学校編(三十)

 今日は体調がいまいちすぐれねえから、とりあえず、機械を使って拷問をしていた。

 すると、クリスがまた、訳の分からねえ質問をして来やがった。


「ねえ、先生。学校ってどんなところ?」

 このパターンで俺は毎回痛い目にあわされているから、どうしても身構えちまう。

 正直には答えたいんだが、どいう言う返しが来るか分からねえ。

 だからと言って、学校に行った事がねえクリスに、変な知識はつけたくねえ。

 それに、将来的に通う可能性もゼロじゃねえだろうしな。

 だから、悩んだ末に無難な答えを選んだ。

「勉強するとこだよ」

「それは知ってる」

 まあ、そうだよな。

「愛や友情が生まれるって聞いたんだけど、そうなの?」

 なんだ?

 今度は学園ドラマでも見たのか?

 確かに言ってる事に間違いはねえが、クリスがまともに理解してるのかあやしいもんだ。

 変に偏った知識を植え付けられてねえか、心の底から不安になる。

「まあ、そういうのもあるが。なんだ? ドラマの影響か?」

「学園モノの恋愛漫画」

 俺の想像とちょっと違ったらしい。

「お前、漫画も読むのか?」

 それに、クリスが神妙な面持ちでうなずく。

「昨日はじめて読んだんだけど、それが学園モノだったんだ」

 俺の偏見かも知れねえが、漫画ってえのはドラマ以上になんでもありな気がする。

 クリスが変な漫画を読んでねえ事を願うぜ。

「お前が読んだのって少年漫画か? それとも少女漫画か?」

 クリスは不思議そうに首をかしげる。

 仕草は絶妙に可愛い。

 だが、こう言う仕草をした後のクリスは、怖い事を言い出す可能性が高い。

 俺が身構えていると、クリスがよく分からねえ方向から答えて来やがった。

「同人誌」

「なんだそりゃ?」

 俺は漫画自体あんまり読むほうじゃねえから知らねえが、そういうジャンルもあんのか?

「自費出版なんだって」

「そんなんがあるんだな」

 クリスはそう言う本をどこで見つけて来るんだ?

 まあ、電子書籍ってえのもあるしな。

 そういう本もネットに出回ってるのかも知れねえな。

「そう。それで、僕が見たのは十八禁のウェブ漫画だったんだけど……」

「待て!」

 俺は全力で突っ込んだ。

 そもそもクリスは十八才になってねえんだから、読んじゃいけねえ本だろ!

「お前の年齢言ってみろ!」

「九才」

 しれっと答えやがった。

「読めるようになるまで、お前の年齢の倍あるじゃねえか!」

 年齢指定があるもんは、その年齢に達するまで見るんじゃねえ!

 俺にとっては、クリスがエロビデオを見たくれえの衝撃だ。

「先生の個人データを使って読んだ」

「俺の使うな!」

 色んな意味でアウトだ!


「で、それがBLってジャンルだったんだ」

「なんだそりゃ?」

 はじめて聞く単語だ。

「ボーイズラブって言って、男同士の恋愛を扱うんだって」

 なんか雲行きがあやしくなって来たな。

 十八禁ならエロいシーンもあるんだろうしな。

「それで、僕が読んだのは主人公総受けってやつでね」

「お、おう」

「ほとんどの登場人物が主人公狙いで、学校の中で襲われてて……」

「お……?」

 襲われるって、強姦とかそういう意味だよな?

 どういう設定だ?

「学校って凄いところだなって思ったんだ」

「待て! それはフィクションだ!」

「え? 違うの?」

「少なくとも、俺はそんな学校には通いたくねえ!」

 クリスが目をまん丸にしてやがる。

「先生も同級生とか襲ってたんじゃないの?」

 ちょっと待て!

 俺の理解力が追いつかねえ!

「襲ってねえし、襲われてもねえよ!」

 両方否定しとかねえと凄い返しが来そうだから、俺は先手を打っておいた。

「じゃあ教師を襲ったの?」

「俺は年上には興味ねえし、教師なんて襲う訳ねえだろ!」

 俺は自爆した気がした。

「やっぱり先生ってぺドだったんだね!」

「違う! 何度も言うが俺は小児性愛者じゃねえ!」

 来ると思ったんだよな。

「でも、学生時代に恋愛はあるんでしょ?」

「ああ、同級生とか後輩の女とな」

 こいつの想像力がやべえから、自爆しねえように言葉を選ばなきゃいけねえ。

「付き合ったりしたの?」

「ああ、そういう事もあったが、それがどうした?」

 自慢じゃねえが、俺だってモテてた時代はあるんだよ。

 今じゃあ整形して無難な顔になっちゃあいるが、整形前は見た目は悪くはなかったしな。

「ふうん。じゃあ、その子が襲われそうになるのを助けたり……」

「だから、学校を乱交の場にするんじゃねえよ!」

 そう言う事もねえ訳じゃねえだろうが、少なくとも俺には関係ねえ世界だ。

 俺が全力で否定してると、クリスがこっちを不服そうに見て来やがった。

「ねえ、学校ってどういうところなの?」

「だから、勉強するところだって言ってるだろうが!」

「だから、それは知ってるって!」


 これ以上、学校をあやしい場所にされたくねえ。

 俺は必死で学校でありそうな事を考えてみる。

「他は、部活したり、運動会や修学旅行なんかのイベントをしたりするぐれえだ」

 俺は部活なんざした事ねえけどな。

 あ、それも付け足しとくか。

「俺は部活はしてなかったがな」

 クリスがなにやら考え込んでいやがる。

 なんか、怖いな、おい。

 俺に友達はいなかったし、友情とか言われるのも怖いんだよな。

 そう考えてると、また俺の予想を上回る質問が来ちまった。

「じゃあ、先生はそこで殺人を習って実際に殺してみたの?」

「学校には殺人の授業なんてねえし、学生時代には殺してねえよ!」

「じゃあ、なにをしていたの?」

「だから、勉強だって言ってんだろ!」


 クリスの相手をしてると熱が出そうだ。

 こいつの口を塞ぐ拷問方法を真剣に考えねえといけねえな。

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