」

 クリスはきつい目で俺をにらみつけて来やがった。

 美人に睨まれるのはゾクゾクして堪らねえ。

 それだけで、俺の股間が膨らんで来ちまう。

 クリスはそれに気付いたのか、手元にあったペンを投げて来やがった。

 しかも、先端が俺の方を向くようにして、しっかり右目を狙って来た。

 危うく目に当たりそうになったが、なんとかその直前に叩き落とした。

「危ねえだろうが!」

「こんな事じゃ人間は死なないよ」

「失明したらどうするんだよ」

「先生は眼帯が似合うから問題ないね」

「眼帯は前にも聞いたが、似合うとかどうとかの問題じゃねえ」

 俺は必死で反論するが、クリス様はかなりお怒りのようだ。

 周りの温度が氷点下まで下がって、漂う気配は殺気を通り越して、最早もはや殺意だ。

「授業を続けるようなら、僕は全力で先生の玉を潰しにかかるけど、それでもいいの?」

「待てクリス。不能になるのはごめんだ!」

「不能以前に先生が機能停止すると思うけどね」

「冗談じゃすまねえからやめろ」

「だって本気だもの」

 こいつは会社の授業で人体の急所と攻撃の仕方を習ってる。

 習ってるだけならいいが、俺相手に実践されたらたまったもんじゃねえ。

 会社もこんな危ねえもん、クリスに教えるんじゃねえよ!

「で、先生。授業を続ける覚悟は出来たの?」

 こいつ本気で殺る気だ!

「まあ、あれだ。今日の授業は中止にしような」

 クリスは俺の言葉に、少し警戒を緩めたみてえだが、まだ殺気をしまっちゃいねえ!

 クリスは黒い笑みを浮かべると、台の上に置いていた俺の指の間に、さっきのペンを突き立てた。

「先生、自分の腕に注射を打とうか」


 まだ俺を殺す事は出来ねえだろうが、それでも命の危険を感じるほどの殺気は漂っている。

 こんなもん永久隔離だろ!

 で、牢屋に繋いで俺が犯しまくる。

 これで完璧のはずだが、今の状況は全く違う。

 ここで逃げたら、クリスはこの後ずっと俺をつけ狙うに違いねえ。


「注射を打たせていただきます」

 俺はクリス様にかしずくと、自分の腕に注射を打った。

「じゃあ、いじめてあげるね」

 黒い笑みを浮かべちゃあいるが、いつものクリスに戻っていた。


 俺はその後五時間、授業が終わっても、注射の効果が切れるまでクリスに犯され続けた。

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